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生成AIが急速に進化する中、その機能を各種アプリケーション(以下、アプリ)に取り込む動きが本格化している。果たしてアプリの機能は今後、どう進化していくのか。また、ユーザー企業にはどのようなメリットがもたらされるのか。IDC Japan Software&Servicies シニアリサーチアナリストの太田 早紀氏が、生成AI時代のアプリの動向とともに、その活用に向けて企業・従業員に必要なことを解説する。
本記事は2024年6月21日に開催されたIDC Directions Japan「AI Everywhere」がもたらすデジタルビジネスの加速の講演内容をもとに再構成したものです
AIによるアプリの機能強化の“2つ”の方向性
大規模言語モデルの性能向上に加え、処理に必要なITリソースを抑え、各現場への配備を可能とする小規模言語モデルの開発、さらに基盤モデルのマルチモーダル化など、生成AIの進化が加速度的に進んでいる。
IDC Japan Software&Servicies シニアリサーチアナリストの太田 早紀氏は、次のように語る。
「企業向けアプリの今後のモダナイゼーションにおいて、生成AI機能の取り込みが進むことに疑念を挟む余地はありません。それがアプリ自体、さらに企業の組織を変えていくことになります」(太田氏)
IDCはアプリを、「企業の収益構造プロセスにひもづいたITテクノロジーのユースケース」と定義する。業務基盤としての必要性から、国内アプリ市場について、22年の1兆8,130億円から28年には2兆6,760億円にまで今後も堅調に拡大すると予測(図1)。23年から28年にかけてのCAGR(年平均成長率)は6.3%だ。
では、アプリの生成AI機能の取り込みを通じ、企業にはどのようなメリットがもたらされるのか。その点で太田氏が指摘するのが、(1)「従業員の強化」と、(2)「パフォーマンス向上のための組織の再構築」である。太田氏は、「IDCではAIがもたらす価値を短期と中・長期の双方の観点で捉えています。従業員の強化は即効性のある短期、組織の再構築は中・長期の貢献に位置づけられます」と説明する。
モデル最適化でデータは何より大事だが……
もっとも、それらの成果を引き出すには事前に理解が必要な点もあるという。まずは前者の「従業員の強化」に関してである。IDC Japanが24年2月に国内企業に対して実施した調査によると、企業の多くは生成AIのアプリによる活用法について、現在、次の2つの方向性──(1)「文書や対談の要約」「マーケティング向けをはじめとする、各種コンテンツの作成」などのユースケースにおける「アプリへの組み込み機能の活用」と、(2)「カスタマーサポート業務での対応」「各種知問い合わせへの回答推奨」に向けた「RAG/Fine-Tuningなどの手法を用いた回答/モデルの最適化による活用」──で検討を進めているという。
「ITサプライヤーがユーザー企業における生成AI活用を促進/支援していくためには、AIの基盤モデルやデータ基盤を提供する企業との連携、さらに、ユースケースごとの最適なモデル選定などが鍵を握ります。まずはそれらに早急に着手すべきです。並行して、ユースケースのカタログ化やテンプレートの用意、インターフェースの強化なども必要となります」(太田氏)
課題も調査によってすでに明らかとなっている。モデルの最適化に向けて、データは何より重要だ。一方で、業務遂行中のファイル保存に関するルールを全社で整備済みの企業は全体の32.9%と半数未満だ。
太田氏は、「組織規模が小さいほど、この傾向が強くなります。このままではデータの分散管理により、結果としてAIの力をそれだけ引き出しにくくなります。全社データの有効活用に向け、データの集約や管理に関する何らかのルール整備も急務です」と訴える。
「生成AIのCX関連業務における課題」との質問に対して、企業から回答の多かった上位3つが、「既存システム/業務フローとの統合性、互換性の欠如」(23.7%)、「AI利用での倫理的、法的取り扱いが不明瞭」(22.6%)、「データプライバシーとセキュリティの懸念」(22.5%)である。これらの課題対応に向け、アプリへのAI組込み機能の活用に向けた、「アプリ統合のためのAPIインターフェースやデータ連携機能の実装」や、コンプライアンス遵守のための「AI利用に関する明確なガイドラインの策定やデータプライバシーポリシーの明確化」などにも取り組むべきだという。
【次ページ】これまでと「別次元の能力」が従業員に求められる
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