• 2008/01/09 掲載

破壊的トレンドを見極めるには定点観測で現象下の大きな流れをつかめ

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ITの進化を支える新技術には従来の延長線上にある「持続的技術」と、従来とは価値基準が異なる「破壊的技術」がある。ビジネス・イノベーションを実現するには、破壊的技術が生み出すトレンドをいち早くキャッチアップすることが重要だ。昨年12月22日に刊行された『ウェブを変える10の破壊的トレンド』はそのための情報が満載。米国の最新動向が豊富な事例とともに紹介されている。破壊的トレンドの重要性や企業が今後進むべき方向性などについて、著者の渡辺弘美氏に話しを聞いた。

米国駐在の経験を活かし
最先端動向をビジネス視点で紹介

渡辺弘美氏

『ウェブを変える10の破壊的トレンド』著者
渡辺弘美氏(わたなべひろよし)

2007年6月まで日本貿易振興機構(JETRO)
ニューヨークセンターにおいてIT分野の調査
を担当。インターネット、ITサービス、セキ
ュリティ分野などの動向を毎月まとめた
「ニューヨークだより」はIT業界関係者の注
目を集めた。現在、日経ビジネスオンライン
にて『渡辺弘美の「IT時評」』を連載中。
近著(共著)に『セカンドライフ創世記』
(インプレス)がある。
東京工業大学卒。福岡県出身。
http://web.mac.com/hiroyoshi.w/
―最初に今回出版された『ウェブを変える10の破壊的トレンド』を執筆するに至った経緯をお聞かせください。

渡辺●
もともとは2004年6月から2007年6月までの3年間、日本貿易振興機構(JETRO)ニューヨークセンターでIT分野の調査を担当していたことがきっかけです。
 最初の2年間は主にセキュリティ関連やエンタープライズのSOA動向などを中心に調査を行っていました。その後、Web2.0に代表されるようにコンシューマに近いレベルでのテクノロジーの進化が注目されるようになり、それを企業が積極的にビジネスに取り入れ、活用する動きが目立ってきました。企業内でのSNSやブログの活用などがいい例でしょう。いわゆる「ITのコンシューマ化」です。コンシューマのテクノロジーがエンタープライズへ広がっていくという新しい流れが生まれつつあるのを感じ、後半の1年間は主にITのコンシューマ化に関する最先端の動きを調査していました。

 そして帰国直前の2007年6月に米国で講演させていただく機会があり、これまでの調査結果の中から注目すべきエマージング・テクノロジー(革新的技術)を「破壊的トレンド」としてまとめたものを紹介しました。また帰国後も何度か講演させていただく機会があったのですが、講演を聞かれた多くの方が破壊的トレンドに対して非常に驚かれていたんですね。そうした反応から日米のギャップを痛感しました。そこで、2007年7月から「破壊的トレンド(http://hiroyoshi.wordpress.com/)」というブログを立ち上げ、米国で調査した最先端動向に関して情報発信を始めたのです。「ウェブを変える10の破壊的トレンド」は、このブログの内容をベースに加筆・修正したものです。


―貴書を拝読した印象として、新しいテクノロジーやトレンドがビジネスにどのような影響を及ぼすか、企業としてそれをいかに受け止めるべきかといったビジネス視点を非常に重視されていると感じました。

渡辺●
長くビジネス界を俯瞰してきた経験から、実際にビジネスに携わる方々がどういうメッセージを求めているかは理解しています。技術者ではないので、テクノロジーの解説をするつもりはありませんでした。それがどのような意味を持つのか、そして、それにどう対処すべきなのか、実際のビジネスに参考になるように留意して執筆しました。特にネット業界やIT業界の企画部門、トレンドウォッチャー、経営層の方々を強く意識しています。


断片的な情報は意味をなさない
情報を体系的に理解することが重要

『ウェブを変える10の破壊的トレンド』
―貴書では破壊的トレンドの説明にあたって、事例などを豊富に掲載しています。それを調べるだけでも大変だと思うのですが、情報の収集や調査はどのように行っているのですか。

渡辺●
毎日2、3時間は時間をとって、500~600の記事に目を通しています。すべてを熟読するわけではなく、見出しだけ追うようなものもありますが、気になったものがあればブックマークしておきます。紹介している事例はその積み重ねですね。

 毎日膨大な量の情報に接しますが、その中から大きな流れを汲み取ろうという問題設定をしながら情報に接することが大切だと思います。1つのことを知っているだけでは、単なる情報オタクにすぎません。情報は重要ですが、それが断片的なものでは、あまり価値はないからです。さまざまな現象の下に潜んでいる流れをつかむことが大切なのです。そうすれば、新しいニュースに触れたときも、つながりがわかり、情報を体系的に理解することができます。


