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  • 2017/01/19 掲載

政府デジタルサービスとは何か? デザイン思考の政策形成でオープンガバメントを磨け

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企業のIT化の重要性は経営者の間に浸透し、こぞってIT戦略を立案・実行しているが、いま世界各地の政府では「電子政府」から進んで「政府デジタルサービス」に向かっている。デジタル化と同時に政策形成のやり方もデザイン思考に変え、オープンに政策形成をしようという動きがある。英国では、政府が政策デザイン・ラボであるPolicy Labを設立し、デザイン思考によるオープンな政策形成を進めている。東京大学 公共政策大学院 客員教授 奥村 裕一氏と英国 Policy Lab 上級政策顧問ベアトリス・アンドリュース氏が世界のデザイン思考の政策形成の歩みを解説する。
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電子政府を乗り越えられるだろうか
© Rawpixel.com– Fotolia


「電子政府」と「政府デジタルサービス」「オープンガバメント」

 スマートフォンの登場でネットがより身近になり、特に意識することなく情報にアクセスできる。情報は誰にでも手の届く場所にある。そんなICTの進化と普及は、私たちの意識やライフスタイルを確実に変えている。しかし、それがなかなか波及しない分野がある。たとえば、行政だ。

 区役所で受けるサービスを考えてみよう。私たちは、戸籍謄本や住民票の写し、印鑑証明書が必要になれば、窓口に出かけて行って、数十分(あるいは何時間)かけて目的の書類を発行する。電話よりもメールやチャットがメインのコミュニケーションツールになっている現代、この効率の悪さは信じ難い。プロセスが電子化されて、どこからでも申請や書類の発行ができれば、自宅のPCから行政サービスを利用することもできるだろうに。こうした行政サービスのIT化、いわゆる「電子政府」の議論は日本でも2000年頃には始まっている。

 海外では、「電子政府」からサービス思考を強調した「政府デジタルサービス」に移行し、「単に法律を改正して実行する」という従来のプロセスを見直して、サービスの受け手となる人の行動を分析することで、多様化、複雑化する社会に合った政策立案を効率よく、効果的に行う試みが始まっている。さらにデザイン思考を積極的に取り入れて政策形成プロセスを変え、「オープンガバメント」に磨きをかける新しい政策形成手法の導入の動きがある。

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東京大学
公共政策大学院
客員教授
奥村 裕一氏
 日本においても、東京大学公共政策大学院および行政情報システム研究所により、オープンガバメントと市民参加型公共改革の推進を検討する「仮想政府セミナー」が開かれている。2016年12月7日に行われた第12回は、「オープン政策形成:デジタル時代における政府の政策決定プロセスの新しいアプローチ~英国政府に学ぶデザイン指向による政策形成~」と題された。同イベントは東京大学公共政策大学院 客員教授 奥村 裕一氏による講演「デジタル政府におけるオープン政策形成の意味」で幕を開け、英国 Policy Lab上級政策顧問ベアトリス・アンドリュース氏による基調講演とパネルディスカッションが行われた。

 ここでは、奥村氏、アンドリュース氏の講演を中心に、「デザイン思考」とは何か、デザイン思考の考え方を政策形成のプロセスに導入することで何が起きるのか、デジタル時代の行政について模索していく。

オープンガバメントに磨きをかける「デザイン思考」

 一般に、何か形のある「もの」を作るとき、どういうものができるのかイメージしながら作っていく。建物、都市、製品、ポスター、インタフェースデザインなど、利用者はどういう人か、何のために利用するのか、どういうシーンで利用されるのかを思い描き、それを設計図であったり、プロトタイプであったり、具体的に形にすることで周囲とイメージを共有し、あるいは実際に試してもらい、それを元に議論してさらに作っていく。

 このように、
ユーザー(および環境)をリサーチする
 
問題を発見する
 
問題を解決するアイデアを形にする (プロトタイピングする)
 
ユーザーテスト・評価する

というフローを繰り返し、より洗練された成果物を作り出すのが「デザイン思考」だ。

 ものの価値として機能や形よりも体験が重視される今、形あるものだけでなく、サービスやビジネスの意思決定などにも導入されているアプローチだ。

デザイン思考による政策形成のプロセス

 デザイン思考によるオープンな政策形成(オープン政策形成)のプロセスにとって大きな要素となるのが、デザイン、データ、デジタル技術の3D(Design、Data、Digital)である。

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英国 Policy Lab
上級政策顧問
ベアトリス・アンドリュース氏
 アンドリュース氏によると、人間中心のデザインは複雑な問題に対処でき、変革につながるアイデアを効率よく形にできる。それによってコストを節約できる。また、統計やアンケートのような従来のデータ、ソーシャルメディアデータ、ビッグデータなど、膨大な量のデータをコンピューター技術を用いて迅速に分析することで、予期しないパターンやインサイトを見出すことができる。より多くの人々の意見を理解し、アイデアを集めるという点で、デジタル技術は非常に有益なツールになる。より効率的でアクセスしやすいオンラインサービスの構築、サービスを継続的に改善するためのデジタルデータの作成でも活用できる。

 デザイン思考によるフロー、データの力、そしてデジタル技術の3つを思考や行動をサポートする道具として上手く活用し、融合することでより利用者の現状、ニーズにフィットする政策を作っていくのだ。 デザイン思考のポイントはいくつかあるが、1つは人間行動の「なぜ」を追及する人間中心主義だ。それにデータは、徹底したファクトを提示してくれる。両者をうまく組み合わせて社会の実態をつかむ。それをデジタル技術があらゆる面で支えてくれる。

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政策形成の3D; Design、Data、Digital
(アンドリュース氏の講演資料より)

 デザイン思考でキーになるのは、ユーザー(サービスの受け手)の受け止め方に注目し、ユーザーとその体験を重視することだ。ユーザーを知るための手法には「エスノグラフィ(Ethnography)」を用いる「ジャーニーマップ」がある。

 エスノグラフィは文化人類学のフィールドワークで採られてきた手法で、あるコミュニティの中での人の行動をモデル化する。観察して収集したデータを分析し、価値を見出すというもの。ジャーニーマップは、個人の行動プロセスを時系列でストーリーとして描くマーケティング手法でもある。ユーザーの時系列の行動を明確にすることで、抱えている問題を特定し、解決方法を明らかにする。

 エスノグラフィやその応用の一例のジャーニーマップはインサイトや課題を明らかにするだけではなく、複数人での共同作業にも非常に有益だ。その多くはワークショップの形式で(ときにはターゲットとなるユーザーを巻き込んで)行われ、プロジェクトに関わる人たちの間で認識を共有することができる。

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Policy Labにおけるオープン政策形成のプロセス
(アンドリュース氏の講演資料より)

 課題をとらえインサイトを形成し、課題を解決するアイデアをまとめ、ソリューションを作り、ユーザーに使ってもらう。レビューの結果を反映し、再度課題をとらえ直し、インサイトの精度をあげていく。それに従ってソリューションを改善する、という流れを繰り返していく。

 オープン政策形成では、人間行動の視点からデザイン思考の方法で政策形成を改善していくというのがポイントだ。

【次ページ】英国政府が設立した政策デザイン・ラボ Policy Labとは?
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