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東京都が世界的な金融センターとなることを目指し、「『国際金融都市・東京』構想」を策定したのは2017年11月。それから4年が経過し、その間、世界的な脱炭素のうねり、デジタル化の潮流、コロナ禍の発生など、国際金融を取り巻く環境は激しく変動した。その結果、金融分野ではサステナブルファイナンスの市場拡大、フィンテックの重要性の増大といった動きが生じている。こうした変化に的確に対応するため、東京都は2021年11月、「国際金融都市・東京構想」の内容を刷新し、「構想2.0」にバージョンアップした。東京がライバル都市に打ち勝ち、ロンドンのシティ、ニューヨークのウォール街のような世界をリードする金融センターの地位を確立できるかどうかは、今後の数年間が勝負になる。「構想2.0」の狙いと実際にどのような政策を進めるのか、東京都政策企画局戦略事業部の担当者らに話を聞いた。
当初の「構想」から4年、「構想2.0」では大きく何が変わった?
2017年11月、東京都は「
『国際金融都市・東京』構想」を策定した。その1年前から「海外金融系企業の誘致促進等に関する検討会」「国際金融都市・東京のあり方懇談会」を開き、小池 百合子知事と外資系金融機関CEOとの意見交換会も実施した上で練り上げたのが、この「構想」だった。
それから4年が経過した。その間、時代は平成から令和に変わり、東京五輪・パラリンピックが1年延期しながら開催され、英国がEUを離脱、米国では政権が交代、中国は経済力も発言力もより強め、全世界が新型コロナウイルスの脅威にさらされている。
国際金融の世界も大きく変化している。情報通信は4Gから5Gへ高速化し、ITと金融が結びついたフィンテックが大きく進展し、気候変動抑制に関する多国間の「パリ協定」の発効(2016年11月)に続いて社会的責任投資(SRI投資)、環境・社会・ガバナンスへのESG投資や、脱炭素化に資金を供給するグリーンファイナンス、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に基づくサステナブルファイナンスが成長している。
東京都はそうした変化に対応すべく「『国際金融都市・東京』構想に関する有識者懇談会」を2020年11月から2021年6月まで開催し、7月には同構想の改訂案の取りまとめとパブリックコメントを実施。その成果として11月1日、「
『国際金融都市・東京』構想2.0」を発表した。それには「サステナブル・リカバリーを実現し、世界をリードする国際金融都市へ」というサブタイトルがついている。
4年前の「構想」と今回の「構想2.0」は、どこが違うのか。政策企画局 戦略事業部国際金融都市担当課長の髙木 靖氏は、そのキーワードは「グリーン」と「デジタル」だと強調する。
「前『構想』における施策の主眼は、金融関連プレーヤーの企業、人材をいかに東京に集積させるかでした。多くの方が東京で活躍していただくことを目標とし、海外からの誘致などを進めることとしていました。それに対し、今回は、こうした視点は維持しつつも、グリーン分野をはじめとするサステナブルファイナンスの発展、金融のデジタライゼーションを基軸とする形に内容を刷新しました。これによって、国際金融を取り巻くグローバルな環境変化に的確に対応し、東京を、国内外の資金が国内外の企業やプロジェクトに供給される『世界をリードする国際的な金融ハブ』とすることを目指しています」(髙木氏)
「構想2.0」では、以下を3本柱としている。
「構想2.0」で注力する3つの柱
(1)グリーン分野をはじめとするサステナブルファイナンスの発展(グリーン)
(2)金融のデジタライゼーション(デジタル)
(3)多様な金融関連プレーヤーの集積(プレーヤー)
(3)で東京への「プレーヤー」の集積促進を前構想から引き継ぎながら、(1)の「グリーン」、(2)の「デジタル」をキーワードとして内容が刷新されている。
KPIを初めて設定、民間のノウハウを政策推進に生かす
それに加え、東京都では、「構想」に今回初めてKPI(重要業績評価指標)を設け、それを活用した目標管理を行うこととした。
具体的には、「構想2.0」における施策の3つの柱(グリーン、デジタル、プレーヤー)、同構想の推進を通じた金融産業の活性化が都内経済に及ぼす波及効果についてKPIを設定し、長期的な目標として2030年の目標を、それに到達するための中間目標として2025年の目標を定めている。
施策の第一の柱「グリーン」に関しては、「日本の機関投資家等を通じたサステナブル投資残高の世界に対する割合」「国内で公募されたグリーンボンド発行金額」などの指標を設け、前者について2020年の比率8.1%から2030年に15%に(1.9倍)、後者について2020年の0.8兆円から2030年に3兆円に(3.8倍)伸ばす目標を掲げた。
第二の柱「デジタル」に関しては、「都内フィンテック企業数」「都内キャッシュレス決済比率」を指標とし、前者について2020年の94社から2030年に400社に(4.3倍)、後者について2014年の21.6%から2030年に80%に(3.7倍)伸ばす目標としている。
第三の柱「プレーヤー」に関しては、「都内資産運用業者数」「都内フィンテック企業数」を指標とし、前者について2020年の374社から2030年に900社に(2.4倍)、後者について上記のように2030年に2020年比4.3倍に伸ばすことが目標だ。
そして、経済的な波及効果に関して、「都内GDPの押し上げ効果(2019年度比累計額)」を指標とし、2030年に累計10兆円の押上げ効果が生じることを目標に掲げている。
大きな成長を見込んだ目標数値が並ぶKPIの導入について、髙木氏は「世界をリードする「国際金融都市・東京」の実現に向けては、目標管理が必要」と、その重要性を説く。
「2025年、2030年の目標について、達成状況の検証を行いながら、より効果的な施策の展開を推進していくことが重要であると考えています」(髙木氏)
民間企業では当たり前のように行われている目標管理を、政策を推進するために使う。そこに、世界をリードする国際金融都市になるために、民間の知恵やノウハウを積極的に取り入れていく姿勢が見える。
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