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これまで銀行の新業態として、通信キャリアやECサイト事業者、コンビニなどが「ネットバンク」や「コンビニATM」として新しい銀行サービスを手掛けてきた。海外の状況は一歩先を進んでおり、デジタルウォレットやSNS、一般企業のWebサイトとの融合なども始り、この新しい銀行の業態は「デジタルバンク」と呼ばれている。本記事では、デジタルバンキングの定義や現状、注目される理由、市場規模予測、今後の展望などを解説する。
監修:小俣 修一 構成:山田 竜司
小俣 修一(コマタ シュウイチ)
1979年、慶大大学院修了。 地域金融機関の企画部門に勤務後、コンパックコンピュータ、NTTソフトウェアを経て2005年アカマイ・テクノロジーズ社長、米国本社ヴァイスプレジデント、日本法人会長を歴任。16年ニッキン特別顧問、20年12月みんなの銀行社外取締役に就任。
欧米のデジタル・バンキングの事情に精通。国内の金融機関からデジタル戦略をテーマに、数多くセミナー依頼を受ける。
※本記事は、2020年11月20日のニッキンプレスセミナーでの講演内容をもとに再構成したものです。
「デジタルバンキング」とは何か?
デジタルバンキングとは、金融デジタル技術(フィンテック)により、365日24時間、企業システムやモバイルアプリなどで振込や送金などの銀行業務操作を行う銀行業務処理を指す。すでにインターネット専業銀行(ネットバンク)やオンラインバンキングは存在しているが、デジタルバンキングは「銀行(金融機関)以外の事業者も金融サービスを提供している」点が従来とは大きく異なる点となっている。
デジタルバンクは、デジタルで「銀行」を再デザインし、優れたUI/UXで商品・サービスを提供するものだ。さらに今までのネット銀行とは違い、「銀行ビジネス」そのものを再定義し、デジタルネイティブなアプローチで銀行としての新たな機能を創造していくものである。デジタルバンクとは「ネット経済でのバリューチェーンにも対応した金融サービスが提供できる」銀行のことなのである。
デジタルバンキングを提供する事業者は「デジタルバンク」と呼ばれる。そして、ネオバンクやチャレンジャー・バンクといった新たなスタイルの事業者が登場し、市場をけん引している。この流れに対抗するため、自らデジタルバンクへの移行を目指す既存の伝統的金融機関も少なくない。
伝統的金融機関は、時代の変化や技術の進展を背景として、その姿を変容し続けてきた。古くは支店内取引を対象とした手書き帳簿から始まり、1960年代後半からは「機械化」に対応した「エレクトロニックバンキング」となり、他店との即時取引が可能になった。また、1990年代後半にはインターネットに対応した「オンラインバンキング」が登場し、支店外との即時取引にも対応した。
「デジタルバンキング」は、2013年頃に登場したとされている。フィンテックを活用することで「場所や時間、取引窓口を選ぶことなく銀行取引を可能」にしている。つまり、デジタルバンキングによって、銀行から見た取引の視点がチャネルからアクセスへ変化したとされる。日本の動向は、先進的な動きを見せる国と比べて3~4年ほど遅れているとも指摘されている。
この動向は、「実物経済」と「ネット経済」の現状からも説明ができる。オンラインバンキングとデジタルバンキングとの間には、大きなパラダイムシフトが起きているのである。デジタル経済の軸足が「実物経済」から「ネット経済」へ移行しているのだ。
実物経済は、「価値」と「価格」が見合った関係にあったが、ネット経済では必ずしもそうではない。
たとえば、世界最大規模のタクシー事業を展開するUberは一台もタクシーを所有していないし、世界最大規模の宿泊先提供業者であるAirbnbは一軒も宿泊施設を持っていない。さらに、大規模小売店であるAlibabaも在庫は持っていないなど資産価値の考え方や売上の捉え方が違うし無料のサービスが横行するなど、「価値」と「価格」の関係性が変化している。
金融機関つまり銀行業務も例外なく、こうしたパラダイムシフトの影響を受けている。現在では、365日24時間のリアルタイムで取引可能な「ネット経済」のバリューチェーンに対応した金融サービスが求められているのである。
これに従来タイプの伝統的な銀行が対応するための手法とは何か? それは、パラダイムシフトによって喪失する「3点」、具体的には支店への来店がメインだった「顧客接点」、手数料無料の圧力を受ける「役務収益」、ネット展開による「地域概念」の喪失をデジタルバンキングへの変貌によって克服することが求められているのである。
デジタルバンキングへの移行を実現する方法
ここからはデジタルバンキングに移行するためには何が必要になるかを解説していこう。
まずシステム面では「デジタル基盤の導入」が必須となるが、このデジタル化には「基本的なデジタル化」と「戦略的なデジタル化」の2種類を意識する必要がある。
基本的なデジタル化とは、従来のビジネス基盤をデジタル基盤に切り替えることを指す。支店網やコンタクトセンターなどにおいてデジタル技術を活用することで自社のビジネスモデルを変革するとともに、RPA(Robotic Process Automation)なども活用して顧客に対する業務や作業手順を「デジタル・ヒューマン化」することだ。
デジタル・ヒューマン化とは「無機質なAIやチャットボットとのやり取りに対して、人間味のあるコミュニケーションを表現することで、デジタル技術を活用して実際の人間対応も含めた新しい接客を目指す」ことを指す。
一方、戦略的なデジタル化は、顧客接点を確保・強化するDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することを指す。たとえば、クラウド上のAPIを通じて外部データを取り込み、ビッグデータを解析する「スマートデータベース」を構築し、それを活用することが挙げられる。また、独自のAPIによる戦略的エコシステムを構築して他行差別化できる役務利益を創出しながら、地域概念を再構築するデジタルイノベーションの実現を目指すことである。
