- 2024/08/26 掲載
アングル:上昇に転じた人民元、中国当局が水面下で「スピード調整」
人民元は8月に入り対ドルで1.3%上昇。今年前半の下落分をほぼ帳消しにし、23日の週で5週連続の上昇となった。
元上昇の背景にあるのは、米連邦準備理事会(FRB)利下げ観測によるドル安や円高。中国国内の景気低迷と資本逃避といったファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は変わっていない。
中国当局は元の急騰を防ごうと水面下で動いている。元が大幅に上昇すれば、脆弱な国内金融市場が混乱し、輸出業者が打撃を受けかねない。当局は圧力の度合いを測るため市場を調査し、一部銀行の金輸入や元建て取引の制限をひそかに緩和した。
ナティクシスのアジア太平洋地域シニアエコノミスト、ゲイリー・ング氏は「政府はおそらく為替市場の下落はさほど懸念していないが、変動は引き続き警戒している」と述べ、「米連邦準備理事会(FRB)が最終的に利下げして元への圧力が和らぐだろうが、資本フローに突発的で大きな動きが起こる可能性がある」と指摘した。
人民銀行が重大な懸念要因の一つが、2023年初頭からの元安基調の中で積み上がった元のショートポジションだ。元が急上昇すれば、このショートポジションの急速な巻き戻しが起こる可能性がある。
マッコーリー・グループのアナリストは、輸出業者と多国籍企業が22年以降に蓄積した外貨は5000億ドルを超えると推定する。
JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル市場ストラテジスト、Zhu Chaoping氏は「元上昇で、元キャリートレードの解消や金融市場へのショックに対する懸念が高まることが予想される」と述べ、「最近の日本市場の不安定さが、政策責任者にこれらのリスクを認識させたかもしれない」と指摘した。
中国国家外為管理局(SAFE)と人民銀行は、ロイターのコメント要請に応じていない。
<暴走を防ぐ>
事情に詳しい関係者2人によると、SAFEは先週、銀行に対し輸出業者などの顧客が外貨を元に両替する比率を調査した。元高に伴う潜在的元買いの動きを把握するためとみられる。
資源商社、浙商発展グループの金融市場事業部ゼネラルマネジャー、 Liu Yang氏は「FRBの利下げを除けば、為替取引が市場の誰もが最も懸念している問題だ」と語り、「結局、『トロイカ』(伝統的な成長エンジンである消費、投資、輸出)の中で、唯一の主要な原動力は輸出であり、規制当局は人民元が急激かつ大幅に上昇して輸出製品の競争力が弱まることを望まない」と述べた。
当局は昨年、銀行に一日の取引終了時に元のショートポジションを保持することを禁止するガイドラインを出したが、関係者によると、一部の銀行では緩和されているという。
ロイターは、人民銀行が今月になって複数の銀行に対して新たな金輸入枠を割り当てたと報じた。金の輸入枠割り当てはこれまで、元が対ドルで下落すると数カ月間抑制されてきた。
アナリストらは、これらの措置は小粒で、日々発表される元の基準値設定の傾向とともに、元上昇の阻止ではなく変動を抑制したいという意向を示しているだけだと指摘する。
それでも、市場参加者は人民元の予想を修正している。バンク・オブ・アメリカ証券のアナリストらは「成長の鈍化と人民銀行の金融緩和姿勢を踏まえると」、元が引き続き下落すると想定するものの、年末の元相場は従来予想の1ドル=7.45元ではなく7.38元と見込んでいる。
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