【連載】エコノミスト藤代宏一の「金融政策徹底解剖」
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2021年4月26、27日に開催された金融政策決定会合で日本銀行は、日本経済の物価の見通しなどをまとめた「経済・物価情勢の展望(以下、展望レポート)」を発表した。レポートの内容を見ると、これまで日銀が掲げてきた「2%の物価安定の目標」の達成が非常に厳しいことが浮き彫りとなった。それでも日銀は「目標達成は可能」という姿勢を崩さない。その根拠はどこにあるのだろうか。
「2%の物価目標」が無理すぎる理由
2021年4月26、27日の金融政策決定会合で日銀が示した「経済・物価情勢の展望(以下、展望レポート)」は、これまで日銀が掲げてきた「2%の物価目標」の達成がいかに困難であるかを再確認させた。
展望レポートで示された消費者物価の見通しは、予測期間の最終年度である2023年度でもプラス1.0%と、目標に掲げる2%に遠く及ばない数値であった。これは、日本銀行総裁の黒田総裁の任期満了にあたる2023年3月までに物価目標が達成できないことを意味する。
かつての日銀は、2~3年先には2%の物価目標が達成されるとの楽観的見通しを示す傾向にあったが、ここ数年、特にコロナパンデミック発生以降は現実的な見通しを提示するようになっており、これは見方によっては「諦め」とも映る。
もちろん、日銀は“公式的”には物価目標を諦めていない。2%程度の物価上昇が理想的であるとし、中長期的にはそれが達成可能であるとの見解を固持している。あえて公式的にと表現したのは、本音ではそう考えていなくとも、そのように演技する必要があるからだ。
ここで言う「演技」とは何か。それは2%の物価目標達成が非現実的であると理解しながらも「2%目標は達成可能」、「物価目標を見直すのが適切とも、その必要があるとも考えていない」、「物価目標達成のために必要なら躊躇なく追加的な緩和措置を講じる」といった見解を繰り返していることだ。
黒田総裁が就任した2013年以降、日銀は大規模な国債買い入れ、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度とするイールドカーブ・コントロール(YCC)、ETF(上場投資信託)買い入れといった金融緩和策を駆使してきたものの、7年以上が経過した今も目立った効果は観察されていない。
アベノミクス発足当初は、デフレは貨幣的な現象であるとして、「おカネをたくさん刷ればそれだけで物価は上がる」といったシンプルな主張もあった。
しかしながら、金融政策から物価への波及ルートがそれほど単純でなかったことは、これまでの金融政策の結果から明らかだ。金融緩和のみで物価上昇率を引き上げるとの考えが非現実的であることは、今や専門家の間で常識となっている。優秀なエコノミストを抱える日銀がそれを百も承知であることは言うまでもない。
あと何ができる?日銀に残された選択肢
演技の舞台裏に隠されている現実は厳しい。「金利」「量」「質」の3本柱について、いずれも追加的な緩和手段が残されていない。
日銀が追加緩和の有力手段であると説明する短期金利の引き下げ(マイナス金利深掘り)については、貸出促進付利制度という副作用緩和策が3月に導入されたとはいえ、その効果は不明確もしくは逆効果となるリスクが大きい。
米国のように「いつもは金利のある国」で利下げをすれば、人々は金利低下を好機と捉え、借り入れが増える傾向にある。借り入れた資金は設備投資や個人消費(自動車・住宅)を刺激する。その反面、「いつも金利のない国」である日本において金利が低下したところで新規の需要が掘り起されるとは考えにくい。
実際、日銀がマイナス金利を導入した2016年以降、金利低下が貸出を刺激したという明確な証左は得られておらず、大きく見ればカネ余りの状態が続いている。
また、為替に働きかける効果も限定的だろう。内外金利差が多少拡大したとしても、為替市場参加者が複数回のマイナス金利深掘りを予想しない限り、内外金利差の持続的拡大は見込み難く、新規の円売りが膨らむとは考えにくい。
「量」については、市中に買える国債が存在しないという圧倒的事実があり、日銀は2020年3月に「80兆円」を目途とする買い入れ目標を事実上取り下げたばかりだ。
「質」における政策の中核であるETF買い入れは、拡大はおろか現在縮小方向にある。2021年4月以降、日銀はTOPIX(東証株価指数)の前場下落率が2%に達しないと買い入れを実施しなくなっている。
たとえば、2021年5月11日はTOPIXの前場下落率が1.98%に達する大幅下落であったが、買い入れを見送った。2015年以降のデータに基づくと、前場下落率が2%を超える日は、平均すると年間9日程度しか発生しないから、一日当たりの買い入れ額が700億円だとすると年間の買い入れペースは1兆円にも満たない計算になる。追加緩和の手段は極めて乏しい。
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