「投資を伴うITコスト削減」には柔軟な投資回収期間の設定と総合的な議論が不可欠--あずさ監査法人 森本正一氏(2/2)
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コスト削減額以外の副次的な効果とリスクへの配慮
「どういう基準でコスト削減額を設定するのか、あるいはコスト削減に必要な投資をどうやって承認していくべきかは、じつは非常に難しい問題です。現実に、コストがこれだけ削減できるという理由だけで投資の意思決定が行われがちではあるものの、IT投資には金額に換算できる効果だけではなく、定性的な効果やリスクを考慮する必要があります。たとえば、クラウドや仮想化を用いてIT基盤を変えたり、自社の運用業務をアウトソースしたりする場合、組織のあり方や仕組みを抜本的に変えていくことになりますから、ITの活用方法、ITを活用するユーザー部門の役割、さらには全社的な人材育成や採用などへの影響も、慎重に検討する必要があります。」
ただし、投資を伴うコスト削減においては、金額だけが一人歩きしがちなのも事実である。その危険性について、森本氏は自身の体験から次のように説明する。
「実際に、全社的な基盤の入れ替えを行うプロジェクトに関わった際に、コスト面での検証だけでなく、経営戦略上のメリット、将来のITの組織への影響など、ビジネス上のリスクなども検討して、アドバイスを行いました。ところが、コスト削減額をシミュレーションすると、その数値にだけ注目が集まってしまい、コスト削減額を上回らない範囲での投資の話しかできない雰囲気が醸成されてしまいました。本来、コスト削減額に制限されることなく、大胆にビジネスの根幹を変えていく議論をすべき場面で、コスト削減額が関係者の議論あるいは思考のフレームを狭めているケースがありました。」
コスト削減における戦略と経営の関与
森本氏によれば、ここにきて、目の前のコスト削減に追われていた企業にも、変化の兆しが感じられるという。
「最近は、将来の景気回復局面を見据えた『前向きのIT投資』を検討する企業が増えてきたように感じます。具体的には、先ほど申し上げた投資を伴う活動により構造的なコスト削減に取り組むケースや、経営情報の把握を迅速化したり、経営の意思決定を早めたりするための仕組みを構築したいといった声を、多く聞くようになりました。」
依然として厳しいとはいえ、ようやく明るさも感じられてきたいまこそ、「投資を伴うITコスト削減」についての議論を深める絶好のタイミングとはいえないだろうか。
(取材・執筆 井上健語)