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  • 2016/12/08 掲載

元陸自戦車連隊長が語る「部下に死を命じる」リーダーが持つべき「4つの資質」(2/2)

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(1)戦術

 戦術は職務遂行の原点であり、最高のレベルが求められます。

 指揮官が状況判断し、決断して、命令を発出する際のより所となるのが戦術です。世界中の軍隊が、指揮官教育の骨幹として戦術を重視するのは、極論すれば、指揮官の戦術能力が国家の運命を左右することをよく知っているからなのです。

 戦術は、部隊を動かして任務を最適に達成するための、術(アート)であり、科学(サイエンス)です。戦術が一朝一夕で身につく「虎の巻」はありません。知識を学び、部隊を動かし、戦史で検証することを、三位一体としてコツコツと自学研さんする以外の妙案はありません。

 小隊長から連隊長まで、およそ20年間という歳月が必要です。この間に身につけた戦術レベルが、戦場という究極の場で試されるのです。軍人の目標として「花の連隊長」という言葉があります。連隊長は、有事を想定して、最高レベルの戦術を身につける義務があります。

(2)統率・統御

 統率・統御は部隊団結の基盤です。格好よく言えば、「この部隊長と一緒に戦いたい」という部隊をつくることです。これは答えのない命題ですが、私心を捨てて純粋に任務にまい進すること、最もイヤで危険な局面から逃げないこと、部下の誰よりも判断力・実行力が優れていることなどが考えられます。

 統率は権限に基づいて相手を強制的に従わせること、統御は相手が自発的に従うこと、と言われます。ときには非情も辞さない強面(こわもて)と、「男は黙ってサッポロビール」の心境も必要でしょう。

(3)マネジメント

 マネジメントは管理者としての常識です。連隊長は部隊指揮官として人事管理、物品管理、訓練管理など、警備隊区担当部隊長――私の場合は北海道西胆振(にしいぶり)地区の3市、3町、2村が警備隊区だった――としての行政管理(自治体との諸関係)があります。

 これらは、職種部隊だけの勤務ではなく、陸上幕僚監部や方面総監部などの勤務を通じて軍政、軍令いずれの分野をも経験し、いわばOJT(On the Job Training)で学ぶことが必要です。当然ですが、個人でできることには限界があり、大きな意味での人事管理の問題でしょう。

 後継者の育成も重要な課題です。30代までは先輩・上司などから育てられる部分が多いのですが、40代ともなれば後継者を育てることを意識しなければなりません。組織を発展させるためには、よりよき後継者を育てることが何よりも大切です。

(4)教養(一般常識)

 教養(一般常識)は人間としての基礎です。これは本を読むということに尽きます。職務に直結すること、世の中の動き(政治、経済、歴史、軍事、文化、テクノロジーなど)に関すること、人間力を高める分野(哲学、道徳、倫理など)等々を、渉猟(しょうりょう)することしかありません。俸給の一部に本代が含まれていると考えるべきです。

photo
『戦車の戦う技術』(木元 寛明 著)
※クリックするとアマゾンのページにジャンプします。
 私は、読書の動機付けは「好奇心」にあると思います。何にでも関心を抱き、「見てみよう、調べてみよう、行ってみよう、読んでみよう」と挑戦することが大事です。インターネットの利便性は貴重ですが、読書の豊穣さにはかないません。

 最後になりますが、読者諸兄姉には「浮世離れしている」との声が上がるかもしれません。私は、「連隊長は『部下に死を命じるポストである』と自覚することが最低限の心構えである」と確信するものです。

 軍隊・軍人とは本来こういう仕事であり、それが誇りなのです。私は2000年に退官しましたが、「今日以降、部下に『死を命じる命令』を出すことは2度とないな」と、肩の荷がスーッと軽くなったことを思い出します。

木元 寛明(きもと ひろあき)
1945年、広島県生まれ。1968年、防衛大学校(12期)卒業後陸上自衛隊入隊。以降、第2戦車大隊長、第71戦車連隊長、富士学校機甲科部副部長、幹部学校主任研究開発官などを歴任して2000年に退官(陸将補)。退官後はセコム株式会社研修部で勤務。2008年以降は軍事史研究に専念。主な著書は『自衛官が教える「戦国・幕末合戦」の正しい見方』(双葉社)、『戦術学入門』『指揮官の顔』『ある防衛大学校生の青春』『戦車隊長』『陸自教範『野外令』が教える戦場の方程式』『本当の戦車の戦い方』(光人社)。

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