家事代行が「データ中心運営」で成功、“満足度トップ”企業のKPIとは
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自らの「共働きしながらの育児体験」がきっかけとなり起業
タスカジを運営する創業者兼CEOの和田幸子氏はもともと、新卒入社した大手IT企業でソフトウェアエンジニアとして働いた後、入社9年目に第一子を出産した。その翌年に仕事現場に復帰した後は、新製品のマーケティングや新事業の立ち上げなどのプロジェクトで活躍した。そんな同氏が大手企業でのキャリアを捨てて、タスカジを起業するに至った背景には、世の働く女性に掛かる過度の負担を何とかしたいとの強い思いがあったという。
「私自身、第一子の出産後に1年間の育児休暇をとった後に復職しましたが、共働きしながらの家事・育児の負担があまりにも大きくて、仕事上でのチャレンジをあきらめざるを得ないこともしばしばありました。私の場合はそれでも夫や会社から大いに理解や協力を得られたのですが、世の一般的な共働きの女性には家事・育児のしわ寄せが相当来ているはずだと感じました」
こうした個人的な思いがきっかけとなり、家事代行サービスの会社を起業するに至ったという。もともと同氏は学生時代から起業に興味があり、また新卒入社して6年目には企業派遣制度を使ってビジネススクールに通い、MBAも取得している。その際には同級生と実際に起業もしてみたが、事業テーマに対する思い入れが足りなかったせいか、あえなく失敗したという。
一方、タスカジ設立時に抱いていた思いは、極めて切実だった。
「働きながらの家事・育児の負担を身に染みて実感していましたから、『なぜ女性ばかりにしわ寄せが行くのか!』という強い怒りが起業の原動力になりました。ただ、個人的な思いだけではビジネスは成功しません。ライバルと比べたとき何が差別化要因になり得るか、じっくり考えてみました」
過去の自身のキャリアを振り返ってみると、ITエンジニアとしての経験があり、ビジネススクールや新規事業立ち上げの仕事で培った事業推進力があり、さらには自身が働きながらの家事・育児に奔走されている当事者でもある。「家事代行サービスを手掛ける起業家の中に、これだけの条件がそろっている人はそうそういないはず」。そう確信して、起業を決意したという。
一方、数多ある家事代行サービスの中でタスカジはどのように差別化を図っていったのか。和田氏は「シェアリングエコノミー」「データ分析」というキーワードからその秘密を紐解いていった。
シェアリングエコノミーをどのように「家事代行」に生かすのか
家事代行サービスの利用者から見た場合のタスカジの最大の特徴は、その価格の安さにある。一般的な家事代行サービスの価格は、1時間当たり3500~6000円あたりが相場だ。これを1回3時間、毎週1回ずつ利用すれば、月当たり4万2000~7万2000円の出費となる。これは一般的な共働き家庭にとって、かなり大きな負担となる。「家事代行サービスは、家事・育児の負担から女性を解放するための切り札となり得ますが、実際の利用率はわずか3%に留まっています。その最大の理由は、価格が高いことにあります。そこで、利用料を1時間当たり1500円にまで引き下げることを目指しました。そのために採用したのが、シェアリングエコノミーの手法です」(和田氏)
タスカジは、自らがハウスキーパーを募ってユーザー宅に派遣するのではなく、家事の仕事をしたい個人と、家事の仕事を頼みたい個人とが出会い、取引できる場所をオンライン上に提供する。個人間契約を媒介するプラットフォームを提供する役割に徹し、プラットフォームを利用するための手数料のみを収入源とする。
このように、間に業者を挟まない個人間取引を実現することで、極めて安価にサービスを利用できるようにしている。
なおタスカジでは、同社のサービスを通じて家事サービスを提供する個人のハウスキーパーのことを「タスカジさん」と呼び、サービス品質を維持・向上させるためにさまざまなフォローアップサービスも提供している。
たとえば、ベテランが新人に家事スキルを伝授する研修の場や、タスカジさん同士で情報交換や励まし合いを行えるオンラインコミュニティの運営、年に1度の「タスカジさん感謝祭」の開催など、ハウスキーパーのスキルアップやモチベーション向上に寄与するさまざまな施策を実施している。