しかし、「実物経済における金融」として精緻に構築されてきた伝統的な金融機関が、デジタルバンクへ変身するためには大改革が必要であり、最終的には「デジタル化の文化の醸成やDNAの確立」も求められるだろう。
注目される理由は、「ニューノーマル」時代の到来
スマートフォンの普及により、ユーザーはその手元でオンラインショッピングを利用し、時間や場所を選ばずに買い物ができるようになった。また、「おサイフケータイ」などのデジタルウォレット機能によってモバイル決済が日常的なものとなり、それは「○○ペイ」と呼ばれるサービスの登場によって後押しされている。
現在、多くの企業が目指しているのがスマートフォンアプリの「スーパーアプリ化」である。スーパーアプリとは、企業が提供する機能を単にアプリとして提供するだけでなく、さまざまな機能をミニアプリとして利用できるプラットフォームとなるアプリのことだ。
スーパーアプリに金融サービス機能を載せることができれば、ユーザーにとって利用価値が一気に向上する。また、企業は自社のブランドで統一したUXやUIのアプリで利便性を提供できる。また、多くのユーザーを取り込むことで、ユーザーの趣味嗜好や行動パターンなども把握できるため、最適なタイミングで自社の商品やサービスを提案することも可能になる。
自社アプリに金融サービス機能を載せるためには、いくつかの選択肢がある。「銀行と提携してサービスを提供するネオバンクになる」「銀行機能をクラウドサービスとして提供するBaaS(Banking as a Service)を利用する」、あるいは「自ら銀行業務のライセンスを取得する」などである。
しかし、システム的な制約から伝統的金融機関がその対象になることは少ないため、デジタルバンク化しないとビジネスチャンスを逃してしまう可能性がある。特に、コロナ禍によりネット経済が実物経済を超え、加速したネット経済はコロナ終息後も日常的なものになると予測される。つまり、人々の生活におけるリアルとデジタルの比重が逆転した状態が「ニューノーマル(新常態)」となる可能性が高い。
その場合、従来型の銀行はネット経済のバリューチェーンに対応できるデジタルバンクに変貌しないと生き残れる可能性は低くなる。こうした背景から、さまざまな業界の企業からもデジタルバンキングが注目されているのだ。
アジア太平洋地域が市場の6割を占め、中国がけん引
デジタルバンキングの市場規模は、スマートフォン市場においてデジタルバンキングのサービスが提供できる地域が対象になる。とはいえ、現在ではほぼすべての地域でそうしたサービスが提供されているため、非常に大きな市場規模がすでに形成されている。
特に地域で分けた場合は、アジア太平洋地域が全体の約6割を占めており、この地域をリードしているのは中国である。たとえば、中国人民銀行の2016年における現金以外の支払い取引は1,251億1,000万ドルを超え、金額は530兆ドルを超えるという調査結果が出ている。
今後、ネオバンクやチャレンジャー・バンク、BaaS利用事業者の増加、あるいは従来のタイプの銀行がデジタルバンク化していかざるを得ない状況を考慮すると、ますます市場は拡大していくと考えられる。
デジタルバンキングのプレイヤーたち
デジタルバンキングを提供するプレイヤーには、ネオバンク、チャレンジャー・バンク、そして従来タイプの銀行(伝統的な金融機関)がある。ネオバンクとチャレンジャー・バンクは、銀行業務ライセンスを取得しているかどうかが大きな違いとなっている。
国別で見ると、英国では政府が推進してきたことを背景にチャレンジャーバンクが多い。米国はフィンテックのスタートアップが多いことから、ネオバンクが多く存在する。
米国のいわゆる「GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)」は自ら銀行免許を取得しないものの、着々とデジタルバンキングへの布石を打っている。
たとえば、グーグル(Googleは)新しいGoogle PayとしてPlex accountを発表。すでに米国でCitiグループを中心に11行とデジタルバンキング・サービスを開始し始めた。また、ゴールドマン・サックスはMarcusを利用してアップル(Apple)にクレジットカード決済・無担保ローンを、アマゾン(Amazon)に出店社への限度額100万ドルまでの融資提供を行っている。フェイスブック(Facebook)は問題を引き起こしたLibraを改訂しDiemによってNovi Financialによるデジタル・ウォレットを使ったチャット・バンキングを世界展開しようとしている。
中国においては、大手IT系企業である「BAT(バイドゥ<Baidu>、アリババ<Alibaba>、テンセント<Tencent>」のうち、AlibabaがMyBank、TencentがWeBankを立ち上げている。Alibabaはデジタルウォレット「Alipay」を提供している。また、中国最大のソーシャルメディアであるウィチャット(WeChat)も「WeChat Pay」を提供しており、中国での2大サービスとなっている。
ネオバンクとは「銀行業務ライセンスを取得せず、既存の銀行と提携することでオンライン上でさまざまな金融サービスを提供するスタートアップのフィンテック企業」のことを指す。
ネオバンクは提携した銀行に対するAPIを構築し、預金や決済、キャッシュフロー管理などのモバイル利用を中心とした金融機能を提供する。実店舗を持たず、アプリを中心としたオンラインのみでサービスを提供する形態を取る (コロナ禍の中、トランザクション量を中心にビジネスを追求してきたネオバンクやチャレンジャーバンクは資金不足に苦しみ、新しい観点からの銀行本来業務を追求することが必須となっている) 。
以下、世界各国の主要なネオバンクをまとめた。
【次ページ】ネオバンクの事例、国内外のデジタルバンキング事例を紹介
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