- 2023/12/22 掲載
全国消費者物価、11月は鈍化 サービス価格の人件費転嫁は不十分との声
Takahiko Wada
[東京 22日 ロイター] - 総務省が22日に発表した11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は106.4と、前年同月比2.5%上昇した。前年に大きく伸びた反動で生鮮食品を除く食料の伸び率が縮小、エネルギー価格の下落幅も拡大し、コアCPIは昨年7月以来の低い伸び率となった。サービス価格は伸び率を拡大したが、専門家からは日銀が目指す賃金と物価の好循環の観点ではまだ人件費の転嫁は不十分との指摘が出ている。
<下振れリスクを警戒する局面に>
コアCPIの上昇率は、ロイターがまとめた民間予測2.5%上昇と一致した。
生鮮食品を除く食料は6.7%上昇で、前月の伸び率7.6%を大きく下回った。
エネルギー価格は10.1%下落し、前月の8.7%下落から下落率が拡大した。燃料価格の下落で電気代は18.1%下落、都市ガス代は16.8%下落と、ともに前月より下落率が大きくなった。政府の電気・ガス価格激変緩和対策により、総合指数を0.49%ポイント押し下げた。
ガソリンは3.9%上昇となり、前月の5.0%上昇を下回った。元売り各社への補助金増額が押し下げた。
一方、宿泊料は62.9%上昇で1971年1月以降で最高の伸び率。政府の全国旅行支援による押し下げ効果が剥落、観光需要や人手不足も押し上げた。
コア対象522品目のうち、上昇は429品目、下落は59品目、変わらずは34品目。上昇品目数は2カ月連続で減少した。
総合指数は2.8%上昇で前月の3.3%上昇を下回った。生鮮食品の伸び率縮小が影響した。生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI)は3.8%上昇で3%台に下落、今年3月以来。
コアコアCPIは前月比(季節調整値)で0.1%上昇と、伸びは10月と変わらなかった。みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストは、コアコアCPIは年率換算で2%に達しないところまで鈍化してきており「今年の春をピークとして、物価基調の前月比はピークアウトが示唆される」と指摘した。
日銀は今年、展望リポートごとに物価見通しの上方修正を繰り返したが、酒井氏は「ここからは下振れリスクの方を気にするフェーズに入ってきた」とみる。足元では円高、原油安、生活必需品の値下げなど物価押し下げ要因が出てきている。
<「第2の力」見極め、来年4月分のCPIが重要に>
賃金・物価の好循環の実現を目指す日銀は18―19日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決めた。植田和男総裁は決定会合後の会見で、賃金・物価の好循環について「もう少し情報を見たいというのが現在の政策委員会メンバーの大勢」と説明した。
来年の春闘について、酒井氏は今年の3.6%を上回る3.8%の賃上げ率を予想しているが、問題は賃金上昇分のサービス価格への転嫁が十分かどうかだと話す。
11月全国CPIでは一般サービス価格が3.2%上昇と1993年3月以来の高い伸びとなった。総務省の担当者は、宿泊料、外食、家事関連サービスなど、コストに占める人件費の比率が高い項目について「過大な評価になりすぎないよう慎重に見る必要があるが、上昇基調にあることは確か」と述べた。
ただ、酒井氏は「90年代前半と比べて上昇品目の分布が偏っている」点に注目。人件費の転嫁が徐々に進みつつあるとみられるものの、まだ賃金と物価の好循環である「第2の力」のメカニズムは十分働いていないとする。
高水準の賃上げが継続的に実施されることで、家賃や公共料金といったサービス品目まで上昇し、賃金も物価も上がらないという日本に根付いてきた「ノルム」(社会通念)が本格的に変わるのか。酒井氏は、価格改定が集中する来年4月の全国CPIが重要になると話す。4月の全国CPIの公表は5月後半のため、「『第2の力』の発動状況をハードデータで確認するためには5月後半まで待つ必要がある」と指摘した。
(和田崇彦)
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