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  • 2019/08/19 掲載

銀行に大変革が起きる年は「2023年」と言える理由

京大 岩下直行教授インタビュー

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銀行がテクノロジーキャッチアップに遅れたのは、金融不況に見舞われた上にインターネット対応をためらったことが大きな原因だった。ファットなコスト構造を改革することなくここまで来たこともそれに輪をかけた。ここ数年のフィンテックブームで動き出した面もあるが、この先、金融機関を待ち受けている未来は?京都大学公共政策大学院 教授であり初代日銀FinTechセンター長を務めた岩下 直行氏が直言する。
聞き手:編集部 松尾慎司、構成:吉田育代

聞き手:編集部 松尾慎司、構成:吉田育代


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京都大学公共政策大学院 教授で初代日銀FinTechセンター長を務めた岩下 直行氏

銀行業界はベンチャーと手を組むことから始めた

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 フィンテックの新しい動きは2015年ぐらいごろから世界的に非常に活発になりました。シリコンバレーでの投資が増えたのも同時期でした。

 こうした海外の動きに後押しされて、日本国内でも金融のやり方を変えたほうがいいのではないかというプレッシャーが銀行業界にかかりますが、当の銀行はずっとレガシーシステムを維持してきたため「変え方が分からない」といったジレンマに陥っていたように思います。

 そこで取った方策がベンチャーと手を組むということでした。日本の銀行業界にとって幸いなことに、銀行を“ディスインターミディエート(中抜き)”するような、お金の出し手と受け手を勝手につなぐPayPalのような存在は日本にはあまりいませんでした。

 その理由は、銀行と伍して勝負するためには大きな資本が要るからです。日本のベンチャーキャピタルの市場は今なお小さく、それほど多額の資金を調達することができません。

 結果として日本で生まれたのは、マネーフォワード、freeeなど、どちらかというと従来銀行や証券がやってきたことには立ち入らないで、フロント部分だけスマホでアプリを提供して、ユーザーに利便性を提供するベンチャーです。彼らと手を組むことは銀行や証券にとってプラスに働くと考えられた。ネガティブな言い方をしてしまいましたが、これもフィンテックへの取り組みの一歩だったといえるでしょう。

 一方、欧州に目を転じてみると、銀行業界とフィンテック業界は協調・協力するという感じではなく、全面抗争という様相を呈しました。そうした中、決済サービス指令 PSD2(Payment Service Directive 2)というのが出て、APIの開放をすべての金融機関に義務づけられました。

 日本でも一部これにならい、2018年の銀行法改正によって、銀行にAPI開放を努力義務化したわけです。これには大半の金融機関が対応を表明しており、その結果、銀行がAPIを開放、それをフィンテックスタートアップ企業がつなぎ、ユーザーに対してサービスを提供するという日本型のフィンテック市場という形になったわけです。

銀行業界がなぜ“今のまま”では続けられないのか

 しかし、私は今の体制をそのまま続けていくわけにはいかないと思います。スタートアップとの連携自体はいいことだと思いますが、こうした表面的な取り組みで銀行が根底から変わるわけではありません。

 具体的にいうと、一つは数多くの支店です。それこそ主要な都市の繁華街のど真ん中の四つ角にあって、午後3時にはシャッターを閉めて、土日は開けていません。昔は支店を目抜き通りに置くのは顧客から信頼を得るためにとても重要でした。

 しかし、今や基本的に店舗を持たない企業も信用されています。もう目抜き通りに立派な支店を出すというコストのかかる方法で信頼を担保する必要はないのです。そういう支店の敷地をより地の利を必要としている業界に賃貸するなど、もっと銀行業界に自由を与えてよいのではないでしょうか。

 次に人材の問題です。デジタルを活用した新しい環境では求められる人材が全然違ってきます。顧客にもネットリテラシー、金融リテラシーを持つ人たちがだんだん増えています。そういう顧客に対してどうサービスを提供すれば喜ばれるのかを考えなければなりません。金融というのは情報商材ですからそれに見合った売り方があるはずなのに、人海戦術で量を売るということにやたらとコストをかけているわけです。

 こうした銀行業界の抱えるコストの観点から、最近話題になっているのが「フィデューシャリー・デューティー論」です。これは日本なりに訳すと「顧客本位の業務運営」です。日本と米国、過去10年間ぐらいの投資収益はそれほど変わりません。

 しかし、その投資収益のうち、消費者が受け取っている割合でいうと米国が投資収益の8~9割なのに対し、金融機関が取っているのは1割ぐらいです。ところが日本の場合は、5割くらいを金融機関が取っていて、5割ぐらいしか消費者に還元できていません。その理由がコストをかけ過ぎていて消費者に渡せないということなのです。

 しかし、もう時代は変わりました。従来は必要とされていたものからこれから必要とされるものへ、経営資源を転換していかないといけません。これは金融機関にとっても、そこに勤めている人にとっても非常に大きな課題だと思います。


金融機関のサービスに対する報酬体系はゆがんでいる

 その一方で、日本の銀行は海外の銀行と比べて、取らなければならない手数料をきちんと取っていないという一面もあります。たとえば口座維持管理手数料がそうですが、日本は取っていませんし、紙の貯金通帳も日本ならではのものです。

 ドイツには一部ありますが、海外の銀行ではほとんど通帳を発行しません。通帳のコストは管理などもろもろ入れると一冊1,000円ぐらいになるはずです。しかも一冊ごとに200円の印紙税を税務署に納めなくてはいけません。

 利用者が預金通帳で現金を出し入れしたり、通帳に印字したりというのは、銀行にとってみると逆ザヤなサービスなのです。それでも続けているのは、日本の銀行が銀行であるための“義務”を果たさなければならないという考え方があるからでしょう。

 しかし、銀行もビジネスなのですから、そこはちゃんとサービスの提供に必要な対価を取るべきです。たとえば、預金というのも立派なサービスで、“たんす預金”に比べるとやはり銀行に預けたほうが安心ですよね。

 さらに、必要なときにはどこのATMでも引き出せますし、通帳記帳も可能です。これらは日本独自の素晴らしい仕組みなので、それに対して年間いくら、あるいは1取引いくらといった具合に手数料を払っても本当はおかしくないんですが、そういう合意が全然できていません。

 できない理由の1つには郵便貯金がありました。従来は国営で、手数料を取るなんて一切考えずにこれまでやってきたため、銀行はこれと競合しなくてはなりませんでした。そういう意味では、日本の金融機関のサービスに対する報酬の考え方は、非常にゆがんでいると思います。

【次ページ】旧館の後ろに新館を建てる考え方で変革を進めよ
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