- 2023/11/27 掲載
アングル:国産ウイスキー100周年、業界に「クラフト」の波
[静岡県静岡市 21日 ロイター] - 日本の代表的な独立系ウイスキーメーカーの一つとして知られる「静岡蒸留所」──。ここでは世界中で急拡大する需要に応えようと、近隣の森から伐採したスギをまきに使った蒸留器でウイスキーが製造されている。
日本のウイスキー生産は今年、100年の節目を迎える。業界大手のサントリーが1923年、京都府南西部の山崎に国内最初の蒸留所を開設した。
それから一世紀を経た現在、日本国内には100以上の蒸留所が存在する。過去10年間で2倍に増え、急速に拡大する市場の中で存在感を高めようと互いに競い合い、他との差別化を図っている。
静岡蒸留所の特徴の一つは、スギのまきの直火で蒸留しているという点だ。同蒸留所によれば、これは世界でもほかに例がないという。
こうした「クラフト蒸留所」は、事業規模ではサントリーなどの大手には及ばないものの、その熱意は世界クラスだ。
中村大航(たいこう)さん(54)はスコットランド旅行をきっかけに2016年、静岡蒸留所を設立した。
「2012年にスコットランドへ初めて行き、ウイスキーの蒸留所を見た。本当に小さい田舎の山で世界中にウイスキーを販売しているということを知って、感動した」と中村さんは振り返る。
「自分でウイスキーを作り、それを世界中で飲んでもらえれば、すごく楽しいだろうと思った」
爆発的人気を得つつある日本のクラフトウイスキーだが、過去の国内のウイスキー業界には好不況の波があった。
<量より質を>
日本産のシングルモルトウイスキーやブレンドウイスキーは長年、「スコッチの劣った模倣品」と見なされてきた。ただ、2008年ごろから国際的な賞を獲得し始めて世界中で需要が高まり、2015年頃までには供給が枯渇し始めた。
供給不足から価格は急騰。国産クラフトウイスキーの先駆けとなった埼玉県・秩父蒸留所の「イチローズモルト」シリーズは、香港のオークションで2020年、54本セットが150万ドル(約2億2230万円)で落札された。今月中旬には、競売大手サザビーズが日本の希少なウイスキーを集めたコレクションを出品。中でも52年熟成された1本が30万ポンド(約5580万円)で落札された。
国内の大手メーカー、サントリーとアサヒグループホールディングス傘下のニッカはこの10年、2021年の基準で最低でも3年間の熟成を要件とする「日本産ウイスキー」の生産能力の拡大と在庫数の増加に注力した。
国内最大で知名度も高いウイスキーメーカーのサントリーは今年、山崎を含む複数の蒸留所を改修するために100億円を投資すると発表した。
サントリーの5代目チーフブレンダー福與(ふくよ)伸二氏は、新規の国内蒸留所を歓迎しており、国産ウイスキー全体の品質維持・向上につながる限りは、サントリーがスタートアップ企業への助言も行うと話す。
日本のウイスキー市場には外貨も投入され始めている。酒造大手の英ディアジオ社は2021年、鹿児島県の老舗焼酎メーカー「小正醸造」が2017年に設立したウイスキー蒸留所「小正嘉之助(こまさかのすけ)蒸溜所」に少数株主として出資した。
日本経済新聞社が3月に報じたところによると、米ケンタッキー州を拠点とする「IJWウイスキー」傘下のシーダーフィールドは、北海道千歳市に国内最大級のウイスキー蒸留所を建設する予定だという。
シーダーフィールドの担当者は、この計画についてコメントを差し控えた。
新規参入の業者が増え、新たな商品が市場に出回る中、業界からは質の低いウイスキーが日本産ウイスキー全体の評価を落としかねないと懸念する声も上がる。
「それは業界が本当に恐れていることだ」と話すのはケイシー・ウォールさんだ。米国出身のウォールさんは、北海道の利尻島に酒造会社「カムイウイスキー」を設立した。
静岡蒸留所の中村さんは、自身のようなメーカーは製造過程を大切にし、結果を待つのみだと話す。
「先人たちが作り上げたジャパニーズウイスキーの良さがある。今度は自分たちがしっかりと、『日本のウイスキー』という名に恥じない品質のウイスキー造りを全力をかけて実現させる必要があると思っている」
PR
PR
PR