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米国での暗号資産は一見すると、「冬の時代」を迎えている。米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めを予告し、投資家が元本割れといったリスクのある資産から逃避したことで、暗号資産の時価総額は一時半値近くまで下落した。さらに相次ぐ規制強化の動きをはじめ、不安材料が多く、見通しは暗い。しかし、米国内ではこれらの向かい風は近い将来でさらに普及が進む「春の訪れ」との意見もある。こうした声が上がる暗号資産の好材料とはどのようなものなのか。米国における暗号資産の現在地を分析し、方向性を占う。
「暗号資産の冬」到来、時価総額は最高値から“半減”
基本的にリスク資産の種目に分類される暗号資産は、緩和的な金融政策の下では投機的な投資の対象になりやすい。そのため相場が乱高下を繰り返しながらも、全体的には上昇する局面が多く見られる。実際に2021年11月には、全暗号資産の時価総額が史上最高値の3兆ドル(約346兆円)を突破した。
だが、インフレ高進でFRB高官たちが金融引き締めの予告を本格化させた2022年1月下旬には一時1兆6,000億ドル(約184兆円)と半値近くまで下げるなど、影響をもろに受けた。コロナ禍によるゼロ金利政策で市場にあふれたマネーの多くが高いリターンを期待できる暗号資産に向かったものの、中央銀行が「宴の酒を取り去る」ことを嫌気して価格が崩れたことが示唆されている。
この先、高進するインフレ退治のために利上げペースが速まれば、暗号資産の価値はさらに不安定となる可能性が高い。米金融大手JPモルガン・チェースの資産運用部門であるJPモルガン・アセット・マネジメントでチーフ・グローバルストラテジストを務めるデイビッド・ケリー氏は、「どこかの時点で、暗号資産の投資家は巨大な損失を被ることになるだろう」と悲観的な見方を示す。これまで何度か暴落を経験してきたが、またしても冬の時代の到来だ。
こうした中、暗号資産の将来性や社会貢献の可能性を信奉し、給与を暗号資産で受け取る一部のセレブたちは価値の目減りに悩む。
たとえば、1月にニューヨーク市の市長に就任したエリック・アダムズ氏は、「ニューヨーク市を暗号資産で金融革命の中核にする」と宣言し、最初の3回分の給与をビットコインとイーサリアムで受け取ると公約していた。1月21日には、推定9,925ドル(約113万円)の1回目の給与を受け取った。ところが、配分比率は公表されていないが、支払日後から4日で1~2割ほど価値が下落したとの見方もあり、実質上の給与カットとなった。
NBAゴールデンステート・ウォリアーズに所属する選手のクレイ・トンプソン氏やNFLグリーンベイ・パッカーズの名クオーターバックであるアーロン・ロジャース氏も、同様の給与目減りを経験。NFLロサンゼルス・ラムズに所属するオデル・ベッカム氏に至っては、年俸425万ドル(約4億9,000万円)のうち、すでにビットコインで受け取った75万ドル(約8,620万円)の価値が35万ドル(約4,023万円)に下落すると推定されるなど、不運に見舞われた。
しかし、これらのセレブはすでに十分裕福であり、資産価値下落のリスクに余裕で耐えられる人たちだ。対して暗号資産の購入を考える一般人の多くにとり、有名人の報酬目減りは投資を尻込みさせる効果をもたらしたと言えよう。
犯罪や規制強化で投資家は“様子見”モード
また、暗号資産が絡む犯罪も毎日のように報道され、「株式や不動産のような資産と比べ、手を出しにくい」との印象が強まる。
事実、ブロックチェーン分析企業チェイナリシスは暗号資産に絡む詐欺・窃取などの犯罪被害が2021年に、過去最高の140億ドル(約1兆6,087億円)に達したと発表している。一例として国連安全保障理事会のパネルは、核および弾道ミサイル開発を継続する北朝鮮が、暗号資産取引所へのサイバー攻撃を重要な資金源にしていると報告した。
こうした暗号資産の評判の低下に加え、SEC(米国証券取引委員会)・FRBや財務省・司法省など米当局による相次ぐ規制強化の動きも短期的な逆風だ。1月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、政策担当者らがデジタルマネーの動向を注視しており、金融システム上のリスクさえ話題になったことが明らかにされている。
そして米国のテック大手規制をめぐり米国と激しく対立する欧州連合(EU)が、米メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)のデジタルウォレット「Novi」に対してプライバシー・個人情報保護の義務強化という「狙い撃ち」を行うなど、投資家を様子見モードにさせる要素が多く、普及への障壁は低くないように思える。
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