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政府は2022年6月1日、「第6回デジタル田園都市国家構想実現会議」を開催、地方における官民のデジタル投資を大胆に増加させるデジタル投資倍増に取り組む「デジタル田園都市国家構想基本方針(案)」を公表し、施策の全体像をまとめた(6月7日に閣議決定)。2021年度補正予算と2022年度予算案を合わせて総額5.7兆円を投じる。デジタル田園都市国家構想は、政府が「新しい資本主義」実現に向けた成長戦略、そして、デジタル社会の実現に向けた重要な柱に位置づけている。同構想の概要を解説する。
「デジタル田園都市国家構想」とは何か?
デジタル田園都市国家構想とは2021年、岸田文雄内閣総理大臣の下で発表された「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されずすべての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現する」という構想である。
デジタルの力を全面的に活用し「地域の個性と豊かさ」を生かしつつ、「都市部に負けない生産性・利便性」も兼ね備え、「心豊かな暮らし」(Well-being)と「持続可能な環境・社会・経済」(Sustainability)の実現を目指すとしている。
政府は今後、地方創生関係交付金などによる分野横断的な支援を通じ、デジタルを活用して地域の課題解決に取り組む自治体の数を2024年度末までに1000団体に展開する計画である。
デジタル大臣の牧島かれん氏の資料によると、デジタル田園都市国家構想の成功の鍵となるのがデジタルの力だ。「暮らし」「産業」「社会」を変革し、地域を全国や世界と有機的につなげていく取り組みだという。具体的には、国が整備するデジタル基盤の上に、共助の力を引き出し、各地域で全体最適を目指したエコシステムを構築する。
「暮らし」という観点では、多くの場合、教育、仕事、治療・介護などのために「地域」から離れざるを得ない環境となっている。そのため、ゆりかごから墓場まで「田園都市」で最先端の知、仕事、文化とふれ合うことで、デジタルの力によって教育から生活、医療に至るまで時空を超えて最先端サービスの提供を目指すことが掲げられている。
また、都市空間では、職・住・学・遊が互いに近接したデジタルインフラが整った空間である「インクルーシブ・スクエア(IS)」を構築する。このISにデジタル田園都市に求められる機能や人材を集結し、密度の濃い空間に関係者を集めることで世界最先端のサービスを享受できる環境の構築を目指すという。
次に「産業」という観点では、「人と産業を呼ぶ」「デジタル地場産業を生む」「新たなビジネスを興す」という3つの段階(ステージ)で地域産業における構造変革を図る。
ステージ1では、サテライトオフィスにさまざまな人材・知見が交わる空間を作り、新たな産業創出の基盤を整える。ステージ2では、大学・高専などを核に人材や知見の環流を進め、デジタルを活用した新たな産業を生み出す。そして、ステージ3では、地域がそのコミュニティ力を生かして、世界へ羽ばたくベンチャー・新事業を生み出し育てることなど、ステージごとの取り組みが示されている。
「デジタル田園都市国家構想実現会議」とは
デジタル田園都市国家構想実現会議は、デジタル田園都市国家構想の具体化を図るため、全関係省庁、産業界やアカデミア、海外プレイヤーも巻き込み、地方自治体やビジョンを共有する事業者が一丸となって推進する。
会議の構成員は、以下の役職者である。
議 長 | : | 内閣総理大臣 |
副 議 長 | : | デジタル田園都市国家構想担当大臣、デジタル大臣、 内閣官房長官 |
構 成 員 | : | 内閣府特命担当大臣(地方創生)、総務大臣、文部科学大臣、 厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣そ の他内閣総理大臣が指名する国務大臣並びに地方活性化及びデ ジタルに関し優れた識見を有する者のうちから内閣総理大臣が 指名する者。 |
現在の会議のメンバーは以下の通りだ。
デジタル田園都市国家構想実現会議 名簿
議長 | 岸田 文雄 (内閣総理大臣) |
副議長 | 若宮 健嗣 (デジタル田園都市国家構想担当大臣) |
| 牧島 かれん (デジタル大臣) |
| 松野 博一 (内閣官房長官) |
構成員
野田 聖子 (内閣府特命担当大臣<地方創生、少子化対策、男女共同参画>)
金子 恭之 (総務大臣)
末松 信介 (文部科学大臣)
後藤 茂之 (厚生労働大臣)
金子 原二郎 (農林水産大臣)
萩生田 光一 (経済産業大臣)
斉藤 鉄夫 (国土交通大臣)
石山 志保 (福井県大野市長)
井澗 誠 (和歌山県白浜町長)
太田 直樹 (New Stories 代表取締役)
加藤 百合子 (エムスクエア・ラボ代表取締役社長)
正能 茉優 (ハピキラ FACTORY 代表取締役)
竹中 平蔵 (慶應義塾大学名誉教授)
冨田 哲郎 (東日本旅客鉄道株式会社取締役会長)
野田 由美子 (ヴェオリア・ジャパン株式会社代表取締役会長)
平井 伸治 (鳥取県知事/全国知事会会長)
増田 寛也 (東京大学公共政策大学院客員教授)
村井 純 (慶應義塾大学教授)
柳澤 大輔 (カヤック代表取締役 CEO)
湯﨑 英彦 (広島県知事)
若宮 正子 (特定非営利活動法人 ブロードバンドスクール協会理事)
構想実現を支えるデジタル基盤の構築のイメージとは?
