• 2023/12/05 掲載

焦点:「金利ある世界」へ、手ぐすね引く金融機関 顧客変化に対応

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Ritsuko Shimizu Makiko Yamazaki

[東京 5日 ロイター] - 「金利のある世界」が近付く中、収益の押し上げ機会を逃すまいと金融機関が態勢を整え始めた。超金融緩和が続き、金利なき世界に浸ってきた各社にとって金利を稼ぐ原資となる預金は宝の山に転じる。顧客ニーズの変化への対応に加え、金利を知る行員が現場にいないなどの問題を解消すべく、各行が試行錯誤で動き始めている。

<新組織立ち上げ、勉強会>

大和証券グループ本社で秘書室長を務めていた山本聡氏は、今年4月から新たな部署を立ち上げることを命じられた。

新部署グローバル・マーケッツ戦略企画部は、これまで以上に法人客向けのホールセールと個人客向けのリテールが連携するための役割を果たす。山本部長は「30年に1度の転換期にある今、そこでちゃんと稼ぐため。環境の激変に応じて、先手を打つ」と立ち上げの意図を明かす。現在の陣容は兼務15人を含む38人。

金利上昇で機関投資家がポートフォリオを組み替え、売却も増加する中、富裕層を中心としたリテールが受け皿になり得るという。リテール側のニーズを同じ部署で把握していれば、在庫を持つことなくつなぐことができ、利益率も高まるとみる。

ゼロ金利やマイナス金利という超金融緩和が長く続いた日本は、金融機関と顧客との会話で円債は影が薄かった。みずほ信託銀行の菊地睦・総合戦略運用部次長によると、足元で金利が動き出し、先々、マイナス金利解除など金融政策の正常化も期待される中で、ヘッジ付き外債が厳しくなり円債にシフトする動きが出ている。「これまで光が当たってこなかったが、円債回帰の動きは出始めている」という。

ただ、短期金利が0.5%を上回るような本当の「金利のある世界」を知るのは、バブル期入行の社員が最後になる。今後、金利の上昇が本格化した場合、銀行の収益のみならず、顧客のニーズなどにも変化が予想されるが、肌感覚でわかる社員は限られる。

りそなホールディングスの南昌宏社長は「金利の上昇局面で顧客と対峙するのが初めての経験の人が多い」とし、チャネルの変化やテクノロジーの進化などを背景に「金利上昇局面で、顧客がどのようなスピードで行動を変えるかをしっかりと見定める必要があり、変化に適応する準備が必要になる」と話す。

同社では、先月まで基礎編と応用編に分けて2回の勉強会をオンラインで実施、支店長を中心に数百人が参加した。インフレとはどういう世界かというところから始まり、日銀の政策が金融機関にもたらす影響、銀行や顧客のバランスシートの変化まで内容は多岐に渡った。

三菱UFJ銀行でも今年度に入り、国内営業店のデリバティブなどの市場取引を推進するチームを作り、金利上昇時に出てくる顧客ニーズに対応する態勢を作った。また、今年1月からは営業店で計70回超にわたり金利変動時に顧客にどのような提案を行うかという勉強会を開催。さらに6月からは円金利上昇に関連したセールス・マーケット情報の配信も始めた。来年4月に入行する新人研修にも金利ビジネス講座を新設する予定だ。

日銀ウオッチャーとして著名な加藤出・東短リサーチ社長のところには、10月以降、金融機関からの勉強会などの依頼が数倍に増えている。加藤氏によると「マイナス金利解除でどういう短期市場になるかの意見交換」をしており、3階層になっている当座預金の扱いや先行きの利回り曲線(イールドカーブ)などがポイントになっている。

通常は資金の出し手となっている金融機関でも、一度、取り手になってみるという動きはみられるという。ただ、2006年の量的緩和解除やゼロ金利解除時に比べると「今局面は、当座預金に付利が付いて、かつ3層になっていることから、金融機関が資金繰りを行う体制は維持されており、事務的な面での混乱は起きにくい」とみている。

<収益寄与は政策金利変更後>

日銀はすでに長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化に動き、金利も動き始めているが、金融機関収益に対しては「YCCはあまり関係ない。政策金利が変わることが一番大きい」(みずほフィナンシャルグループ・木原正裕社長)という。

三菱UFJフィナンシャル・グループの亀澤宏規社長は「資金収益が落ちる中で、収益の多様化、経費構造見直し、リスク・リターンの改善をしてきた。それが成果を出し、マイナス金利前と同じ業務純益に戻った。ここから金利が上がるとプラスになる」と、今後に期待感を示す。

三井住友フィナンシャルグループの伊藤文彦最高財務責任者(CFO)は「コストをかけずに預金獲得に対応していきたい」と語り、スマートフォンのアプリで口座管理やクレジットカードなどの金融取引を一体化したサービス「オリーブ」を国内戦略の中核に据える。各社とも国内での預金獲得に力を入れる。

三井住友銀は、マイナス金利が解除されると資金利益で約300億円のプラスになると試算。三菱UFJ銀は、マイナス金利の解除・10年利回り1.0%などを前提として資金収益を500億円押し上げるという。みずほ銀は、マイナス金利が解除されれば資金収支で350億円のプラス、短期金利をはじめ一律で0.1%金利が上がると平均500億円のプラスになるとしている。

マイナス金利解除、そしてプラスの政策金利という世界に向けて、大和証券の山本氏は「人員は増やしたい。商品開発部隊を作りたいと思っている。金利系も為替系も、プライベートアセットもいくらでもニーズは出てくると思う」と話す。

みずほ銀行の30代行員は「金利のない世界で入行したので、できることが増えるのではないかとワクワクしている」と話す一方で「これまでなかったリスクが膨らむ可能性がある」と、未知の世界に向けて気を引き締めていた。

(清水律子、山崎牧子 編集:石田仁志)

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