NRIやDeNAが語る「ニューノーマルの経理」とは? 紙を“卒業”するために必要なこと
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経理部門におけるリモートワーク普及を阻む「紙の業務」
「NRIではもともと、事業部門から請求書発行の依頼を受けて、業務部が請求書を紙に印刷してお客さまに郵送していました。2020年4月の緊急事態宣言を受けて弊社ではリモートワークを大々的に導入しましたが、経理部門ではそうした紙の業務がネックとなり、担当者は請求書発行業務が集中する月末には出社を余儀なくされました」(冨嶋氏)
「2020年の緊急事態宣言下では、全社の出社率は2%ほどでしたが、経理部門だけは10%でした。また緊急事態宣言が解除された後も、全社の出社率が10%未満であるにもかかわらず、やはり経理部門だけは20%と高くなっています」(大脇氏)
こうした事態を改善するため、両社では現在、経理部門における紙業務の電子化を進めている。NRIでは、これまで右肩上がりに増え続けていた紙の請求書を電子化すべく、2020年5月にインフォマートの電子請求クラウドサービス「BtoBプラットフォーム 請求書」を導入した。
「自社内の業務はコントロールできても、取引先の仕事の進め方まではコントロールできませんから、どうしても電子化には時間がかかります。それに、紙の業務とデジタルの業務が混在している状況が最も手間がかかりますから、デジタル移行への過渡期においては、どうしても業務負荷が高まってしまうのです」(前田氏)
DeNAでも「BtoBプラットフォーム 請求書」を用いて請求書支払い処理の電子化に取り組むと同時に、紙の契約書への捺印・署名を廃止すべく、電子署名サービス「Adobe Sign」を導入した。
また、紙への依存度が高い「経費精算の領収書提出」も電子化すべく、コーポレートカードと経費精算クラウドサービス「SAP Concur」とを連携させ、コーポレートカードを利用した精算では領収書の提出を不要にすることを検討している。
「こうした各種ツールの導入を進めると同時に、社内ルールも整備しています。せっかくペーパーレスのためのツールを導入しても、紙を用いた手続きが残っていては意味がありませんから、ルールや制度をしっかり見直すことが重要だと考えています」(大脇氏)
請求書関連業務の電子化を手軽に実現できるクラウドサービス
「請求書関連作業を電子化する仕組みを導入しても、請求書データを処理する会計ソフトやワークフローツールとの連携が取れていないと、結局は人手によるツール間のデータ連携が必要になり、かえって業務効率が低下する恐れがあります」(青木氏)
そのため、現在、NRIではワークフローの効率化に力を入れているという。また、DeNAにおいても、経理業務の電子化ではシステム連携やワークフロー効率化の観点が重視されているという。
「DeNAでは、請求書の受領手段として、現在は『紙の郵送』『PDFのメール添付』『BtoBプラットフォーム 請求書』の3通りの方法が認められています。ただし、『BtoBプラットフォーム 請求書』なら請求書のフォーマットを統一できますから、会計システムなどとも連携が容易になります。ユーザーにとってもシステム転記が不要になるメリットがあるため、社内的にはこの方法を推奨しています」(大脇氏)
さらに同社では、「BtoBプラットフォーム 請求書」からPDF形式の電子請求書をダウンロードしてファイルサーバへ格納する作業を、同社が独自に開発したRPAツール「Coopel」を用いて自動化している。こうした自動化ができるのも、紙を廃止して電子化するメリットといえるだろう。
なお、前田氏によれば、直近の電子帳簿保存法の改正や、2023年10月に予定されているインボイス制度の導入といった法改正を契機に、一気にデジタル化を進展させようと考える企業が増えているという。
「これまでテレワーク導入が遅々として進まなかった企業が、今回のコロナ禍を機に一気にテレワークへと舵を切ったように、外部要因によって強制的にデジタル化が進むことは、けっして悪いことではないと思います」(前田氏)
ちなみに冨嶋氏によれば、NRIも2023年のインボイス制度導入を機に紙の請求書の廃止と電子化を予定しているという。そして、それは「BtoBプラットフォーム 請求書」を選択した理由の1つにもなっている。
