- 2023/12/19 掲載
アングル:米防衛各社、戦争長期化で利益見通しが改善
[ワシントン 18日 ロイター] - ロシアのウクライナ侵攻直後に米国防総省が世界最大級の防衛企業各社を会合に招いて生産を増強するよう伝えた際、ある最高経営責任者(CEO)は躊躇した。言葉にしたのは、戦闘が停止したときにロケットの在庫の山を抱えたくはない、という本音だ。事情に詳しい3人の消息筋が語った。
それから約2年が経過。米国と同盟国がロシアと中国からの一段と攻撃的な行動を想定して高額の兵器類や軍需品の調達を増やす中、大手防衛企業の見方は変わってきており、数社は来年に需要が強まると予想している。
計算は単純だ。例えば、ミサイル防衛の需要を満たすため、米陸軍向けのパトリオットインターセプターの生産は年間550基から650基に増える。単価を約400万ドルとすれば、1つの武器システムだけで年間売上高が4億ドル増える可能性がある。
旧式システムの増産は、高い投資費用を伴う新型システムの生産増強よりも収益性が高いため、需要が強まれば企業の利益を即座に押し上げる。
このような状況を踏まえた金融市場関係者の予想では、過去2年間でS&P総合500種と大きくアウトパフォームしてきた最大手級防衛企業の株価は今後も上昇し続ける。ロッキード・マーチン、ゼネラル・ダイナミクス、ノースロップ・グラマンの株価は向こう2年間で5―7%上昇すると見込まれている。
米大手防衛企業が加盟する業界団体、航空宇宙工業協会(AIA)のエリック・ファニング最高経営責任者(CEO)は、米国の武器在庫はロシアのウクライナ侵攻前には「満杯ではなかった」と指摘。「敵国はわが国の在庫が減り始め、底を突きつつあるのを見届けていた」と語った。そして結果的には、中国の威圧的行動や、ロシアによる侵攻への不安、中東における同盟国への支援によって需要が押し上げられたという。
<パトリオットとロケットモーター>
パトリオットシステムの生産は細かく分けられ、基本的製品の販売がいかに幅広い企業に影響するかが分かる。
レーダーと地上システムを手がけるRTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)は発射装置と制御システムの生産を年間12基に引き上げた。発射装置とレーダーを合わせた単価は約4億ドル。
ボーイングは、パトリオットミサイルを誘導するために使われるセンサーのアラバマ州ハンツビル工場における生産能力を向こう数年で30%余り増強すると発表した。
またロシアのウクライナ侵攻以降、多様な武器に使われる固体ロケットモーターの受注残高からも需要の強さが読み取れる。
米ロケットモーター大手のノースロップ・グラマンとL3ハリス・テクノロジーズはいずれも、需要が増えているという。
ノースロップ・グラマンは、増産の多くはウクライナで大きく使われている誘導多連装ロケットシステム(GMLRS)の弾頭とロケットモーターの需要に起因していると説明した。
ロッキード・マーチンは年間1万基のミサイルを生産しており、生産量を1万4000基に増やす方針だ。陸軍の資料によると、同社のミサイルは平均単価が14万8000ドル。ロイターの分析では、これまでに6100基超がウクライネへ送られている。
パトリオットインターセプターやGMLRSを手がけるロッキードのミサイル・ファイアーコントロール事業責任者、ティム・ケイヒル氏はロイターのインタビューで「毎日発射される武器が実質的な在庫の必要性を強めている」と指摘。その必要性が「低下するとは考えられない」と語った。
ロケットモーターを生産する企業の幹部は、バイデン政権は2024年度の国防総省予算要求で軍需品を優先すると指摘。この幹部は、総額8860億ドルの国防権限法案の通過を受けて受注を開始すれば、受注残高が大きく増えると予想している。同法案は先週に米議会で承認され、バイデン大統領が近く署名して成立する見通しだ。
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