- 2023/12/18 掲載
アングル: 米株押し上げた利回り低下、さらに進めば軟着陸シナリオ崩壊も
[ニューヨーク 15日 ロイター] - 最近の米国株を押し上げ、投資家のリスク志向を促進してきたのは米国債の価格高騰(利回り急低下)だ。しかしその国債利回りがさらに下がるには、米経済が著しく弱まる必要があり、株高を支える「ソフトランディング(軟着陸)」シナリオ自体が崩れかねない、との声が出ている。
米連邦準備理事会(FRB)が13日に終了した連邦公開市場委員会(FOMC)で予想外なほどハト派的な姿勢に転じたことで、米国債の値上がりに拍車がかかり、10年債利回りは7月以降で最も低い3.93%となった。10月につけた16年ぶりの高水準からは110ベーシスポイント(bp)前後も下がった計算だ。
こうした利回り急低下の影響は国債市場にとどまらず、住宅ローン金利を押し下げ、金融環境を緩めるとともに、株式を含めたリスク性資産に投資家を向かわせる効果をもたらした。そのためS&P総合500種は10月以降に15%近く、年初来では23%近くの上昇率を達成し、過去最高値にも接近してきた。
しかし一部の投資家は、FRBのハト派方向への姿勢転換の大部分は既に米国債の価格に織り込まれたとみている。ここからさらに大幅に低下するなら、経済成長が急激に鈍化し、FRBが利下げを加速せざるを得ないという展開になる公算が大きく、それはソフトランディングシナリオとは矛盾する。
T・ロウ・プライスの米コア債券戦略首席ポートフォリオマネジャー、スティーブン・バルトリーニ氏は「市場はかなり完璧な形でソフトランディングを織り込んでいる。(それに伴う利回りの)低下プロセスの大半は完了しており、米経済が景気後退に陥るとの観測が出てこなければ利回りは一段と下がらない」と指摘した。
FRBが13日に公表したFOMCメンバーの最新の政策金利見通しによると、来年の合計利下げ幅の中央値は75bpだが、LSEGのデータに基づくと市場は150bpの利下げを想定している。
テクニカル要因の面でも、国債利回り低下の持続は難しいかもしれない。BofAグローバル・リサーチのストラテジストチームは15日のノートで、利回り低下を見込んだ方向に取引が集中し過ぎているとの懸念から、一部投資家は利益確定を狙った反対取引に動きそうだと記した。
またFRB当局者の間からは、利下げへの政策転換が近いとの観測に否定的な発言も出始めた。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は15日、FRBは物価上昇率を2%の目標に向かわせ続けるために金融政策が適切な経路をたどっているのかどうかの点検作業を引き続き重視していると述べた。
タイフォン・キャピタル・マネジメントのジェームズ・クトゥラス最高経営責任者(CEO)は、米国債利回りがさらに低下する必須条件は成長失速懸念で、それは安全資産への逃避を生むとみており、実際に経済の勢いが非常に弱くなるまではイールドカーブの短期ゾーンで利回りはやや反発すると予想した。
利回りは下がり続けると考える投資家もいる。ブランディワイン・グローバルのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏は、足元の利回り急低下はFRBのハト派化に不意を突かれた金利弱気派のポジション巻き戻しで助長されたのだろうと分析し、利回り低下は目先鈍ったとしても、物価上昇率の下振れに伴って再び勢いが増し、10年債利回りは来年半ばに3.5―3.7%の範囲になるとみている。
ただラッファー・テングラー・インベストメンツのアーサー・ラッファー・ジュニア社長はそれほど米国債に対して強気になれない。これまでの利回り低下で金融環境が緩和的になり、FRBは来年インフレの揺り戻しを招かずに利下げするのがより難しくなる恐れがあるからだ。
ラッファー氏は、アトランタ地区連銀のGDPナウが推計する第4・四半期成長率は現在2.6%と、11月半ば時点から1ポイント余りも上振れたことを挙げ、利回り低下は行き過ぎだと警鐘を鳴らした。
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