“ユーザー目線”で進める行政のデジタル変革とは?政府CIO上席補佐官に聞く
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日本の変化に向けた、行政のデジタル化や官民協働
日本はいくつもの社会課題を抱えている。1つは少子高齢化による人口減少。このまま推移すれば、日本の総人口は2030年の1億1600万人を経て2050年には1億人を割る。税収や労働人口の減少により、行政サービスや社会インフラの維持が困難になると見込まれている。また住民の多国籍化も進み、文化的な溝を埋める施策の必要性も高まる。つまり、行政サービスを提供するリソースが減少する一方で、利用者個人のQoL(Quality of Life)を維持するためのコストは上昇するという“ギャップ”が予測されているのだ。
「こうした中で政府が取り組むのが、『デジタル技術の徹底活用』と『官民協働』を両輪にした、行政機関の縦割り、国と地方、官と民などの枠を超えた全体最適の視点で行政を革新するデジタル・ガバメントです。行政のデジタル化や、行政機関以外(民間企業やNPO等)との協働によりこのギャップを解消することを目指します」(座間氏)
そして、その実現の基盤となる政府情報システム/データ整備の方向性を示すために、政府CIO補佐官で構成されるデジタル・ガバメント技術検討会議が2020年3月に策定したのが「デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザイン」なのである。
行政と市民ニーズのギャップを埋める3つの基本方針
「デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザイン」では、3つの基本方針を策定している。同時に、リテラシーの観点では「デジタルデバイドの回避に向けた認識/表示技術の活用」、セキュリティの観点では「個人の判断によるサービスの取捨選択」という提供指針も定められた。その上で、2025年と2030年に向けた目標を具体化するために、「防災/減災」「創業/事業運営/働き方」「死亡/相続」の分野でのユースケースを例示している。
「10年後の目標は実感が湧きにくく、見直しが進みにくいと判断されたことで、より現実味のある5年後の中間目標も定めました。それらの付加価値を高めたのが10年後の目標となります」(座間氏)
たとえば、防災/減災害では、2025年までに「避難などの周知方法のUI/UXの多様化」や「災害状況のリアルタイム把握などの仕組み」を目標として定めつつ、30年までにはデータを活用した防災・減殺対策の具現化を目指すとしている。
民間との連携で“使いやすい”サービスを創出
これらのグランドデザインを下支えするのがシステム/データ整備における4つの基本原則だ。「目的が十分理解されないため、立案したIT施策が進まない経験が過去にもありました。また、理念先行で実装が現実的でなかったこともあります。その回避のため、『なんのため』と『どうやって』を具体的に提示したわけです」(座間氏)
基本原則の1つ目は「ユーザー体験志向」だ。
行政が作るシステムはユーザーにとって使いにくいものになることも少なくない。そこで、サービス提供にあたっては民間に協力を仰ぎつつ、行政はサービスのAPI化とAPIカタログの整備に注力する。これにより、行政サイドは人材不足の解消を見込むことができる。またこの手法においては、行政が多様なサービスと接続する点を踏まえ、セキュリティモデルもゼロトラストモデルを取り込んでいく。
「たとえば住民票の発行はコンビニで可能であり便利になったと言われますが、次の工程、つまりどこでどのように使われるかまで考えてサービスを提供する民間とは対照的に、行政は住民票の使い道までは考えが及びません。その改善に向け民間と協業するとともに、デジタル・ガバメント実行計画内の『サービス設計12箇条』を基に、UI/UXの改善や行政サービスのエンド・トゥ・エンドでの利便性向上などに取り組みます」(座間氏)
2つ目は「データファースト」だ。
国や地方公共団体はすでにオープンデータの提供を進めているが、書式や文字種類の不統一といったデータ品質の低さによって利用が広がっていない。そうした状況が今後のワンストップ・サービスで発生することを防ぐために、行政サービスや社会活動の基本となるデータ(ベース・レジストリ)を整備すると同時に、データ品質を高めるための指標も策定する。
座間氏によると、データ活用のエコシステムの構築もデータファーストでは重要だという。ベース・レジストリとして公開したデータの活用が進めば、最終的に行政にフィードバックされることでデータ品質の維持/向上につながるからだ。「そのためのデータマネジメント体系の整備とともに、人材も官民共同で育てる必要があります」と座間氏は語る。
クラウドベースの政府情報システムの未来像
3つ目は「政府情報システムのクラウド化・共通部品化」だ。行政システムのオープン化が進む半面で、その構造はいまだレガシーが色濃く残り、そのことが業務効率化に向けたロジック変更やデータ活用の“壁”になっているという。座間氏が危惧するのが、こうした課題を抱えたままクラウド・バイ・デフォルト原則によってシステムがクラウド上に移行されることだ。
それを避けるために、クラウド活用とAPI連携を前提としたビルディング・ブロック型アーキテクチャの移行法に関するガイドを作成するとともに、参考情報として事例集も作成する。
また、セキュリティ確保に向け認証機能用などの共通部品も整備を進めるという。未来像として描くのは、APIと共通部品の活用で個別のサービスを実現し、アジャイル開発やDevSecOps(開発ライフサイクルに堅牢性やセキュリティ対策を組み込むこと)を可能にするアーキテクチャだ。
4つ目は「政府のスマート化」だ。そのために座間氏が最重視するのがシステム調達法の刷新だ。
「従来からの入札では、応札側が多少、勘違いしていても金額を基に選ばれることがしばしばでした。その場合、ギャップの是正に別途、コストが発生してしまいます」(座間氏)
この改善に向けて計画しているのが対話型の調達だという。要件をベンダーにオープンに伝え、フィードバックを得つつ内容をブラッシュアップし、最終的に最も評価の高い提案を採用する方式だ。
ベンダー各社はアジャイルを推進する気概を
そのためにはシステム整備に精通した内部人材の育成が不可欠だ。同時に座間氏はベンダーにも従来のシステム整備からの脱却を求める。「ただ単に『アジャイルは危ない』とだけ説明するベンダーもいます。これまでウォーターフォール型でやってきている以上、その気持ちは理解できます。ただ、それでは一向にスマート化は進まず、時代遅れのシステムやサービスを使い続けることになります。一方、いくつかの先進的な諸外国ではアジャイル開発が着実に進んでおり、政府とベンダーの双方が新たなサービス開発に向けてノウハウを蓄積しています。これらを勘案し、ベンダー各社にはアジャイル開発をリードする気概を持って、我々にプレッシャーをかけるぐらいになってほしいと訴えています」(座間氏)
世界に目を転じれば、諸外国でも2030年を目標とするDXが加速しているという。「我々が掲げる目標をすでに達成できている国もある以上、日本ができない理由はない」と座間氏。行政サービスはこの5年、さらに10年で大きく変わることになりそうだ。