- 2023/12/18 掲載
アングル:香港高級ブランド店に逆風続く、本土富裕層は体験型にシフト
[香港 18日 ロイター] - 香港の各高級ブランド店が正念場を迎え、大胆な変化を迫られつつある。買い物目的で訪れる中国本土の富裕層が激減し、観光客の志向が「爆買い」からSNSで映える人気スポットを回る「コト消費」に移行していることが背景だ。
新型コロナウイルスのパンデミック前は、世界的に高級百貨店や超高級ブランドの需要が衰える中でも、香港の高級ブランド業界は主に本土の富裕層による購入に支えられてきた。
しかし、現在は中国の海南島など競合する買い物拠点が出現した上に、消費者の好みが変化し、ネット通販も一層普及したため、香港における高級ブランドの需要も変調をきたしており、香港の観光産業全体も様変わりし始めたと複数の専門家は指摘する。
クシュマン・アンド・ウェイクフィールドのエグゼクティブディレクター、ロザンナ・タン氏は「香港で観光客が重視するのは『買い物尽くし』から、現地の文化をより深く探求することや、体験型の旅行へと切り替わっている」と述べた。
タン氏によると、香港での今年前半の宿泊客と日帰り客の買い物への支出額はそれぞれ、2018年の55%と18%にとどまり、小売店側は食品や飲料の提供により注力しているという。
こうした変化の矢面にさらされたのは、英系高級百貨店ハーヴェイ・ニコルズの香港店。所有するディクソン・コンセプツ(迪生創建)は先月、香港島・中環(セントラル)の高級商業施設「ザ・ランドマーク(置地広場)」内で20年近く営業してきた同店のリース契約を打ち切り、閉鎖すると表明した。
「香港にやってくる本土観光客はもはや、パンデミック以前のような買い物に重点を置く姿ではない」という。
香港への観光客自体も減少し、総数は18年の6割程度に過ぎない。このため香港英府や観光業界は本土勢の高級品買いへの依存度を下げ、自然やレジャー施設に呼び込む取り組みを進めている。
さまざまな業界団体や企業は、西側との関係再構築にも努めている。香港民主化デモへの対応で中国政府が2020年に香港国家安全維持法(国安法)に制定し、さらにゼロコロナ政策を打ち出すと、香港からは何万人もが外国に脱出し、西側との結びつきも弱まっていた。
ただ、こうした戦略が観光消費回復に功を奏するかどうかは、まだ分からない。香港の高級ホテルの稼働率は堅調だが、これはビジネス利用客が戻ってきたからだ。
高級ブランド業界では、ハーヴェイ・ニコルズが閉鎖を決めたほか、バレンティノやバーバリー、ティファニーなどが、19年以降に約40%下がったとはいえ、なおアジア最高水準の賃貸料となっている香港で、幾つかの店舗をたたんでいる。
<新たな動き>
それでもユーロモニター・インターナショナルによると、香港は今年の1人当たり高級品支出額でスイスとシンガポールをしのいで世界首位の座を奪回しようとしている。ユーロモニターの予想では、来年半ばまでには香港の1人当たり高級品支出額はパンデミック前の水準を取り戻す見込みだ。
一方、ピクテ・アセット・マネジメントの高級ブランド責任者、キャロライン・レイル氏は、香港の高級ブランドの業績は改善するだろうが、海南島などとの競争にさらされているので、以前のレベルに復帰するのは難しくなりそうだとの見方を示した。
一方で、レイル氏は複数のブランドが香港での事業を縮小しているが、その穴は別のブランドによって埋められるとみている。
ルイ・ヴィトンを展開するLVMHは、香港の将来性に期待しているブランドの一つ。パンデミック前には入口まで長蛇の列ができていたルイ・ヴィトンの店舗はまだ閑散としているものの、先月には港近くで有名人を勢ぞろいさせたファッションショーを開催し、高級ブランド界に新風を吹き込ませた。
シャネルは今年、銅鑼湾(コーズウェイベイ)に華やかな店舗を新設。デビアスとLVMH傘下のブルガリは、いずれも香港で最もにぎわう地区の一つである尖沙咀(チムサーチョイ)に主力店を開いた。
ザ・ランドマークを所有する不動産開発会社は、香港中心部のモールにおけるテナントの売上高と客足は、パンデミック前の水準を回復したと強気に話す。
実際、最近のザ・ランドマークを訪ねてみると、飲食店やイベント広場は大混雑だった。ところが、ブランド品を買っている人はほとんどいなかった。
この施設を歩いていた67歳のある男性は「ハーヴェイ・ニコルズがザ・ランドマークから出ていくのは面目丸つぶれだが、彼らは実際にビジネスがなかったというのが真実だ。非常に高級だが、客は誰もいない」と言い切った。
PR
PR
PR