- 2024/09/06 掲載
アングル:針路失う銀行株、利上げペースに不透明感 回復になお時間
[東京 6日 ロイター] - 「金利ある世界」への転換で、強い動きを見せていた銀行株の基調が弱まっている。日銀が利上げフェーズに入ったものの、8月上旬の株価急落を受け、そのペースが推し量りにくくなっているためだ。海外比率の高いメガバンクの一角は、円高がマイナスとなる「輸出株」と類似する株価の動きも観測されるなど、読み筋は複雑化。高利回りで長期的には買いとみる声もあるが、株価の回復には時間がかかるとの見方も根強い。
<急落からの戻りで劣後>
8月上旬の株安局面で銀行株は、日経平均やTOPIXといった指数よりも売り込まれた。8月5日までの3営業日で業種別の銀行は28%下落。同期間の日経平均の20%安、TOPIXの21%安を上回る下げとなった。国内金利の低下や米景気悪化懸念で、とりわけ銀行株の売り圧力が強まったためだ。日経平均は今月に入り、8月の急落分を一時奪還したが、銀行株は急落前の水準には戻れなかった。
マーケットの波乱を受け、日銀の内田真一副総裁が「金融資本市場が不安定な状況で、利上げすることはない」と火消しに回ったことも、銀行株にとっては、むしろ先行きを不透明にさせている。
マーケット参加者からは「日銀の利上げペースを読むのが一段と難しくなり、銀行株は居所を探っている状況」(東海東京インテリジェンス・ラボのシニアクレジットアナリスト兼シニアアナリスト・中川隆氏)との意見も聞かれる。
<「輸出株」化するメガバンク>
特にメガバンクは、金利動向に加えて、為替にも左右される展開が続くとみられている。GCIアセットマネジメントのポートフォリオマネージャー・池田隆政氏は、メガバンクは「輸出関連株化」している面があるとみており「ドル/円に連動した動きが続くのではないか」と話す。
三菱UFJフィナンシャル・グループの経常収益ベースの海外比率は、2014年の40%に対し、2023年は56%に高まった。一方、同社の株価とドル/円を過去半年の20日リターンでみると0.67と一定の相関が認められる。
このため「米利下げ観測の高まりなどで急激に円高に振れた場合、メガバンクの方が地銀と比べて売られやすくなるとみられ、注意が必要」(SBI証券のシニアアナリスト・鮫島豊喜氏)という。
同じ銀行セクターでも個別企業によってパフォーマンスの差も見受けられ、目先はマクロより、ミクロの材料がより重要との意見もある。
SBI証券の鮫島氏は「銀行セクターが一緒くたに買われるというよりは、ROE(自己資本利益率)が高く収益性が見込める企業や、株主還元を強化している銘柄が選好されるのではないか」と話し、選別が進むとみている。
年初来の株価の推移をみると、住信SBIネット銀行が97%上昇、楽天銀行が52%上昇するなどROEの高い銘柄の上昇が目立つという。楽天銀行のROEは12%、住信SBIネット銀は17%で、三菱UFJ(8%)、みずほフィナンシャルグループ(7%)など大手行に比べて高い。
<金利にらみ継続>
市場では、日銀の金融政策は利上げの方向と意識されており、「中長期的にはさほど(銀行株を)悲観的にみる必要はないのではないか」(三菱UFJアセットマネジメント・チーフファンドマネジャー・石金淳氏)との見方も聞かれる。
日銀高官のタカ派寄りの発言などで利上げへの思惑が高まる局面では銀行株が買われる流れは変わらないとして「金利にらみの展開は続きそうだ」(T&Dアセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト兼ファンドマネージャー・浪岡宏氏)とみられている。 配当利回りに目を向けると、銀行セクターは東証33業種のうち11位につけており、高配当の部類とされる。「個人投資家からの人気も高い業種なので、中長期でみれば買いでいいのではないか」(いちよし証券の投資情報部・銘柄情報課課長、及川敬司氏)との指摘がある。
もっとも、市場では「本当に景気が良くなり、インフレ環境が強くなるようなら買い戻しもあり得るが、足元ではそこまで織り込みにくい」(東京海上アセットマネジメントの若山哲志株式運用部シニアファンドマネージャー)との声もある。メガバンクなど一部の銘柄では信用買い残が積み上がり、需給面の懸念も残っている。
足元では米景気動向や米大統領選、国内の政局など不透明要因も多い。日銀の利上げパスへの見方も定まりづらく、いちよし証券の及川氏は「これらの先行きがみえてくるまで、積極的な買いは入りづらい」と話している。
PR
PR
PR