ビジネスに直接貢献できるITインフラを構築するポイントとは
- ありがとうございます!
- いいね!した記事一覧をみる
“スマート”なインフラ構築のビジョン
まず基調講演では、システム製品事業 インダストリー営業担当 執行役員 高橋 信 氏が登壇し、「これからの企業成長をリードするITインフラ」と題して、日本IBMが考えるこれからのITインフラについて説明した。
高橋氏は、ITのメガトレンドとして、
- ソーシャルメディアとモバイルの普及拡大
- ビッグデータ
- IT基盤の集約と統合
- クラウドコンピューティングの採用増加
- 増加するセキュリティ脅威
の5つを挙げ、各トレンドの概要と課題を説明した。
このうちの一例として、ビッグデータについて、高橋氏は次のように説明する。
「ビッグデータに関しては、一般には企業データの容量(Volume)が増大していくという議論が少なくないのですが、日本IBMではデータの種類(Variety)、データを経営に活かすための頻度・スピード(Velocity)、そして意思決定に必要なデータの正確さ(Veracity)も非常に重要だと考えています。」(高橋氏)
そして、膨大なデータをミリセカンド単位で判断するアメリカの国防システムやストックホルムの交通システムを例に挙げ、「膨大なデータの中から瞬時に意味のある情報を取り出して、アクションを起こすことが重要です」と強調した。
IT基盤の集約と統合については、仮想サーバ数の増大によりITが複雑化した結果、サーバの運用管理にかかるコストが増大しているとし、新たな管理手法が求められている。また、セキュリティについても、その脅威が増大している。
「現在、セキュリティ攻撃の平均回数は1日あたり約6万回、データ侵害時の平均損害額は1回あたり平均5億円にのぼります。これは直接的被害であり、その後の風評被害まで含めると、金額はさらに膨らむでしょう。こうした攻撃に対して、いかに堅牢なシステムを構築するかが、我々の課題だと考えています。」(高橋氏)
これらの課題を解決し、企業変革を実現するスマートなITインフラ構築のアプローチが、IBMの掲げる「Smarter Computing」だ。
高橋氏は最後に、IBMの製品と研究開発についても言及。2012年にリリースされたPureSystems、Power Systems、ストレージ製品のXIV、1,400億円を投資して独自開発したプロセッサ POWER7+などを紹介し、「IBMは年間6,000億円の研究開発投資を10年以上継続しています。そして、いま、その成果が現れつつあるのです」と強調した。
ビジネスへの「直接的な貢献」が求められるIT部門
続いては、会場に配布されたトータライザー(簡易アンケート集計装置)を利用し、聴衆にアンケートを実施しながら、パネルディスカッションが行われた。パネラーは、基調講演を行った高橋 信 氏、日本IBMのデータ・サイエンティスト 中林 紀彦 氏、アドバンスト・テクノロジー・センターのセンター長である大久保 そのみ 氏の3名が登壇、Publickeyの編集長 新野 淳一 氏がモデレータをつとめて、活発な議論を展開した。
まず、新野氏はトータライザーを使って「自社でITに期待されていることは何か」というアンケートを実施。その結果は、「売上増大」が33%で1位となり、2位が「コスト削減」であった。この結果を受けて、高橋氏は次のように述べた。
「売上増大がコスト削減を抜いて1位になったことは喜ばしいことだと思います。お客さまとお話をしていると、システムのコスト削減、安定運用がいちばんと言われることが多いのですが、この結果を見ると、ビジネスに直結した“攻め”のところにITを活用したいという動きが現れているのだと感じます。」(高橋氏)
また、中林氏は、IT部門が置かれている厳しい立場に対する見解を示した。
「IT部門が、いままでになかったチャレンジを強いられているとも感じます。これまでは、ニーズに応じてシステムを導入し、安定稼働させて、コストを抑えるのが仕事でした。しかし今はビジネスに直接貢献しなければならないということで、IT部門のマネジメント層の皆さまは、辛い立場に立たされているのではないでしょうか。攻めと守りのバランスを取っていくことが求められていると感じます。」(中林氏)
データ活用に正解はない。まずは一歩を踏み出すことが大切
