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2050年には地球の人口は約90億人になるといわれている。都市に人口が集中し、エネルギー・温暖化・食糧・水といった問題が深刻になる。効率の良い社会インフラを実現できなければ、世界は立ち行かなくなるだろう。一方で、日本は少子高齢化が進み、税収も減っていく方向だ。そのような状況でも社会インフラをしっかり支えなければならない。世界ICTサミット2014に登壇したNECの遠藤信博氏は「社会インフラを効率良くするにはICTの力が必須です。これは、まさにデータサイエンスの領域に入ってくるもの。ビッグデータによって、どんな価値を生み出せるのか、データ収集や分析手法、そのためのプラットフォームについて論じたい」と述べた。
データサイエンスによって、効率の良い社会インフラを構築する
NECは中期経営計画で、社会ソリューションに注力していく目標を立て、それらをICTの観点から実現して行く方針だ。では効率の良い社会インフラを構築するためには、具体的にどうしたらよいのだろうか?
「それは、あらゆるデータをうまく活用し、効率性を上げていくことです。我々は自社の中にICTアセットを擁しています。ICTアセットで重要な点は、コンピューテイング・パワーと、ネットワークのブロードバンド化、それらを使い切ったITです。もちろんNECが提供する社会インフラには多くのICTが活用されており、交通分野・エネルギーマネジメント・植物工場・医療などの分野で価値を生み出しています」(遠藤氏)。
遠藤氏は、データサイエンスの価値をICTを通じて取り出すために、まず価値そのものがどのようなところから生まれるものか?という点について言及した。第一に「大量に集まることデータから見えてくる価値」があり、第二に「過去の蓄積されたデータから推定の力を利用して見えてくる価値」があるという。
まず大量に集まることデータから見えてくる価値について、「表面的に見えるデータではなく、その裏側にある隠れた“Implicit”なたくさんのデータを集めることで見えるものがあります」(遠藤氏)という。一例として、同氏はクルマのワイパーの情報について挙げた。ワイパーのデータそのものはオン/オフ情報だ。しかし使用の有無だけでなく、動作速度や位置情報などのデータを絡めると、雨がどこでどのように降っているかということもわかる。同様に工場全体で温度・気圧・振動などの情報を把握することで、操業時の安全バランスを理解できる。「ひとつのデータでは全体が見えなくても、大量データを集めると、隠れた価値をなす場合もあります。これがビッグデータの大きな価値なのです」(遠藤氏)。
一方で蓄積された大量データから見えてくる価値もある。これは従来の演繹的なアプローチからのケースだ。あるデータから法則を見つけ、方程式やアルゴリズムを作り出し、現状のデータを入力することで将来を予測できる。現在のように大きなコンピューティングパワーが得られる時代には、過去のデータすべてを使い切り、さらなる精緻な未来を予測することが可能だ。工場には匠の技を持つ人たちがいる。彼らは機械の調子を判断しながらチューンナップして、均一な品質の製品をつくりだせる能力を有している。
遠藤氏は「最近では、将棋の対局で棋士がコンピュータに負けてしまうこともあります。これは、演繹的なアルゴリズムで推定するソフトウェアの考え方から、帰納的なアプローチに変わってきたからです。すべての棋譜を持ち、現状と照らし合わせながら、どのような手を打てば一番有利かという観点でソフトウェアをつくれるようになったのです。コンピュータが棋士に勝てるということは、すなわち匠に近づいてきたことに他なりません。我々は過去のデータをフルに使うことによって、匠に近づける時代がやってきたのです」と説明する。
同じことは医療現場の名医と呼ばれる匠にもいえることだ。彼らは、自分の知識・経験から、問診や状態をベースに、患者の状態や処置法の答えを導き出せる。一方、医師になりたてのインターンは知識や経験も浅く、そういうことは不可能だ。しかし、彼らに過去のビッグデータを提供すれば、名医と同等の力を持てるようになるかもしれない。
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