デジタル田園都市の実現を支えるデジタルインフラは国が主導し、民間活力も活用しつつ、最先端のデジタルインフラを日本全国に整備する。デジタルインフラでは「5G(第5世代移動通信システム)」を、2023年までに人口カバー率を9割まで引き上げる予定である。
データセンターなどのデジタルインフラは東京圏に過半が集中しており、十数カ所の地方データセンター拠点を5年程度で整備する。また、「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」として、今後3年程度で日本海側を周回する海底ケーブルの完成させる計画だ。
さらにデジタル田園都市の実装にあたっては、先進的なサービスの開発・実装から展開し、徐々にその充実を図る。具体的には、スーパーシティ構想、スマートシティ・プロジェクト、MaaS、スマートヘルス、防災、スマート農業、行政のDXなど、それぞれの地域の実情に合わせる。デジタルの効果を実感できる分野から、官民連携してサービスの構築を進めるという。
そして、官民が連携してサービスを構築したり、民間同士や官民などセクター間のデータ連携実需が見えてきた段階で、データ連携基盤を整備する。また、行政機関間でのデータ交換の基盤となる「公共サービスメッシュ」については、国自身が整備して自治体事務にも提供する計画だ。
官民連携や民間サービス間でのデータの交換を担うエリア・データ連携基盤は、コアとなる部品とアーキテクチャを国が提供する。これらの基盤整備によって、すべてのサービスで必要に応じて、国や自治体、民間企業、教育・医療など凖公共分野のサービスを担う機関、ベースレジストリ、インターネット上にあるオープンな情報などにアクセスするとともに、データを利活用できる環境を構築する。
また、マイナポータル、統合ID基盤、ガバメントクラウドなどの共通に必要となるデジタル基盤を、地域の自主性のみに任せず、国が積極的に整備していく。
デジタル田園都市への「デジタル日本改造ロードマップ」
産業拠点の創出とデジタルインフラの全国的な整備を通じた「デジタル技術の最大活用」が実現できれば、地方においても大都市に負けない存在感を示せる可能性がある。
経済産業省は2022年1月6日に「第2回 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会」を開催し、デジタル田園都市国家実現に向けた「デジタル日本改造ロードマップ」を示すことを提案した。
「デジタル日本改造ロードマップ」とは、地域におけるデジタル利活用とデジタルインフラの整備に加え、再エネ供給を最適化するエネルギーインフラや交通・物流のデジタル化、これらを制御するデータ連携基盤の整備も含めた全体像をイメージしたものだ。また、具体的な技術の進展も踏襲している。
デジタル日本改造ロードマップにおけるデジタル産業基盤の発展イメージとして、2030年前後時点で「量子コンピューティングの実装」「データセンター」「マルチアクセスエッジコンピューティング(Multi-access Edge Computing:MEC)」「オール光ネットワーク(伝送・交換の処理を光信号のままで行う高速大容量・低消費電力なネットワーク)」利用範囲の拡大を示している。
日本全国にデジタルインフラの環境が整備されれば、地方でも働く機会が増え、新産業創出やDXのチャンスは地方の方が充実する可能性はあるだろう。
【次ページ】デジタル田園都市国家構想交付金と地方財政措置
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