【連載】日銀ウオッチャー藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
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日本経済が景気後退に陥っているのは、火を見るよりも明らかである。先行きについても、新型コロナウイルス問題が完全に終息しない限り、飲食、観光、イベント、スポーツといったサービス業の苦境は続くと見られ、長期戦の覚悟が必須の状況にある。このように民間の経済活動が制限されている以上、おのずと政府と日銀の果たす役割は大きくなる。そこで本稿では景気刺激策の大枠を整理しつつ、日本銀行の金融政策について考えてみたい。
景気刺激策の手段は「財政政策」だけじゃない
目下、日本経済は窮地に立たされている。実質GDP(国内総生産)成長率は、消費増税のあった2019年10~12月期にマイナス7.2%と大幅なマイナス成長を記録した後、1~3月期もマイナス成長になったと見られる(1~3月期GDP速報〈1次速報値〉は5月18日公表予定、第一生命経済研究所の予想はマイナス4.3%)。
そして4月以降、東京を含む大都市における経済活動自粛によって一段の落ち込みが確定的な状況にある。当社は現時点で4~6月期GDPがマイナス16.5%と記録的落ち込みになると予想している。
こうした状況を受け、日本としてはあらゆる景気刺激対策を検討している。景気対策は、「政府の財政政策」、「日銀の金融政策」に大別される。
財政政策とはインフラ整備などに代表される公共投資や企業・家計に対する減税措置、家計への給付金支給などが代表的である。
もう一方の金融政策は、日銀による無担保コール翌日物金利(短期金利)の操作を通じて世の中に出回るお金の流通速度や量を調節し、経済活動に影響を与える方法だ。
日本は1999年以降、大半の期間(2000年代半ばの一時期を除く)においてゼロ金利政策を採用しているため、翌日物金利の操作を通じたオーソドックスな手段は長らく用いられていないのだが、通貨供給量のコントロールなどを通じて経済を動かすという基本的な枠組みは現在も変わらない。
さて、冒頭で示した通り、現在の日本経済は深刻な問題に直面している。政策総動員が求められているのは言うまでもないが、景気刺激策を巡っては、もっぱら“政府の財政政策”が注目(≒批判)されており、“日銀の金融政策”はあまり話題になっていない。リーマンショック時に「日銀の行動が遅い!」との批判が起こり、国会でも、やり玉に挙げられていたのとは対照的である。
それでは、なぜ金融政策をつかさどる日銀への関心が薄れているのだろう。この素朴な疑問を考えてみたい。
新型コロナに金融政策は効くのか
日銀の動向に注目が集まらない理由として、第一に新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動の縮小は金融政策では解決し難いという点が挙げられる。
90年代のバブル崩壊のように、人々の経済活動の過熱の結果として生じる景気後退局面では、委縮した銀行などの金融仲介機能に対し、中央銀行がテコ入れすることで貸出の増加を促し、その敗戦処理をすることができた。
しかし、現在のように人々の経済活動が制限されている状況では、企業による設備投資や雇用拡大などをはじめとした前向きな資金需要は極めて限定的であるから、銀行貸出の増加を促すというルートで景気を刺激することは難しい。
日銀ができることは、資金繰りに苦しむ企業向け融資を増加させる銀行に対して、日銀が実質ゼロ金利で資金供給を行うという間接的支援くらいである(これは「貸出増加支援資供給」と呼ばれる)。
第二に、日銀にはもう効果的なツールが残されていないという点が挙げられる。日銀は政策金利の下げ余地が少ない、いわゆる「ゼロ金利制約」に直面して以降、様々な「新薬」を投入し、金融市場のコントロールに努めてきた。しかし、もはや常識的な新薬の開発は限界に到達しており、最近では副作用の強い薬が多くなっている。
現在、日銀が実施している金融政策の基本的な枠組みは「金利」「量」「質」の3本柱の操作を通じた政策をとっているが、追加的な手段は限られている。ここからは、3本柱の大枠と現状を確認していく。
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