ペイジェント事例:DRサイト構築を競合差別化要因に、前月比問い合わせ4割増
DeNAや三菱UFJが出資する企業の決済代行サービス価値向上策
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事業継続と他社との差別化を目的にDRサイトを構築
決済代行サービスでは、クレジットカード決済やコンビニ決済、携帯キャリア決済などの多様な決済を一括提供し、オンラインショップやオンラインゲーム、コンテンツ販売等を運営するEC事業者は、ペイジェントと契約するだけで、複数の決済手段を導入・運用することが可能となる。
そんな同社がDR(ディザスタ・リカバリ)サイトの構築を目指したのには、大きく2つの狙いがあった。日本IBM主催のセミナー「IBM IT Infrastructure Day」において、ペイジェント システム部 部長 濱口 和喜 氏は次のように説明する。
「1つは事業継続です。大規模災害時でも事業を継続し、止まらない決済代行サービスを提供することがねらいです。もう1つは、競合他社との差別化です。弊社の調査では、決済代行サービスを提供する企業30社のうち、DRサイトを構築しているのは2社だけでした。したがって、DRサイトの構築は、大きな差別化要因になると考えました。」(濱口氏)
適切な役割分担で検討からわずか6ヶ月でリリース
こうして同社は、DRサイトの構築に着手。構築にあたっては、メインデータセンターから充分離れていること、メインデータセンターと電力会社が別であること、メインデータセンターとまったく同じシステム構成であることの3つを条件とした。まったく同じシステム構成にした理由を、濱口氏は次のように説明する。「メインのデータセンターは二重化しても、いつ利用するかわからないバックアップセンターは二重化しなくていいという考え方がありますが、我々はそうは考えませんでした。あくまでメインデータセンターとまったく同じ構成にして、性能と可用性を担保し、サービスを通常どおり継続できることを最優先しました。」(濱口氏)
システムの特徴は、メインデータセンターとバックアップデータセンター間で、つねにデータを連携していることだ。具体的には、1日1回、ディスクイメージを転送し、リアルタイムで差分ログも転送する。そして、万が一の際には、この2つを合わせて最新の状態を再構成する仕組みだ。
短期間での構築に成功した理由として、濱口氏は日本IBMとの作業分担、技術協力、およびIBM製品の信頼性の高さを挙げて、次のように説明した。
「日本IBMとの明確な作業分担によって、弊社の全リソースを決済接続先との調整に当てられたのが大きかったと思います。また、メンテナンス手順の作成や現地での作業など、日本IBMの技術者の方にはたいへんお世話になりました。製品についても、弊社は2006年の設立当初からデータベースまわりにIBM製品を使っていたので、その点でも信頼感がありました。」(濱口氏)
DRサイト構築のアナウンス後、電話の問い合わせが急増
「DRサイトの構築が完了したのは11月で、12月にプレスリリースを出したのですが、その結果、12月の電話での問い合わせ件数は11月を42%上回りました。さらに翌1月は、12月に比べて29%増加しています。したがって、他社との差別化という当初のねらいは、確実に成果を上げつつあると感じています。」(濱口氏)
決済代行サービスは、その性格上、どうしてもサービス内容が同業他社と似通ってしまう。このため、サポートの手厚さや決済方法の数などで差別化を図る傾向が強い。もちろん、こうした要素も重要だが、ペイジェントは顧客が求める最大のニーズは信頼性であると信じ、DRサイトの構築を決断した。電話による問い合わせの増加は、その決断が間違っていなかった証左といえるだろう。
「高いパフォーマンスにより、コア数を削減し、ソフトウェアライセンスを削減することができます。また、何台ものx86系サーバで動作している仮想サーバを1台に集約できるため、サーバ台数の増加による故障のリスクや運用負荷を低減することができました。」(佐野氏)
また、ストレージのNシリーズでは、ファイルシステムがストレージ側にあるため効率的な運用が可能で、NASやFC-SAN、iSCSIなどの多様な接続形態に対応できる。
「NシリーズのSnapMirrorを利用すれば、ディスクのイメージが自動的に取得されて、差分データが転送されます。世代を自動的に取ることも可能で、ユーザーがスクリプトを組まずに運用することもできます。」(佐野氏)
また、佐野氏はデータをリアルタイムで圧縮する「IBM Real-time Compression Appliance」というアプライアンスに言及。これは、サーバとストレージの間に設置するだけで、最大80%ものリアルタイム圧縮を実現する装置で、「リアルタイムのデータ圧縮を提供しているのはIBMだけ」(佐野氏)という。
今回、ペイジェントと日本IBMが取り組んだ本事例で非常に興味深いのは、DR対策という一見、“守り”とみられがちなIT投資を、自社のビジネスにおける付加価値として、顧客獲得につなげる“攻め”のIT投資に転換したことだろう。東日本大震災を経て、DR対策がもたらす価値は直接的なものだけにとどまらなくなった。今回の取り組みは、これからDR対策を検討する企業にとって、機知に富んだ取り組みだったのではないだろうか。