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中国政府がデジタル人民元の大規模な実証実験をスタートしたり、IMF(国際通貨基金)が報告書をとりまとめるなど、通貨のデジタル化をめぐる動きが活発になっている。ビットコインが登場した時から、流れは確定していたとも言えるが、いよいよ本格的なデジタル通貨の時代が到来しつつある。
中国がデジタル人民元の実証実験を開始
中国は2020年10月、ハイテク都市の深センを皮切りにデジタル人民元の大規模な実証実験をスタートさせた。デジタル人民元は従来の電子マネーとは根本的に異なり、それ自体が法定通貨である(中国はデジタル人民元を発行するため中国人民銀行法の改正を予定している)。
中央銀行がデジタル通貨を発行する手法としては、国民に直接、デジタル通貨を配る直接型と、市中銀行を介して流通させる間接型の2種類がある。間接型は、基本的に従来の金融システムと同じであり、中央銀行は個人とは取引せず、市中銀行のみを相手にする。間接型は、中央銀行と市中銀行のやり取りをデジタル通貨に置き換えるだけなので、金融システムにそれほど大きな変更を加える必要がない。
中国が採用したのは間接型であり、市中銀行が中央銀行に預けている準備預金をデジタル人民元に置き換え、市中銀行は希望する利用者にデジタル人民元を提供する。利用者は専用の口座(ウォレット)を開設することで、自身の預金口座からデジタル人民元を引き出せる。
各国の中央銀行はこれまで通貨のデジタル化に対して否定的なスタンスであり、一部の専門家は感情的に反発していた。だが、ビットコインがすでに市場に定着(機関投資家もすでに保有を始めている)していることや、米フェイスブックが独自の仮想通貨(暗号資産)「リブラ」の導入を発表するなど、通貨のデジタル化はもはや避けて通れない状況となっている。
こうした中、中国政府はいち早くこの動きに目を付け、デジタル人民元の開発を独自に進めてきた。今回、大規模な実証実験にこぎ着けたことで、そう遠くない時期にデジタル通貨の本格運用を始めることになるだろう。
中国はクレジットカードなど従来型キャッシュレス決済のインフラが未整備だったことから、逆にアリペイやウィーチャットペイといったスマホ決済サービスが急拡大し、キャッシュレス大国となりつつある。巨大な電子決済基盤がすでに存在している現状を考えると、デジタル人民元はかなりのペースで普及するだろう。
IMFがドル基軸体制の崩壊に言及
今後は、デジタル法定通貨と法定通貨ではないデジタル通貨が共存する形で、デジタル通貨圏が拡大することになる。一連の状況を受けて、IMFはデジタル通貨の拡大を予想する報告書を取りまとめた。
報告書では、デジタル人民元に代表されるデジタル法定通貨に加え、ビットコインやリブラなど民間通貨によるデジタル通貨圏が出現する可能性があり、場合によっては「ドル基軸体制が崩れる」とまで言及している。
同レポートはIMFのスタッフが作成したものであり、「必ずしも理事会の見解を表明したものではない」との注意書きがついているが、逆にこの記述がことの重大性を示していると言って良い。少なくとも市場は、IMFが事実上、デジタル通貨の普及を容認したものと受け止めている。
中国政府がデジタル通貨の普及にここまで積極的になっている理由も同じである。中国は通貨のデジタル化は不可避と考え、逆にデジタル人民元を介して、国際金融市場におけるドル覇権の弱体化を狙っている可能性が高い。
戦後の国際金融市場におけるドルの覇権は絶対的なものであった。多くの日本人は通貨覇権を握ることがどれほどのパワーをもたらすのか理解できていないが、通貨が持つ力は絶大である。米国が世界を支配できたのは、強大な軍事力だけが理由ではない。金融市場におけるドル覇権を握っていることが大きな役割を果たしてきたのが偽らざる現実である。
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