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ビジネスの世界では「人工知能」というキーワードをよく見かけるようになった。この人工知能のひとつが「大規模データ解析」の賜物である、「機械学習」を応用しているものだ。実はこの「機械学習」は、本当に知能と呼べる代物なのかというと、なんともよくわからない。人間の思考と人工知能のあり方の違いを考えることで、「これからの社会を生き抜くのに必要な力」が見えてくる。
ビズリーチやグノシーが用いる「機械学習」とは何か?
少し前まで、ちょっとイケてるウェブサービスをローンチする際に添えられていた「ソーシャル」という言葉。最近ではこれに代わって「人工知能」という言葉が添えられることが増えてきた。
例えば
3月に東証マザーズ上場すると発表したニュースキュレーションサービス「グノシー」だ。知識工学における、機械学習と呼ばれる研究分野の一つで、「教師あり学習」と呼ばれる手法を応用したものだ。これは「膨大なマッチング先候補の中から、いかに最適なものを選んでくるか」ということを最大のテーマとしている。
同じく、急成長する人材紹介ネットメディア企業のビズリーチが満を持して2014年4月にグランドオープンさせた転職サイト「キャリアトレック」。1年も経たぬうちに会員数10万人を突破させたキャリアトレックの公式サイトには「独自開発した人工知能が高精度であなたにマッチした仕事をレコメンド」との記載がある。
同サービスではどのように人工知能が使われているのか。ユーザーがたくさんの求人情報を閲覧して、ひとつひとつに「気になる」「気にならない」という判断をつけていくと、「そのユーザーが気になる特徴」をより多く備えた求人情報がより優先して選別されていく、という仕組みのようだ。
つまり「レコメンドエンジン」が「自分の好み」を捉えてくれるまで、ポチポチと地道に数多くの案件に対して評価していけば、こちらの好みにあった案件を向こうから提示することができるようになる、というわけである。
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ビズリーチのプレスリリースによると、2015年2月5日時点で、キャリアトレックへの掲載求人数は17,000件、利用企業数は4,000社とのことだ。この数字だけを見てしまうと、レコメンドよりもむしろ通常の検索機能さえあれば十分な規模であり、現段階では、大袈裟で迂遠な機構なのかもしれない。こう言ってしまうと身も蓋もないが、逆に言えば、機械学習という手法がこれほどまでに期待を集めているともいえる。そもそもこうした事態が起きていることそのものが、人工知能という研究分野において、快挙と言っても過言ではない。
「機械学習」とは、一種の逆転の発想によるブレイクスルーであった
実は人工知能研究の歴史とは、苦難の歴史そのものだ。例えばウィキペディアで「エキスパート」のページを引いてみると、「欠点」の項目には「エキスパートシステムは、その原理(知識工学)が70年前からあったにも関わらず、成功は限定的だった」という、なんとも慎ましい記述がある。
エキスパートシステムとは、医者やエンジニアなど、専門家が行う思考をコンピュータに覚えさせて、その仕事を代行させようというものである。エキスパートシステムの研究は、進めば進むほど、その実現の「不可能性」が顕在化していった。一言で言えば、「人間の思考や判断には、原則や規則はあるが、常に例外が存在する。例外があるだけならまだしも、原則同士や規則同士が互いに矛盾していることもある。その矛盾や例外も包括するような論理体系を、コンピュータ上で再現するのは極めて難しい」ということだった。
現在注目を集めている「機械学習」というアプローチは、AがインプットされたらB、CがインプットされたらD、という入力と出力の間の相関関係を、論理的に導くのではなく、大量の統計データによって擬似的に再現しようというものだ。
エキスパートシステムは人間の思考そのものを機械の上で再現することを目指し、大いなる挫折を味わったわけだ。機械学習的なアプローチはそれを根本的に放棄しており、言わば「逆転の発想」なのである。
筆者自身も、大学の専門課程では推論エンジンをテーマに卒業論文を書いていた。2006年当時、人工知能系の研究分野は、現在のような華やかなものでは全くなかった。現在の活況を考えると、たった10年とはいえど、隔世の感がある。それにしても、まさかこの「逆転の発想」がここまで社会に大きな影響を及ぼすことになろうとは、当時まったく思っていなかった。
【次ページ】例外を見抜き、適切に処理をするための思考法は、いまだ機械化されていない
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