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全世界でインフレが加速し、消費者の懐事情が日に日に厳しさを増している。日本ではうまい棒の値上げが大きな話題を呼んでいたが、米国でも、
2月の消費者物価指数(CPI)
が前年同月比7.9%となり、40年1カ月ぶりの高い水準となった。国内ではウクライナ戦争によるコモディティ価格の上昇や、物流混乱による「狂乱物価」を心配する声も。そうした中、米連邦準備制度理事会(FRB)が3月に0.25ポイントの利上げを断行、インフレ退治に乗り出した。光熱費・家賃・食費値上がりのトリプルパンチに見舞われる米家計を救えるか。対策待ったなしの現地から報告する。
値上げ攻勢に消費者の反応は?
米国のインフレは2022年に入っても全般的に高進を続けている。2月のCPIでは1月の7.5%をさらに上回って、1982年1月以来の高水準となった(図)。しかし、2月中旬までは局地的に物価が落ち着く気配もあった。
たとえば、企業のコストが高騰した大きな原因となっている国際物流の混乱に関して、ニューヨーク連邦準備銀行が2021年12月から発表を始めた「グローバル・サプライチェーン・プレッシャー・インデックス(GSCPI)」では、2月の大陸間の海運輸送料や航空運賃などが1月と比較して下落を始めていた。
また、消費者物価の高騰の中心的な「犯人」である中古車価格も、2月前半には下がり始めていた(ただし、2月全体の価格は前年同月比で38%伸びている)。価格上昇が踊り場に入る兆候が各所に現れていたわけだ。
それだけではない。材料費や人件費のコスト上昇分を商品やサービスに転嫁することについて、給与が増えてきた消費者が受け入れていることも報告されていた。
たとえば、米食肉大手のタイソンフーズは、2月時点で過去1年間に約18%上昇したコストを、累計19.6%の値上げで補ったが、消費者のブランド離れは起きていないと報告した。米食品大手ペプシコも、「レイズ・ポテトチップス」など主力商品の小売価格上昇によって価格が比較的安いプライベートブランド(PB)への乗り換えは起きていないとしている。
「ウォルマート」も値上げの影響なし
米消費財大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)も今年に入り、トイレットペーパーにおけるロール内の紙数を「メガ」で264枚から244枚に、「スーパーメガ」で396枚から366枚に減らす実質値上げを実施。さらには販売価格も2月と4月の2回にわたって引き上げる。しかし、今のところ売上減などにはつながっていないようだ。
低所得層向け「ダラーショップ(日本の100円ショップに相当)」大手の米ダラーツリーでは昨年11月、創業から35年間続けた「1ドル路線」と決別し、基本価格を1ドル25セントに引き上げ、より高価な3ドルや5ドルの値付け商品陳列を増やした。だが、11~1月の四半期売上高は前年同期比4.6%増加し、消費者が値上げを受容していることが示唆された。
同じく低所得層向け小売大手の米ウォルマートにおいても、ブレット・ビグズ最高財務責任者(CFO)が2月中旬に、「ブランド離れや、より少量のパッケージに切り替える、あるいはぜいたく品の購入を控えるなどの行動は見られない」と述べていた。ただし、「弊社のカスタマーたちは、値上げに敏感になっていることは確かだ」と付け加えている。
こうしたことから、グローバル戦略コンサルティング企業の米EYパルテノンのチーフエコノミストであるグレゴリー・ダコ氏は、「消費者が(抗議などで)値上げを押し戻さない限り、企業は価格を上げ続けられる」と総括した。
このように、全般的に許容され、受容されてきた値上げだが、ウクライナ戦争がその流れを変えてしまった可能性がある。
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