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中国で「デジタル人民元」の大規模な利用実験が進行中だ。10月12日から1週間、広東省深セン市での実験を終え、江蘇省蘇州市では12月11日から27日まで行われる。デジタル人民元はすでに利用可能な状態で、中国ならではの仕組みとして「制御可能な匿名性」がある。これは中国の特殊な政治体制が可能にした仕組みだが、多くの暗号資産、電子通貨で課題となっている「匿名性であることによる犯罪への悪用」をクリアしている。デジタル人民元が国際的な決済市場に与える影響とは?
5万人が参加、深センでの利用実験はどうだった?
中国でデジタル人民元(CBDC=China’s Central Bank Digital Currency)が導入前夜になっている。2020年10月12日18時から1週間、深セン市で市民5万人が参加する大規模利用実験が行われた。抽選であたった5万人に200元(約3,200円)のデジタル人民元を配布し、協力をする商店3389店舗で実際に使ってもらうというものだ。
VIDEO
中央電子台の国際報道番組で紹介された深センでの実験の様子。実際にデジタル人民元を使う市民の姿が紹介されている
デジタル人民元を受け取った人は4万7573人で、期間中6万2788件の決済が行われ、876.4万元(約1.4億円)が使用された。使用率は92.11%で、「飲食」「地下鉄」「ガソリンスタンド」「スーパー、百貨店」などが主な利用場所だった。この200元は1週間の実験期間が終了すると回収されてしまうこともあって利用率は高いものとなった。市民からも使いやすいと好評で、追加チャージの金額も90.1万元(約1,500万円)に達した。
スマートフォンにデジタル人民元専用のウォレットアプリを入れると、デジタル人民元による決済ができるようになる。ウォレットアプリを開くと残高が表示され、上にスワイプすると支払い、下にスワイプすると受け取りができる。決済方法はNFCによるコンタクトレス決済(タッチ決済)が基本になる。ただし、今回は協力商店の多くがNFC未対応であったため、QRコード決済が多く使われた。
ウォレットアプリのようなソフトウェアウォレットだけでなく、Bluetoothカード、ICカードなどの物理カードや、eSE(内蔵型セキュアエレメント)、SDカード、SIMカードなどのスマホ対応のハードウェアウォレットも想定されている。特にeSEは、デバイスの中にデジタル人民元専用のチップを搭載するというもので、すでにファーウェイのスマホmate 40シリーズがeSEに対応している。
今後も、このような大規模運用実験が各都市で行われ、適切な時期に本格導入されていくことになる。なお、このようなウォレットまで含んだ体系全体は、「DC/EP」(Digital Currency/Electronic Payment)と呼ばれ、中国メディアはデジタル人民元を指す時も「DC/EP」という用語を使うことが多いようだ。
デジタル人民元とは? スマホ決済とは何が違うのか
中国はアリババの「アリペイ」、テンセントの「WeChatペイ」などのスマホ決済が普及しており、現金を使うシーンは限定的になっている。大都市だけでなく、地方都市や農村でもスマホ決済が普及する中で、いまさらデジタル通貨の必要性は薄いのではないかと疑問に感じる方もいるかと思う。中国の市民も同じ疑問があるようで、中国メディアでは「デジタル人民元とスマホ決済は何が違うのか?」というテーマの記事が多く掲載されるようになってきている。
しかし、デジタル人民元とスマホ決済は、似て非なるものだ。デジタル人民元は電子通貨であり、スマホ決済はウォレット(財布)だ。
つまり、将来的にはデジタル人民元をアリペイなどに入れて使うということがあり得る。アリペイやWeChatペイは、アプリの中からタクシー配車、モバイルオーダー、フードデリバリー、新幹線や飛行機のチケット予約/購入などさまざまなことができるスーパーアプリになっている。この財布の多機能ぶりで競争をしているのがスマホ決済で、デジタル人民元と対比するときは、「ウォレット」と呼ばれることが増えている。
一方で、デジタル人民元はデジタル通貨であり、どのような機能が利用できるようになるかはウォレットアプリ次第。人民銀行(中央銀行)は、このようなデジタル人民元用ウォレットをまずは銀行に開発をさせる計画だ。
スマホ決済の登場により、銀行は苦境に立たされている。普通の市民にとって銀行は口座開設ぐらいしか必要のないものになり、投資信託やローンなどもスマホ決済というウォレット付属の機能を使い始めている。自動車や住宅のローンは額が大きいため、いまだに銀行を利用しているが、スマホ決済各社はその領域まで進出したいと考えていることだろう。
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