• 2023/12/12 掲載

アングル:利下げ模索のFRBパウエル議長、95年の再現は可能か

ロイター

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Howard Schneider

[ワシントン 11日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が1995年7月に行った利下げは、インフレに対する「勝利宣言」としては非常に控えめだった。

アラン・グリーンスパン氏が当時議長を務めていたFRBは声明で、「94年初めに開始した金融引き締めの結果、インフレ圧力は金融環境の微調整ができるほどに後退した」と述べ、緩和政策に乗り出したことを明らかにした。物価上昇は芽のうちに摘み取られた一方、経済状況はそれほど悪化していなかった。

パウエル議長が率いる現在のFRBにとって今まさに、こうした状況を「ソフトランディング(軟着陸)」のケーススタディーとして参考にしたいところだ。

最初の利下げに動くためにパウエル氏は、景気後退を伴わずに物価上昇率が目標の2%に戻ることを確信しなければならない。

足元ではその利下げ開始のタイミングを巡る臆測が沸き立っている。

投資家は、遅くても来年5月には利下げが始まると予想。しかしFRBが13日の連邦公開市場委員会(FOMC)終了後に公表する見通しでは恐らく、来年末までに政策金利が低下すると想定しつつ、利下げ開始の詳しい時期は明示しないとみられる。

現在のデータから読み取れる経済情勢は、グリーンスパン氏が95年に直面したのと次第に似た部分が増えてきたものの、FRBの政策担当者はインフレに対する勝利宣言を発することは引き続きためらう公算が大きい。

当時は物価上昇率鈍化の兆しが見え、過剰に積まれた在庫が将来の投資の足かせとなったほか、財政引き締めと消費活動の弱まりが予想されたため、FRBがなぜ6%という高い金利を維持する必要があるのかとの疑問につながった。

一方、今回は特に11月の雇用統計が強い内容だったこともあり、FRBは当分の間、現状の政策金利を続けるのが妥当かどうかとの問いには答えたがらないだろう。

エバーコアISIのクリシュナ・グハ副会長は12-13日のFOMCについて、当局が慎重な政策運営の努力をする最後の機会になりそうだと指摘。利下げのタイミングや幅に関する具体的な指針は出てこないとの見通しを示した。

<判断の決め手>

95年が手掛かりになるとすれば、今後数カ月間の雇用や貸し出し、消費と物価上昇率自体の動き全てがFRBの判断の決め手になるかもしれない。

グリーンスパン氏が、経済成長率が潜在成長率を下回り、減速する流れに思われたことから、持続的な「ディスインフレ」に向けた土台が整ってきたとの自信を深めていったのがこの年だった。

パウエル氏も同じ地点に近づいているのではないか。非常に高くなった第3・四半期の成長率をけん引した消費と投資の強さが再び実現するとは予想されないし、過剰在庫はこの先の生産にブレーキをかけそうで、消費も金利上昇が借り入れ鈍化につながる中で勢いが弱まりつつある。企業も金融環境の引き締まりに見舞われているだろう。

これらの全ては雇用と賃金の伸びを抑え、物価上昇率を着実に減速させている。実際10月の消費者物価指数(CPI)は前月比で横ばいにとどまった。

こうした中でウォール街では、局面転換を左右しそうな幾つかの要素が挙げられている。

シティのアナリストチームは最近、利下げを見通す上では労働市場の重要性が増していると主張。新規雇用の堅調さが持続しているのが、政策金利が据え置かれる理由だとの見方を示した。

バンク・オブ・アメリカの米国エコノミスト、マイケル・ゲイペン氏が鍵を握ると考えているのは、本丸の物価指標。FRBが重視する個人消費支出(PCE)物価指数上昇率が前年比ベースで「はっきりと3%を下回る」ようになり、3カ月ないし6カ月の基調として2.5%かそれ以下に収まりそうなら、利下げが視野に入ってくるという。

ゲイペン氏は「それでインフレが鈍化しているとの自信を強めてくれる」と述べた。

<調整利下げ>

もっとも、政策金利が引き下げられたからといって連続利下げが確実とは言えない。

ウォラー理事が指摘するように、FRBは利下げの名分として経済の救済を持ち出さず、政策金利水準を物価の下振れに合わせて調整することを目的とするだろう。

つまりインフレとの戦いを完了するために必要な程度以上に経済活動を抑制するリスクを管理するのであって、急速な景気後退をもたらしかねなかった過去のショック時に見せたような政策対応とは異なる。

例えば2000年のハイテクバブル崩壊を受け、FRBは6.5%前後だった政策金利を01年12月までに5%近く引き下げたし、07年9月から08年12月は住宅市場崩壊と金融危機を踏まえ、同程度の利下げに動いた。

対照的に95年7月の次の利下げは12月と翌年の1月と間隔が開き、しかもその後はずっと金利が据え置かれて97年3月に利上げが行われた。

この期間は物価上昇率が落ち着いて推移し、成長率と雇用がしっかりし続けたいわゆる「グレートモデレーション(大いなる安定)」の時代だった。

パウエル氏はしばしば、金融政策が最も適切に運営されている例としてそうした局面を挙げてきた。低失業率の恩恵が比較的貧しい世帯にまで波及し、各家庭の暮らし向きが着実に改善されるからだ。

そしてパウエル氏はFOMC前のブラックアウト期間前に行った最後の発言で、米経済がこれから突入するのは、FRBが「慎重に」動く局面だと改めて強調した。

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