また他のシェアリングエコノミーサービスと同様、レビューの仕組みを通じてサービスを受ける側と提供する側との間の信頼関係を構築している。サービスを受けた側が、ハウスキーパーの仕事ぶりをレビューすることで、評価の高い仕事を行ったハウスキーパーのモチベーションが向上するとともに、高評価のレビューが溜まるとサービスの最低価格を引き上げられる仕組みになっている。
このため、サービス提供側には「いい仕事をして、高評価のレビューを獲得しよう」というインセンティブが働くという。こうしたサイクルを回していくことで、サービス品質を維持・向上しているとした。これにより、2017年には「日経DUAL 家事代行サービス企業 ランキング」で1位を獲得したという。
「こうして、自分たちにぴったりのハウスキーパーを探している家族と、主婦をしながら働く方法を模索している個人の出会いの場を提供することで、今までは核家族の中で苦労しながらやりくりしてきた家事の問題を、外部の力を借りて解決できるようになります。こうして核家族を“拡大家族”へと進化させて、家族の形を再定義することが私たちが目指すゴールなのです」(和田氏)
データと課題の相関を見る
なお同社では、タスカジの利用者を増やし、サービス品質を維持・向上させるための経営戦略を立てる上で、データを積極的に活用している。和田氏によれば、現状では家事代行業は需要に対して供給が圧倒的に足りない状況にあり、いかに需給バランスをうまく取るかが成長とサービス品質を両立させる上で重要だという。かつてはこのバランスを取るために、さまざまなデータをExcelに取り込んで集計・分析を行っていたが、さまざまな面で課題や制約が多かったと同氏は振り返る。
「Excelを使っていた頃は、週に1回の頻度でしかデータの集計・分析を行えず、どうしても打ち手が後手に回りがちでした。そこでウイングアーク1stのBIツール『MotionBoard』を導入し、毎日最新のデータをさまざまな切り口から分析できる環境を整えました」
その結果、データの中から新たな知見が次々と見いだされたという。その最たるものが、「ハウスキーパーの設定枠数の推移」に関するデータだ。タスカジでは、ハウスキーパーの空き時間をサイト上に公開し、それを見たユーザーが家事仕事を依頼するが、ハウスキーパーのモチベーションが高ければ高いほど、サイトに公開する空き時間の枠の数が増えるという。
この相関に気付いたのも、MotionBoardを導入して、データをさまざまな角度から分析できるようになったからだ。その後同社では、毎日欠かさずこの指標をチェックしているという。
「データに基づくサービス運営」を実現させるには
また、これらの枠がどれだけ埋まっているかを示す「予約率」の指標も、やはり必ず毎日チェックしているという。こちらは、予約率が高ければ高いほどハウスキーパーの稼働率も上がるが、上がりすぎて常に予約率が100%の状態だと、利用者側から見ると希望する時間に作業を依頼できなくなってしまうため、サービス品質の低下とそれに伴うユーザーの離反を招きかねない。そこで、もし予約率が低ければキャンペーンを打って利用者を募り、逆に高すぎればキャンペーンを中止するなど、この指標を基準にして常に受給バランスの最適化を図っているという。
このように同社では、MotionBoardの導入によってデータの高度な活用を推進し、和田氏が創業時に掲げた「ITの強み」をより生かしたサービスの実現を目指している。
「毎朝行っている定例会の場で、参加者全員で必ずMotionBoard上で重要指標の値を確認していますが、定例会に参加できなかったメンバーも、いつでもMotionBoardにアクセスして自身に関係するデータをチェックできるようになり、社員の当事者意識がとても高まりました」(和田氏)
このように、マネージャーだけでなく、スタッフもデータという共通言語を設けることで、連携を強化しているとした。
タスカジでは現在、Salesforce.comを導入してタスカジさんの育成フローを管理している。和田氏はこのデータとMotionBoardのデータを掛け合わせてサービス全体の流れを可視化する取り組みにもチャレンジすると宣言、講演を締めくくった。