• 2024/08/24 掲載

米労働市場の転換点近い、FRBの議論に一石 求人倍率着目の論文

ロイター

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Howard Schneider

[ジャクソンホール(米ワイオミング州) 23日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)の引き締めでインフレが2023年以降低下した局面でも、米企業がコロナ禍の人手不足で大量に増やした求人を減らして労働需要を抑えたため、失業率の目立った上昇を避けられたことはFRB当局者の安心材料となってきた。

ただ、スイス・ベルン大学の経済学者ピエールパオロ・ベニーニョ氏と米ブラウン大学の経済学者ガウティ・エガートソン氏の論文は、求人数の継続的な減少が失業率の急上昇につながる転換点に近づいている可能性があると指摘し、FRBによる利下げの必要性を裏付けた。

カンザスシティー連銀開催の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で公表された論文では、「政策当局者は二つのリスクに直面している。一つは緩和が後手に回り高失業率を伴う『ハードランディング』(硬着陸)となる可能性で、もう一つは、金利を引き下げが時期尚早となり経済が(インフレ高進に)陥りやすくなるリスクだ」とし、「われわれの現在の評価では、前者のリスクが後者のリスクを上回る」とした。

FRB当局者も同様の結論に達したとみられ、9月17─18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを開始し、その後も継続するとみられている。

論文では「フィリップス曲線」として知られる失業率とインフレの関係、「ベバリッジ曲線」で示される求人と失業率の関係を単一の経済モデルに統合することで、FRBでの議論を深める内容となっている。

米国が最近経験したような持続的なインフレ高騰は供給制約と労働市場逼迫が組み合わさることではじめて生じると論文は指摘。

また、FRBの2%のインフレ目標と整合的な最大雇用の水準や、インフレ率を安定的に低く抑える際のコストといった問題に慎重にアプローチしている。

論文は基調的な労働需給を重視し、失業率そのものよりも、求人倍率に焦点を当てる手法を取っている。

求人数と失業している求職者の数がほぼ一致している場合、高インフレの抑制は失業率の大幅上昇を伴う。米国が1970年代に物価高と高い失業率の同時進行に見舞われたことが好例だ。

一方で、求人件数が求職者を上回る労働需給逼迫の状況ではインフレ抑制による失業率上昇というコストが比較的少ないとした。

2022年にウォーラーFRB理事と調査・統計担当のアンドルー・フィグラ氏が共同執筆したリポートでは、コロナ禍で急上昇した失業者に対する求人倍率を1倍に近づけることで、失業率をそれほど上昇させることなくインフレを抑えることができるとの見方を示唆。これは、インフレ高進を抑えるには失業率が10%程度に上昇する必要があるかもしれないとした主要エコノミストの予測と対照的だった。

実際にこの説は正しことが証明されている。求人倍率は足元で1.2倍まで低下し、FRBが注目するインフレ指標は2022年6月に付けた7%強のピークから2.5%に低下したが失業率は最近まで4%を下回って推移してきた。

論文は現状について、求人件数と求職数が拮抗し、失業率が4.4%近辺と長期平均を下回っているため、FRBがインフレ目標を達成できると予想。

ただ、求人倍率の低下が続けば失業率が急上昇する転換点に達し、「インフレを一段と低下させるのにより大きなコストを伴う公算が大きい」としており、同倍率が0.8倍に低下することになれば失業率が5%以上に上昇すると予想した。

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