- 2023/12/25 掲載
焦点:今年好調のイタリア国債、来年半ば以降に試練に直面か
[ミラノ 20日 ロイター] - 今年好調だったイタリア国債は、来年も前半は好ましい相場環境に恵まれそうだ。しかし6月以降は、政治情勢や欧州中央銀行(ECB)の今後の政策に絡んで問題が顕在化する可能性があるとアナリストは見ている。
2兆4000億ユーロと世界有数の市場規模を持つイタリア国債は、以前からその持続可能性がユーロ圏の安定にとって潜在的な弱点と目されてきた。こうした懸念は、インフレ抑制のためにECBが昨年から相次いで利上げを実施し、ユーロ圏金利が記録的な高水準に達したことで、一段と強まった。
しかしイタリア国債は今年、魅力的な利回りによって旺盛な需要を引き寄せ、政府が格付け会社による一連のレビューを切り抜ける予想外の手腕を見せたこともあり、好調な地合いで年を終えようとしてい。
注目度の高い10年物イタリア国債と同年限のドイツ国債の利回り差は19日に165ベーシスポイント(bp)を割り込み、8月下旬以来の低水準となった。
ただイタリア国債の対ドイツ国債スプレッドは他のユーロ圏諸国の国債を大幅に上回っており、イタリアの債務水準の高さに市場が依然として警戒感を抱いていることが分かる。イタリアの債務は国内総生産(GDP)の約140%に相当する。
資産運用最大手ブラックロック(イタリア)のチーフ投資ストラテジスト、ブルーノ・ロヴェッリ氏は「10年物イタリア国債は2024年に対ドイツ国債スプレッドがやや拡大するかもしれないが、アンダーウエートのポジションを正当化するほどには広がらないだろう」と予想した。
ブラックロックの10年物イタリア国債の評価は「中立的」で、他の欧州諸国の国債と等しい。
一方、インテーザ・サンパオロのチーフエコノミスト、グレゴリオ・デフェリーチェ氏はもっと明るい見方だ。発足から1年2カ月のメローニ政権は運営が安定し、イタリア国債は波乱のない1年になると予想。対ドイツ国債スプレッドは年末までに120―130bpに縮小する可能性があるとの見立てだ。
イタリア国債の対ドイツ国債スプレッドはこの数カ月で縮小。10月に発表されたイタリアの24年度予算における赤字拡大で格付け会社がネガティブな反応を示すのではないか、とのアナリストの予想とは異なる展開となった。
S&Pグローバル、DBRS、フィッチはいずれもイタリアの格付けを据え置き、ムーディーズは見通しを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げた。
ウニクレディトの戦略調査部門を率いるルカ・カッツラーニ氏は「イタリアが格付け会社の精査を乗り切ったことで、外国人投資家が来年イタリア国債の保有を上積みするかもしれない」と述べた。
イタリア国債は昨年の需要回復にもかかわらず、外国人の保有額がパンデミック前の19年の水準を依然として1000億ユーロ程度下回っている。
<年央から逆風か>
一方、ECBによる国債買い入れの段階的終了、EUの財政規律見直し、欧州議会選挙などのリスク要因があるため、イタリア国債は来年半ば以降の見通しに影が差すかもしれないとアナリストは警鐘を鳴らしている。
HSBCのシニアエコノミスト、ファビオ・バルボーニ氏は「イタリアにとっては夏以降が正念場。政府は2025年度予算で難しい選択を迫られるのではないか」と述べた。
ECBは先週、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)で償還分の完全な再投資を24年上半期で終了すると発表。PEPPの恩恵が大きいイタリアは大きな影響を受けそうだ。
HSBCのバルボーニ氏は「PEPP再投資の早期終了でイタリア10年物国債のスプレッドはリスクが高まる可能性がある」と述べた。
来年6月6―9日に行われる欧州議会選挙も、統合にあまり熱心でない政党が票を集め、イタリアのような財政的に弱い加盟国がより脆弱な立場に置かれることになれば、イタリア国債に打撃になるだろうと見られている。
パンデミックのために20年以降中断されているEUの財政ルール改正を巡る交渉の結果も、夏までには明らかになるはずだ。
加盟国の債務と財政赤字に上限を設ける「安定成長協定」の見直しでイタリアが大幅な債務削減を求められれば、条件を満たせなくなる可能性が高まるとアナリストは指摘。その場合は欧州委員会との摩擦が大きくなり、ECBは、EUの財政枠組みを遵守している国にのみ適用している「トランスミッション・プロテクション・インスツルメント(TPI)」を通じたイタリア支援を拒否するリスクも高まるだろう。
ウニクレディトのカッツラーニ氏によると、イタリアは24年の国債発行規模がネットベースで今年より約200億ユーロ多い約1350億ユーロとなり、この規模で買い手を見つける必要がある。
イタリア国債は主要な保有者であるECBがバランスシートの縮小を続けており、買い手確保が一段と困難になっている。
資産運用大手キャンドリアムのグローバル債券部門副責任者、シルヴァン・デ・ブス氏は、来年は国内の小口投資家がイタリア国債の重要な買い手となり、外国人投資家もネットベースで増える可能性があると述べた。
イタリア財務省は今年、国内の個人投資家開拓のために大々的な取り組みを行った。アナリストによると、24年も個人投資家が重要な役割を果たすが、その役割はやや小さくなりそうだ。
イタリア中銀の最新データによると、小口投資家のイタリア国債保有比率は前年の7.5%から今年9月には12.6%に上昇。一方、外国人の保有比率はこの間に28.2%から27.1%に低下し、20年3月の34.6%を大幅に下回った。
関連コンテンツ
PR
PR
PR