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決済や送金を中心に、eコマース、金融、メッセージング、デリバリー、ライドシェア、宿泊予約などの機能がひとつのアプリに統合されたWeChatやAlipayなどの「スーパーアプリ」は中国で圧倒的な支持を受けている。だが、米国ではプライバシーやセキュリティの懸念から普及しないと言われてきた。ところが今、ペイパルやグーグルがスーパーアプリの立ち上げに動いている。どのような機能を持ち、成功の可能性はどれほどか。ペイパルが発表したスーパーアプリ計画を、同アプリと競合となるグーグルの「Plex(プレックス)」と比較しながら、予想を試みる。
グーグル銀行「Plex」が先行するも……
米国におけるスーパーアプリ立ち上げで先行するのは、GAFAの一角を占める巨人のグーグルだ。大手シティグループやスタンフォード大学連邦信用組合(SFCU)など11行と提携し、普通・当座預金の口座開設、デビットカードの発行、Google Pay決済、個人間の送金、利用データ分析に基づくサービス・商品提案、人工知能(AI)予算ツールの提供、利用ポイント加算などが単一アプリで利用できるPlex(当初の「Cache」から改名)を今年中に立ち上げる計画だ。
Plexスーパーアプリでは、ペイパルのVenmoに似た個人間(P2P)の送金機能のGoogle Walletが統合されるほか、「食事の注文」「ガソリン給油」のボタンが設けられ、それぞれ10万軒のレストランや3万のガソリンスタンドで注文・給油と支払いがPlex上で完結する。
ユーザーは、登録したクレジットカードあるいはGoogle Payで、支払いができる。加盟店からの優待キャッシュバックは、Google Payのアカウントに入金される仕組みだ。また、決済履歴を基に、優待や割引のオファーが表示される。
さらにPlexアプリにはQR・バーコードスキャナーが付属しており、任意の店舗で見つけたお気に入りの商品のコードをスキャンし、Google Shoppingを使ってその商品が最もおトクな価格で購入できる加盟店を特定した上で、Plexによる注文や決済までをシームレスに行うこともできる。検索の王者グーグルだからこそ提供できる機能である。
またPlexには、家計管理のパーソナル・ファイナンシャル・マネジメント(PFM)機能が付属しており、スマホで撮影した領収書やGmailアカウントに送られたレシートを自動的にPFMがスキャンして読み込み、カテゴリー別に家計簿にまとめてくれる。
現在発表されている機能だけを見ても、大変優れもののスーパーアプリであることがわかる。検索データや消費データが、金融データと融合して解析されるという、新しいカタチのBanking as a Service(BaaS)、すなわち「サービスとしての銀行」の誕生である。グーグルは、金融機関にそのテクノロジーを販売するベンダーとなるわけだ。同社には月間10億人のアクティブユーザーがおり、このビジネスは有望である。
しかしグーグルは同時に、「ユーザーから信用されていない」という致命的な欠陥を抱えている。グーグルはPlexで得られた金融データを販売しないと主張しているが、データ販売を行った過去はよく知られており、個人データ5200万人分という巨大規模の漏えいで批判されたこともある。いかに便利であってもユーザーたちが、最もプライベートな金融情報を、信用度の低いグーグルに渡すかという問題が横たわる。そこに着目し、「安全」「信頼」をウリにしようとするのが、ライバルであるペイパルのスーパーアプリだ。
「信頼」という武器で戦いを挑むペイパル
ペイパルは2月11日に、投資家向けのバーチャル説明会を開催した。この中でダン・シュルマン最高経営責任者(CEO)は、この先3~5年の経営計画を詳細に説明。その中期計画で核心的な重要性を持つとされるのが、「(Plexに遅れて)この先1年半から2年の間にリリースする」と同氏が述べたペイパル版のスーパーアプリである。
シュルマンCEOは名指しこそしなかったが、明らかにグーグルやフェイスブックの金融サービスに対する消費者の信頼の欠如を意識したセールストークを展開した。曰く、「スーパーアプリの受容には信頼が必須」「ペイパルのスーパーアプリ(デジタルウォレット)は、安全で信頼できる」「高いセキュリティとプライバシーを誇るペイパルブランドに対する信頼の上にスーパーアプリを展開する」「ペイパルは、未来の金融システムの重要な一部になる」など、「信頼」がキーワードとなっていたからだ。
確かにグーグルと比較すると、ペイパルにはスキャンダルが少ないように見える。2000年代初めにペイパルのユーザーのアカウントがハッキングされたり、詐欺行為の標的になったり、2010年代には顧客の同意なしにユーザーを勝手にクレジット口座に登録するなどの悪評は立ったが、一連のグーグルの「オウンゴール」のように信頼を本質的なレベルで損なうものではなかった。ペイパルはグーグルの最大の弱点を見抜いた上で、自社への信頼を最大限に活かし、未来の金融のデファクトスタンダードになろうとしているのである。
スーパーアプリは、マーケットプレイスのイーベイの決済子会社という存在からペイパルが2015年に分離独立して以来、シュルマンCEOの壮大なビジョンと強烈な個性の下、イノベーションを重ねてきた集大成となる。この社運をかけたプロジェクトの下準備として、2020年だけでも、QRコード決済、購入代金の後払い制度の導入、決済アプリVenmoのクレカ発行、ビットコインなど暗号通貨を1ドルから売買・保有できる機能など、スーパーアプリ構築に向けた動きを矢継ぎ早に繰り出してきた。
米国みずほ証券の上席アナリストであるダン・ドレフ氏はバーチャル説明会を受けて、「私見ではあるが、ペイパルは世界で最高のスーパーアプリになる」と評した。では、ペイパルのスーパーアプリはPlexとの比較において、どのような違いがあるのだろうか。
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