- 2024/05/22 掲載
アングル:日銀、国債買い入れ減の裏に需給の変化 5―10年再減額は見合わせか
[東京 22日 ロイター] - 市場がサプライズと受け止めた13日の国債買い入れ減額は、日銀内部で市場動向や国債需給の変化を踏まえつつ、そのタイミングも含めて準備が進められていたもようだ。日銀内にはオペの額が政策運営への憶測を呼ばないように配慮する考えがあり、6月会合に向けては、市場に新たな思惑を呼ばないよう、5―10年の買い入れをさらに減額する可能性は低いとみられる。22日の市場ではさらなる減額を意識して長期金利が1%まで上昇した。
<減額の背景>
日銀は13日の5―10年の国債買い入れ額を4250億円とし、従来の4750億円から500億円引き下げた。3月の金融政策決定会合で月間6兆円程度の国債買い入れの継続を決めた後、1回の買い入れ額は約2カ月間、4750億円で据え置いてきたが、4月の決定会合後初めての5―10年の買い入れで減額に踏み切った。
関係筋によると、減額の背景には市場動向と国債需給についての分析があったとみられる。
市場動向について、日銀では大幅な政策変更を決定した3月会合から約2カ月が経過し、市場は落ち着いているとの声が出始めていた。減額のあった5月13日は朝の段階で金利の上昇が予想されていたが、金利の上昇を受けて市場参加者の買いが流入すると見込まれていた。
3月会合以降の需給動向について市場では「5―10年の需給ひっ迫が顕著だった」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジスト)との指摘がある。オペの応札倍率は1倍台が続いた後に2―3倍台に跳ね上がっていたが「高値での応札が増えていたことも影響していたのではないか」(同)とされる。
国債買い入れ額は3―5年が5―10年に次いで大きかったが、3月会合以降の買い入れの応札倍率は2倍台が多い。
日銀は毎回の国債買い入れ後、市場参加者の動向を詳細に分析している。1回の買い入れで変化が見られても、基本的に買い入れ額を減らすことはないが、毎回の分析で浮かび上がる需給や投資家動向にトレンドの変化が起きていないかを注視しており、日銀は5─10年の需給の引き締まりを認識していたとみられる。
<ゆうちょ銀の買い>
国債の需給に変化をもたらした可能性があるのがゆうちょ銀行だ。年初来、ゆうちょ銀は10年債を積極的に買い進めており、「大手銀の国債買いの存在が日銀の買い入れ減額の背中を押したのではないか」(大手証券)との指摘が出ている。
ゆうちょ銀は円金利が上昇トレンドに転換したとして、2023年3月末に68兆円に上った預け金の一部で国債シフトを推進。残存7年超10年以内の国債保有残高は24年3月末時点で5兆1530億円と、わずか3カ月で1.5倍に増えた。
<5―10年、買い入れ減額は打ち止めか>
今回の買い入れ減を受け、市場では6月の金融政策決定会合で国債買い入れの本格的な減額が決まるのではないかとの見方が強まっている。22日の市場では長期金利が11年ぶりに1%に乗せた。
しかし、日銀では毎回のオペは政策の先行きを示唆するものではないとの見方が多い。オペ減額について、円安をけん制する狙いがあったとの市場の見方にも否定的だ。
日銀の金融市場局は3月会合以降、オペの額が政策運営に関する憶測を呼ばないように配慮し、買い入れ額を据え置いてきた。今回の減額も、6月の決定会合に向けた思惑を極力生まないよう、4月の決定会合直後のタイミングを選んで実施したとみられる。
今回の減額で5―10年の1回当たりの買い入れ額は4250億円となり、金融市場局が国債買い入れ計画で示したレンジの下限4000億円に迫った。市場では再度の減額への警戒感が強いが、13日の減額後に市場の思惑が高まったこともあり、さらなる思惑を生みかねない5―10年ゾーンの再減額は当面、見合わせる可能性が高い。
<本格的な買い入れ減へ水面下で議論>
日銀が5―10年の買い入れを500億円減らしたことで、このまま他のゾーンで減額がなければ月間買い入れ額は5兆7000億円程度になるとみられる。これは4兆8100億円―7兆0100億円としている金融市場局の買い入れ計画のレンジ内だ。
ただ、4月の決定会合では「市場の予見可能性を高める観点で、減額の方向性を示していくことも重要だ」との意見が出ていた。
6月会合で決定されるかは不透明だが、日銀は水面下で本格的な国債買い入れの減額に向けた議論を進めている。日銀が国債の半分を保有している現状を踏まえ、5―7兆円のレンジを下回って買い入れを減額する場合でも、ゆっくりしたペースで時間をかけて行うのが望ましいとの声が出ている。長期金利の急騰リスクはないか、どのような主体が日銀の代わりに国債を買っていくのか、金融機関が国債購入を増やす場合に各金融機関の金利リスク量はどう変化するかなど、検討すべき事項は多い。
買い入れ減額のペースについては、保有残高の毎月のネットでの減少ペースではなく、現行の月間のグロスの買い入れ額を示す方法が有力だ。償還額も含めて保有残高の減少ペースを示すことにはわかりやすさがある一方で、償還額により月々の買い入れ額が変動してしまうデメリットがある。
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