―貴書の中では破壊的トレンドをいち早く取り入れる大切さを訴えています。しかし、これから出てくる新しいテクノロジーの中から何が破壊的トレンドになりうるか、それを見極めるのは簡単ではありません。ITのテクノロジーがめまぐるしく変化する中で、破壊的トレンドを見極める“目利き”の能力を高めるにはどうすればいいでしょうか。

渡辺●
先ほど申し上げたように毎日500~600の記事に目を通していますが、最初の頃は膨大な情報をうまく咀嚼できず、訳がわかりませんでした。しかし、アナリストの解説や示唆に富んだブログを読んだり、さまざまなカンファレンスに参加して識者の意見を聞いたりしているうちに、断片的な情報の理解だけでなく、その下にある大きな流れのようなものが次第に見えてくるようになりました。

 ある人の経験談ですが、その方はある時期からウォールストリート・ジャーナルの一面の記事を仲間と輪読することを始めたそうです。最初のうちは断片的な情報でしかありませんが、それを3カ月ほど続けていくと、世界の経済・金融業界で今何が起きようとしているのかが次第に見えてくるようになったといいます。

 とはいえ、多くのビジネスマンは日々の仕事で手一杯で、余裕をもってアンテナを高く張るのが難しいのが現状でしょう。しかし、そうした中からたとえ少しずつでも時間をつくって定点観測を続けることが重要です。組織であれば、何とか人をやりくりして、トレンドウォッチを業務として任せるのも1つの手だと思います。いずれにしても、漫然と情報に目を通すのではなく、問題設定をした上で定点観測を行うことが大切なのだと思います。

 それを続けていくうち、次第に大きな流れがつかめてくると思います。その中で、これまでの思考パターンにないような情報、これは何だと思えるようなものに出くわしたら、要注意です。破壊的トレンドの萌芽は、そういったところに潜んでいることが多いからです。


日本発の破壊的トレンドとして
携帯電話の進化に期待

―紹介されている破壊的トレンドは米国発のものが中心ですが、日本から世界に向けて発信できる破壊的トレンドとして期待しているものはありますか。

渡辺●
モバイル分野、特に携帯電話のサービスには期待していますね。米国では携帯電話はあくまで電話であって、外出先での通信手段はブラックベリーなどのモバイル端末を使い分けているケースがほとんどです。しかし、日本では携帯電話にその機能が集約されており、米国にはないユニークなサービスがたくさんあります。携帯電話だけで空港や鉄道のチェックインもできますし、自動販売機でも使えます。ワンセグも観られますし、ゲームを楽しむこともできます。日本では携帯キャリアがプラットフォームを比較的オープンにしたため、多くのサードパーティがさまざまなコンテンツを提供し、進化してきました。オープンにすることで多くの人の知恵やアイデアを活用したエコシステムを形成することができました。携帯電話はその典型と言えるでしょう。実際、米国では日本や韓国の携帯電話に対して非常に高い関心を寄せています。

 しかし、ユニークさは一歩間違えるとひとりよがりなものになりかねません。通信には各国の歴史があるので、日本のものをそのまま海外に展開しても受け入れられないかもしれません。グローバルな視点で世界に通用するサービスにしていく必要があるでしょう。


―これからは世界を意識したビジネスが重要になってくるわけですね。

渡辺●
そう思います。今後は少子化の影響もあり、日本の人口が減少していくことが懸念されています。当然、マーケットも縮小していくので、企業の存続を考えたら、グローバルな展開は避けて通れない課題です。特に若い人たちは積極的に海外に出て行き、活躍の場を広げてほしいと思っています。何も日の丸を意識しろと言っているのではありません。日本だけにこだわらず世界に目を向け、もっと広いフィールドで自分の力を試してほしいのです。それが日本のビジネス界の発展にもきっとプラスになると思います。


―1月23日(水)に開催される『ウェブを変える10の破壊的トレンドとは』出版記念セミナーでは渡辺様にご講演いただきます。最後に講演でのポイントや来場される方へのメッセージをお願いします。

渡辺●
講演では「ウェブを変える10の破壊的トレンド」で取り上げている事例のいくつかを実演を交えて紹介する予定です。破壊的トレンドとはどういうものなのかを文章や言葉だけでなく、視覚的に訴えていくつもりです。ご期待ください。

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