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各国の中央銀行が発行する「中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)」の議論が活発化している。先行する中国の「デジタル人民元」を追いかける形で、デジタル通貨の覇権争いが加熱している格好だ。日本においても、「デジタル円」の実現に向けた官民連携の本格的な議論が始まった。一方で、フェイスブックの「Libra(リブラ)」をはじめとする民間の動きも活発だ。コロナ後、大きいうねりとなるデジタル通貨の最前線を報告する。
「デジタル円」の実現に向けた議論が本格化
2020年6月3日、3メガバンクによる「中央銀行発行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」などのデジタル通貨の決済インフラの実現を目指すための検討会が発足した。6月から勉強会を開催し、9月末を目処に報告書をまとめるという。
「中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)」とは、一般に以下の3つの項目を満たすものを指す。
(1)デジタル化されていること
(2)円などの法定通貨建てであること
(3)中央銀行の債務として発行される
現在、デジタル通貨は以下の3つの大枠に分類できる。
・電子マネー(Suicaなど)
・暗号資産(仮想通貨)
・中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)
本検討会には、みずほ銀行や三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3メガバンクのほか、JR東日本やNTTグループ、セブン&アイ・ホールディングスなどが参加する。協力会社にはアクセンチュアと社シグマクシス、オブザーバーには日本銀行や財務省、金融庁や総務省、経済産業省を招いている。
事務局は、インターネットイニシアティブ(IIJ)の関連会社で、デジタル通貨の取引・決済を担う金融サービスや暗号資産交換の事業を展開する「ディーカレット」が行う。
官民連携による「デジタル円」の実現に向けた議論が、いよいよ本格化する。
CBDC検討会発足の背景と論点
本検討会が開催された背景には、近年、分散型台帳(ブロックチェーン)技術を活用した民間企業によるデジタル通貨発行、一部の中央銀行の動きなどもあり、デジタル社会に適したデジタル通貨決済の効率性、利便性への期待が高まっていることがある。
英国の専門メディア「Central Banking」が2020年5月7日に公表した中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)に関する調査結果によると、世界46カ国の中央銀行がCBDCをすでに積極的に研究している。その一方で、大部分の中央銀行はCBDCの発行計画を立ててないという。
その背景には、中央銀行がCBDCを発行した場合、民間銀行の預金や金融仲介機能などの金融システムに大きな影響を与えかねないという懸念が大きい。日本銀行も、現時点においてデジタル通貨を発行する計画を立てていない。
また、多くの中央銀行では、プライバシーの問題や機密取引データに容易にアクセスできる可能性を問題点として挙げている。
デジタル通貨やデジタル決済の利便性だけでなく、プライバシーの確保、犯罪防止対策、技術的リスクなどの懸念もあることから、安全性の高い価値あるデジタル通貨実現の方向性が求められている。
本検討会での主な論点は以下のとおりだ。
- 国内外におけるデジタル決済、デジタル通貨の実例研究
- ブロックチェーン、分散型台帳技術など新しいデジタル技術の取引・決済インフラへの応用、デジタル通貨決済の潜在的な活用領域とその効果、望ましい姿、将来の可能性
- サービス提供範囲、利用価値の対価、提供者・関係者の役割、標準化など実現における課題
検討会では、銀行やキャッシュレス業者が発行するデジタル通貨の相互利用を可能とする「デジタル円」などのデジタル通貨やデジタル決済インフラに対する課題と解決方法の検討を進め、サービスやインフラの標準化の方向性を示すことを目指している。
世界で活発化するCBDCを巡る議論
日本銀行は、世界各国の中央銀行とCBDCの活用に向けた共同研究を進めている。2020年1月21日には、主要中央銀行によるCBDCの活用可能性を評価するためのグループ設立を公表した。
本グループには、カナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、スウェーデン・リクスバンク、スイス国民銀行、国際決済銀行(BIS)が参加する。
このグループでは、CBDCの活用のあり方、クロスボーダーの相互運用性を含む経済面、機能面、技術面での設計の選択肢を評価するとともに、先端的な技術について知見を共有する。
なお、これまで日本銀行と欧州中央銀行は、CBDCの基幹技術となる「分散型台帳(ブロックチェーン)」に関する共同調査プロジェクト「プロジェクト・ステラ」を進めてきた。そして、2020年2月12日には、同プロジェクトの第4フェーズの調査結果を公表した。
調査報告書は「分散型台帳環境における取引情報の秘匿とその管理の両立」というタイトルで、分散型台帳環境の取引データを秘匿化しながら、監査可能性を確保する仕組みを提案している。
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