続くテーマは「データ活用」。ソーシャルメディアのデータ、センサーデータなどのいわゆるビッグデータを活用できるようになった結果、将来を予測しながらビジネスを展開することが可能になりつつある。こうした現状について、高橋氏は次のように述べた。「『競合他社よりも、どれだけ早く手を打てるかがすべて』とおっしゃる経営者が非常に増えています。過去のデータではなくて、いま何が起きているかを把握し、スピーディにアクションを起こすことが求められています。」(高橋氏)
ここで、新野氏は「自社でデータが活用されているか」というアンケートを実施。その結果は、「強くそう思う」が7%、「ある程度そう思う」が38%、「思わない」が34%であった。この結果を受けて、大久保氏は次のように感想を述べた。
「『強くそう思う』や『ある程度そう思う』と答えた方が増えてきたと思います。私は技術者のコミュニティに参加しているのですが、1年半前は、わからないという意見が大多数でした。ある程度、皆さんの努力が実ってきた結果ではないでしょうか。」(大久保氏)
ただ、「思わない」「わからない」という否定的な意見も依然として多いことから、新野氏は「データ活用が進まない理由は何か」と問いかけた。その結果、1位は「人材不足、スキル不足」という回答であった。この結果に対し、データ・サイエンティストの肩書きを持つ中林氏は、次のような処方箋を示した。
「今すぐに1人のスーパーマンを育成するのは困難ですので、分析が得意な人、それを解釈するのが得意な人というように、チームで対応することが重要です。また、データ分析の専門家の育成は、アメリカにおいても試行錯誤の段階で、まだ正解はありません。したがって、まずは身近な方法を使って一歩を踏み出すことが重要だと思います。」(中林氏)
運用管理コスト低減のポイントは「標準化」と「自動化」
2つ目のテーマとして議論されたのは、「ビジネスニーズに対応するITインフラの構築」だった。ECサイトの迅速な構築、モバイルの導入、企業買収に伴うシステム統合など、急速に変化するビジネスニーズに対応するには、柔軟でシンプルなITインフラが求められる。しかし、現実には、さまざまな障壁があり、実現は難しい。まず、新野氏は「新しいビジネスニーズに即座に対応できるインフラ実現を阻害する障壁は?」というアンケートを実施。その結果は、「新しい投資ができない」が20%で1位、2位が「担当者が忙しすぎる」、3位が「インフラが複雑すぎる」、4位が「現状のスキルでは対応できない」であった。
この結果を受けて、大久保氏は次のように述べて、増え続ける運用コストへの対応が不可欠であると訴えた。
「IT部門が新しいアイデアを出すには、心の余裕が必要です。そのためには、増え続ける運用業務を何とかしなければなりません。それができて、はじめて新しいスキルを身につける余裕もできますし、新しい投資も可能になるのです。」(大久保氏)
そして、新しいビジネスニーズに即応できるインフラを構築するためのひとつの対策として、クラウド化があるとし、日本IBMが行った社内向けプライベートクラウドの構築プロジェクト(IBM Cloud Showcase)の事例を紹介した。クラウド化のステップは、仮想化、標準化、自動化であるが、「標準化」と「自動化」にいかに取り組んでいくかということが重要であると説明した。
「もともと、増え続ける運用管理コストを何とかしたいということからスタートしたプロジェクトだったのですが、最初に取り組んだのが仮想化でした。その結果、確かにハードウェア的なコストや電力消費は減りました。しかし、仮想化層が入ることでシステムが複雑になり、さまざまなスキルも持つ人が必要になりました。そこで、次に取り組んだのが標準化と自動化です。標準化と自動化は、一回やっておくと、そのあと、どんなにサーバが増えても同じ仕組みで対応できるので、サーバが増える前にやっておくと、非常に効果的であることがわかりました」(大久保氏)
最後に新野氏は、「ビジネスに貢献するITインフラを実現するために、これから何をしたいと感じたか」というアンケートを実施。その結果、「さらに深くディスカッションをしたい」(16%)、「取り組みを加速したい」(31%)を抑えて、「もっと勉強したい。情報収集したい」(53%)という回答が1位となり、イベント参加者の一人一人が、ビジネスに貢献できるITを真剣に模索していこうとする姿勢が伺えた。