- 2023/12/21 掲載
アングル:テスラの遠隔操作技術、虐待訴訟の争点となるケースも
[19日 ロイター] - 米カリフォルニア州サンフランシスコ警察のデービッド・ラドフォード巡査部長は2020年5月、米電気自動車(EV)大手テスラの多目的スポーツ車(SUV)「モデルX」へのリモートアクセスのデータを提供するようテスラに要請した。この車の利用者である女性が、自分の夫がモデルXの遠隔操作技術を使って女性にストーカー行為や嫌がらせを行っていると警察に駆け込んできたためだ。夫は虐待行為を理由にこの女性への接近を禁止されていたが、命令に背いたという。
モデルXには所有者がスマートフォンのアプリを使って遠隔操作で位置情報にアクセスしたり、他の機能をコントロールしたりできる機能が備わっている。この女性は車の後部座席に夫が彼女を脅す際に使っていたのと同じ金属製野球バットがあるのを見つけたという。
女性が起こした裁判の記録によると、テスラはリモートアクセスのログ(記録)は実際のアクセスから7日以内でないと入手できないと回答。ラドフォード氏の捜査は壁に突き当たった。
自動車メーカーが位置追跡、ドアの施錠やクラクションの遠隔操作など高度な機能を増やす中、自動車に関連する技術を使った事件が起きていることが、弁護士や私立探偵、反DV(家庭内暴力)団体関係者への取材で明らかになった。
ロイターはサンフランシスコのケースと、テスラのテクノロジーを使ったストーカー行為に関わる別のケースの詳細を調査した。ただ、車の遠隔操作技術を使った虐待がどの程度広がっているかを特定することはできなかった。
サンフランシスコの女性の訴訟におけるテスラ従業員の証言によると、テスラはこの件とは別に、少なくとも1件の車両アプリを通じたストーカー事件に巻き込まれている。取材では、ほかにも同様の事例があることを知りつつも、個人情報保護や安全上の懸念から詳しく話すことを避けた人もいた。
テスラはコメント要請に応じなかった。ラドフォード氏とサンフランシスコ警察は捜査についてコメントしなかった。
サンフランシスコのケースは、自動車メーカーと法執行機関が、遠隔操作技術がもたらす複雑な問題を深く掘り下げる上で重要な意味合いを持つ。自動車業界団体も自動車の技術が悪質な行為の手段として使われないようにする必要性を認識している。
米国自動車イノベーション協会(AAI)は2021年に、カリフォルニア州規制当局が州の新しい個人情報保護法に基づいてほとんどのケースで自動車メーカーに位置情報など個人情報の開示を義務付けるべきではない理由の一つとして、配偶者への暴力を挙げた。位置追跡データを悪用する人にこうしたデータ開示することは「重大な被害をもたらす可能性がある」と指摘した。
米ゼネラル・モーターズ(GM)が情報サービス「オンスター」で所有者や主要なユーザー以外の全ドライバーに、位置情報を知らせない設定を認めるなど、一部のメーカーは既に技術の悪用防止策を講じている。
<要求却下>
訴状によると、サンフランシスコの女性とその夫は2016年1月に「モデルX」を購入した。夫は自分をアカウント管理者に、妻を追加ドライバーに登録。妻は夫のパスワードがなければ夫のアクセスを防ぐことができなかった。
女性は2020年に暴行や性的暴行などで州の上位裁判所に夫を提訴。その後、妻への接近禁止命令が出ているにもかかわらず夫に対して車へのアクセスを提供し続けたとして、テスラを相手取り賠償請求訴訟を起こした。
訴状によると、女性は警察に相談する前の2018年からテスラに対し、遠隔操作記録の提供や夫のアカウントの無効化を複数回にわたり求めた。これに対してテスラは、夫も車の共同所有者となっているため遠隔操作技術へのアクセスを禁止できないと回答した。
裁判ではテスラが勝訴。テスラはサンフランシスコ警察の証拠請求を拒否し、夫が車の機能を使ってストーカー行為をしたという証拠はないと主張した。また、夫に対して出された妻への接近禁止命令はメーカーに具体的な行動を命じたものではないと論じた。
女性と夫は2023年に和解したが、条件は公開されていない。離婚訴訟はなお係争中で、夫に対する接近禁止命令は引き続き有効。
夫は宣誓証言で、遠隔操作技術を使って妻の居所を把握したり、嫌がらせをしたりしたことはないと述べた。夫の弁護士はコメントを控えた。
一方、この案件と同じように夫婦間の虐待に車の遠隔操作技術が絡む別の訴訟として、ルネ・イザンバードさんのケースがある。当時の夫はテスラのアプリで彼女がどこにいたか知っていることを示すコメントを投稿し、彼女の居場所を追跡していたと語った。イザンバードさんは2018年に離婚を届け出て、長年にわたり身体的・心理的虐待を受けていたと訴えた。
サンフランシスコの女性の場合とは異なり、イザンバードさんはアカウントの設定を変更したり、インターネットへの接続をオフにしたりするためのアクセス権を持っていた。そのためテスラと交渉する必要はなかった。
テスラはサンフランシスコのケースで原告からの文書による情報開示請求に対し、同社の技術に関わるストーカー行為の申し立てへの対処方法について「全社的な方針は特にない」としている。
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