- 2023/12/15 掲載
アングル:今年不振のアジアIPO、バンカーは来年の回復を期待 選挙が左右も
[シドニー 15日 ロイター] - 日本を含むアジア太平洋地域は今年、新規株式公開(IPO)が低調で、この地域のバンカーは来年の持ち直しを期待している。バンカーによると、金利は世界的に安定しているが、アジア地域と米国で予定されている選挙がIPOへの需要を鈍らせる恐れがある。
LSEGのデータによると、高金利、根強いインフレおよび地政学的緊張により、日本を含むアジア太平洋地域の企業による年初来の株式売り出しは2290億ドルと2割落ち込み、2012年以来の低水準となった。このデータは新規および二次的な株式売却や転換社債の発行、ブロックトレード(市場外の相対取引)を対象としている。
しかし多くの国で金利がピークに達した様子がうかがえ、来年の利下げ回帰が話題となる中、株式資本市場(ECM)のセンチメントはこの数週間で改善したとバンカーは指摘する。
シティのアジアECM共同ヘッド、ウダイ・フルタド氏は「市場は今、発行体の参入を促すようなマクロ見通しをかなり織り込んでいる。仕掛かり中の案件は目白押しだ」と述べた。
市場心理が改善している証拠として、アジア太平洋地域におけるこの数週間のブロック取引増加が挙げられる。例えばベイン・キャピタルは今月、インドのアクシス銀行の株式4億4800万ドル相当を売却した。
しかしフルタド氏は、選挙が始まると、企業が資金調達に向けて市場に参入する窓口が「狭くなり、かじ取りは難しくなる」と指摘した。政治的な動きが活発化すると企業は通常、潜在的な政策変更を警戒し、大きな案件についての判断で消極的になる。
この地域の来年の選挙で皮切りとなるのは、台湾で来月行われる総統選と立法委員選。その後はインドネシア、韓国、インドで選挙が行われ、11月には米大統領選が控えている。
来年に向けて準備中の主なIPO案件の一つは、中国ネット通販最大手アリババの物流会社である菜鳥(ツァイニャオ)の上場。香港市場で株式を新規公開し、10億―20億ドルを調達する計画で、アリババ傘下企業として初の大型上場となる。
アジアにおけるIPOの競争は熾烈で、この地域の投資銀行がECM案件から手にする手数料が全収入に占める比率は40%前後と、世界全体の25%を大きく上回っている。
<中国と香港>
国・地域別にみると、中国は経済が低迷する中、年初来のIPOが373億ドルと35%減少しているにもかかわらず、2023年に2年連続でIPOが世界で最も旺盛な市場となる見通し。
中国経済の苦境と米中摩擦のため、外国人投資家による中国株への投資は今年に入って低調に推移しているが、中国政府による景気テコ入れの動きが効果を上げているようだ。
JPモルガンでアジアECM(日本以外)の共同責任者であるスニル・ドゥフィリア氏は「海外投資家はまだ中国株に資金を振り向けることに比較的慎重だが、最近の政策変更が安心感を与え、市場心理が少し上向き始めている」と述べた。
LSEGのデータによると香港の新規上場は、今年は36%減の約50億ドルと20年ぶりの水準に落ち込んだ。香港は以前、長いこと中国企業による資金調達ラッシュから恩恵を受けていた。
香港の投資銀行は金利が低かったパンデミック期にスタッフを増員していが、市況の悪化を受けて人員削減の動きが広がっている。
法律事務所フレッシュフィールド・ブラックハウス・デリンジャーのパートナーで、M&A案件のアドバイザーを務めるリチャード・ワン氏は、今後上場申請が中国以外に広がりを見せるならば、香港で上場の成功が増えるのに役立つとの見方を示した。
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