「法改正に伴う電子請求書のフォーマット変更に柔軟に対応するには、自動的にフォーマット変更に対応してくれるクラウドサービスのほうが有利だと判断し、『BtoBプラットフォーム 請求書』を選んだのです」(冨嶋氏)
また青木氏も、ツールベンダーとしての立場から、請求書の電子化におけるクラウドサービスのメリットを次のように強調する。
「私が所属するインフォマートのサービスは改正電子帳簿保存法にもいち早く対応していますし、将来のインボイス制度にももちろん対応します。オンプレミスでシステムを導入した場合は、こうした法改正に対応するためにシステムを都度改修したり、バージョンアップしたりする必要があります。しかしクラウドサービスなら、自動的に法改正に対応しますから、対応コストを大幅に削減できます」(青木氏)
「新しい経理」への変革を成功させるには
経理にデジタル技術を導入して業務を効率化することで、「将来的に経理部門は不要になるのではないか」と見る向きも一部にはあるようだ。しかし前田氏は、そうした見方を明確に否定する。「業務の『自動化』と『無人化』は明確に異なります。経理の仕事には、定型的な処理だけではなく、経営分析や不正チェックといった複雑で人間にしかできない仕事も数多く含まれています。したがって、定型業務の自動化で生まれた時間を使い、そうした創造的な業務を積極的に行う『新しい経理』を社内で広くアピールすることをお勧めします」(前田氏)
また、デジタル技術を使った新たな取り組みを始めるに当たっては、「まずは小さな規模で始めてみること」と、経理部門だけに閉じた取り組みとしてではなく「全社規模の取り組みにすること」が成功の秘訣だという。大きなビジョンを掲げるのも大切だが、まずは現場にとって身近なところから小さく始めて、できるだけ多くの人たちを巻き込んでいくことが重要なのだ。
「その際、ただ経理部門の中だけに閉じ込めるのではなく、社内の各部門から代表を募って委員会のようなチームを作るなどして、全社規模の活動に発展させることができれば、自ずと社内や経営陣の理解も得られやすくなるでしょう」(前田氏)
より広範な自動化・効率化を実現するために必要なこと
DeNAの大脇氏は、デジタル活用の仕組みの構築や運用を、IT部門だけでなく経理部門の現場でも容易に実施できるようにすることで、より広範な自動化・効率化が可能になるという。「DeNAでは、定型業務のうち業務量が多い領域はシステム化し、業務量がさほど多くない領域についてはIT部門主導でRPAツールやワークフローツールなどを適用した自動化・省力化を行います。そして業務量が少ない領域に関しては、IT部門が主導してもなかなか費用対効果を見込めないため、現場ユーザー自身が自動化・効率化の仕組みを構築するスキームを採用しています」(大脇氏)
具体的には、前出のRPAツール「Coopel」やサイボウズの「Kintone」などを使って、ユーザー自身がEUC(エンドユーザーコンピューティング)で業務自動化の仕組みを実現するというやり方だ。ただし、現場にすべてを任せきりにするとITガバナンスが効かなくなる恐れがあるため、権限管理や命名規約といった必要最低限のルールを「緩い統制」として定めた上でEUCを実践しているという。
また、こうした取り組みの成果を1社だけで囲い込むのではなく、複数の会社で共有して互いにメリットを共有することで、Win-Winの関係が築けるのではないかと青木氏は提言する。
「経理部門の定型業務の内容は、どの会社も大差ありません。こうした非競争分野の業務に関しては、『BtoBプラットフォーム 請求書』のような製品を多くの企業が導入することで、互いにノウハウを共有できるようになり、ひいては業界全体で業務改善のメリットを享受できるようになると思います」(青木氏)
新型コロナウイルスの脅威は、いまだ収束せず、2021年1月8日には、一都三県に再び緊急事態宣言が発令された。紙の書類のために出社するような愚かな事態は一刻も早く止めるべきだ。そのためにも、今こそ「BtoBプラットフォーム 請求書」のようなクラウドサービスを導入し、「新しい経理」へのバージョンアップを決断すべきではないだろうか。