- 2024/08/21 掲載
アングル:中南米の中銀、ジレンマに直面 通貨安でインフレ懸念
[ニューヨーク 20日 ロイター] - 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の後、中南米の中央銀行は世界に先駆けて金融を引き締めた。現在インフレ再燃の懸念にもかかわらず利下げ圧力が高まっており、信頼性が問われる新たな試練に直面している。
中南米の主要国ではインフレ率の低下が止まったり、上昇に転じたりしている一方で、通貨安による輸入価格上昇への懸念から一段の利下げは困難になっている。
テリマーの中南米担当シニア信用アナリスト、ジェロニモ・マンスッティ氏は顧客向けメモで「われわれは重大な岐路に立たされており、リスクが高まっている」と指摘。「インフレ期待の悪化、グローバル市場におけるボラティリティーの高まり、ペルーを除く中南米主要5カ国における最近の通貨安により、下振れリスクが大幅に高まっている」と述べた。
チリ、コロンビア、メキシコではインフレ目標の達成がより困難になっており、「地域全体の進展が危険にさらされている」との見方を示した。
ブラジル中銀はルラ大統領からの利下げ圧力にもかかわらず7月下旬の政策決定会合で金利を2回連続で10.5%に据え置いた。中銀理事会メンバーは、インフレは下振れリスクよりも上振れリスクの方が大きいとみており、エコノミストの間では9月にも利上げが始まるとの観測が高まっている。
チリは8回連続利下げの後、より慎重な姿勢を示し金利を据え置いた。
他の国々はハト派的な姿勢を堅持している。コロンビア中銀は7月下旬に昨年12月以降6回目となる利下げを実施、50ベーシスポイント(BP)引き下げ10.75%とした。
ペルー中銀は2会合続けて金利を据え置いた後、25bp引き下げ5.5%とした。
メキシコ中銀は米連邦準備理事会(FRB)と足並みをそろえて利下げを控えていたが、今月初めに25bpの利下げに踏み切り、政策金利を10.75%とした。ロドリゲス総裁はロイターに対し、最近の総合インフレ率の急上昇は短期的との予想が正しいことが判明すれば、さらなる利下げもあり得ると述べた。
<為替を巡る懸念>
9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利下げが50bpではなく25bpにとどまると予想されているため、中南米の中銀に対する利上げ圧力が弱まるとはみられていない。
年初からのブラジルレアルとメキシコペソの対ドル相場は、財政懸念と政治的混乱により、主要新興国通貨の中で最もパフォーマンスが悪い。
ルラ氏からの利下げ圧力をかわしてきたカンポス・ネト・ブラジル中央銀行総裁は退任が予定されており、一部の投資家を不安にさせている。
同氏は16日、「利上げが必要であれば実施する。これは信認の問題であり、われわれは一貫性を示し続ける必要がある」と述べた。後任となる可能性が高い金融政策局長のガブリエル・ガリポロ氏もタカ派的な姿勢を示している。ルラ氏も最近は発言をトーンダウンさせている。
米国の景気後退観測や日本の利上げの影響など、外部環境が地域の不確実性を高める要因となっている。メキシコペソとブラジルレアルに恩恵をもたらしてきた「キャリートレード」の持続性に対する疑念も影響している。
ただシティのデータによると、リアルマネーは先週、アジア、アフリカ、東欧、中東を避ける一方、中南米諸国には「注目すべき資金流入」があった。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの米州新興市場担当最高投資責任者アレホ・チェルウォンコ氏は、中南米が金融政策サイクルで世界をリードしてFRBに先駆けて利上げし、おそらくより重要なことに先回りして利下げするとは、誰も想像していなかっただろうと述べた。
ブラジルは支出に関する特異な問題に直面しているため金融引き締め政策が取られる可能性があるが、同国は例外的な存在だとし「中南米諸国は今後も金融緩和を続けるだろう」と語った。
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