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- 2024/08/14 掲載
【現地レポ】アジア最大のAIイベントで注目、次に来る「分散型AI」のヤバさとは?
アジア最大のAIイベントでの「注目セッション」
今年6月、シンガポールのマリーナベイ・サンズにて、アジア最大のAIイベント「SuperAI」が2日間にわたり開催された。世界中から5000人以上が参加、AI業界のリーディングカンパニーが一堂に会するこのイベントでは、大規模言語モデルの進化や生成AI、ロボティクス、分散型AI、規制と倫理などのホットトピックが議論された。注目セッションの1つが「Decentralized Intelligence: The Vision for Universal AI」だ。分散型コンピューティングとAIの融合というテーマのもと、AI企業Fetch.aiの創業者兼CEOのフマユン・シェイク氏、ゲーム領域を専門とする分散型AI企業Virtual Protocolの創業者ジャンセン・タン氏らが登壇し、ユニバーサルなAIを実現するための分散型インテリジェンスのビジョンについて議論を交わした。
分散型AIは、ブロックチェーンを通じて、AIの民主化と中央集権化されたテック大手企業への対抗力となることが期待されている分野だ。しかし一方で、大規模言語モデルのトレーニングには膨大なGPUリソースと複雑なコンピューティングの仕組みが要求されるため、分散化への道のりは容易ではない。
この難題に取り組む1つのアプローチが、AIのインファレンス(推論)フェーズに特化した分散型インフラの構築である。
大規模言語モデルの事前トレーニングやファインチューニングには、何百、何千ものGPUを高速バスで結合した集中型のアーキテクチャーが不可欠だが、トレーニング済みのモデルを使った推論であれば、分散型のWeb3インフラ上でも実現可能だというのが、分散型AIの有力な適用領域として浮上している。
分散型生成AIの実現には多くの障壁が立ちはだかるが、オープンソースの生成AIモデルの主流化、推論特化型のユースケース、Web3インフラの大幅なスケールアップ、より小型で適応性の高い基盤モデルの開発など、着実に前進するいくつかの潮流が、分散化と中央集権化のバランスを変えていく可能性を秘めている。
こうした現状を踏まえ、セッションの登壇者らは、この領域がさらに前進するには、実際にこれらのテクノロジーを活用するユースケースが増えることが必須であるとの見解を示した。今後具体的なユースケースの取り組みが増えてくるものと思われる。
通信大手も注目の英スタートアップ企業とは
そんな分散型AIの最前線で名前が挙がるのが、シェイク氏が率いるFetch.aiだ。Fetch.aiは、分散型アプリケーション構築のためのオープンインフラを提供し、開発者や企業が「AIエージェント」を作成・展開・収益化できるようにすることをミッションとしている英国の企業である。Fetch.aiのエコシステムの中核を成すのが、自律的に意思決定や問題解決を行うことができるプログラム「エージェント」だ。分散型経済圏の中で、サプライチェーンの最適化、計算タスクの実行、取引の実現など、さまざまな役割を柔軟にこなす存在として位置付けられている。
エージェントは、Agentverseと呼ばれるSaaSプラットフォームで管理することができる。ここでは、エージェントのデプロイ、開発、登録など、ワンストップでのライフサイクル管理が行えるようになっている。
ユーザーとエージェントをつなぐインターフェースの役割を担うのがDeltaVとAIエンジンだ。DeltaVはチャットインターフェースとして機能し、ユーザーの自然言語入力をAIエンジンが解釈し、Agentverse上の最適なエージェントと結びつける。
Fetch.aiのテクノロジーは、大手企業にも注目されている。ドイツの通信大手ドイツテレコムは2024年3月、AIとブロックチェーン技術の統合を目指し、Fetch.ai財団との提携を発表した。Fetch.ai財団は、Fetch.aiと製造大手ボッシュが共同で設立した組織である。ドイツテレコムは、この提携により、産業領域におけるAIエージェントの活用などを進める計画という。
またFetch.aiは2024年3月、SingularityNETやOcean Protocolと合併、Artificial Superintelligence Allianceを結成したことを発表したが、これも大きなニュースとなった。このアライアンスの狙いは、スケーラブルな分散型AIインフラを開発し、汎用人工知能(AGI)や人工超知能(ASI)への道筋を加速させることにあるとされる。
Web3とAIに関する動向を見る上で、Fetch.aiの動きは見逃せないだろう。 【次ページ】ゲーム領域で存在感の分散型「AIエージェント」
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