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2020年11月、セールスフォースによるSlack買収が発表された。その額は277億ドル(約2兆8850億円)。コロナ禍でリモートのコラボレーションという働き方がますます受容される今、米国では「この買収は成功する」とする見方と、「両社の特性は違い過ぎるため失敗する」との見解が対立している。
「Slackはセールスフォースの新しいOS」と自信
セールスフォースは従来から、業務アプリケーション連携ミドルウエアを販売するMuleSoftやデータの視覚化ツールを提供するTableauの買収を通して、本業であるCRMの強化を図って来た。
今回の買収を通して、セールスフォースのエコシステム内で提供されるマーケティング、カスタマーサービス、データビジュアライゼーション、ワークフローなどの別々のサービスにSlackを介在させることにより、シームレスな統合が可能になるだけでなく、コラボレーションや承認、顧客とのやり取りがさらに容易になる。
社内チームや得意先が地理的に分散していても、コロナで在宅となっても、Slackを仕事の中心に据えることで非対面型取引の可能性が拡がる。まさに、ポストコロナ型の戦略であると言えよう。
セールスフォースのマーク・ベニオフ最高経営責任者(CEO)はアナリスト向けカンファレンスで、「この買収案件は、ゲームチェンジャーであり、スーパーチャージャー(過給機※エンジンに空気を送り出力を上げる装置)だ」と胸を張った。
ベニオフ氏はさらに、「Slackのエンタープライズ顧客の 90%超はセールスフォースの企業顧客と重複しており、弊社の数万のセールス要員がSlackをハブとしたコラボレーションの可能性を売り込んでゆく」「Slackはアプリ統合に優れており、『Tableau』や『Zoom』との統合をすれば、セールス・サービス・マーケティング部門の垣根を超えた無限の可能性が拡がる」「われわれは新しい働き方と成長のためのオペレーティングシステム(OS)となり、顧客の行動を変容させられる」と意気込む。
マイクロソフトにはできない「コラボレーションの民主化」
では、ベニオフ氏が自画自賛する統合型の「新しいOS」は、具体的にどのように仕事の複雑さを減らし、パワーと柔軟性を高め、より高度な調整と組織の俊敏性を実現するのだろうか。ベンチャーキャピタルの米イマージェンス・キャピタルのゼネラルパートナーであるジェイク・セイパー氏は、「コラボレーションの民主化」をキーワードとして挙げる。
従来のソフトウェアは、セールスパーソンやデザイナーなど、特定の仕事に従事する「人」を念頭に開発されてきた。しかしセイパー氏によれば、Slackを中心に統合されたセールスフォースのクラウド製品群は、プロダクトマネージャーからエンジニア、マーケターからデザイナーに至るまで、多くの関係者が協働するひとつの「ジョブ」を念頭に再編されたディープコラボレーション型に生まれ変わるのだという。
これにより部署の垣根が取り払われ、多部署のコラボレーションによる新たな責任の形が実現すると同氏は論じる。そのカギは、アプリ間をシームレスに行き来できる起点コミュニケーションツールであり、アプリ切り替えの手間と時間を撤廃できるSlackだ。つまり、「情報の断片化」の修理屋として、Slackは機能するのである。
セイパー氏は、「ライバルのグーグルが提供する『Google Docs』や、マイクロソフトの『Office』およびTeamsは、過去数年間に素晴らしいコラボレーション機能を追加してきたが、いかんせん一般的過ぎる、非ジョブ型の機能しか提供できない。たとえば売り上げ予測に『Excel』やグーグルの『Sheets』(スプレッドシート)を用いようとしても、高度なバージョンコントロールや承認、コラボレーション向けプラニングモジュールが欠けている」と指摘する。
セールスフォースのSlack買収は、上記のようなタイプの「コラボレーションの民主化」を可能にするのだという。
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