- 2008/10/01 掲載
【多根清史氏インタビュー】日本の産業や文化に巨大なインパクトを与えたゲーム機たち(2/2)
――サテラビュー、ディスクファクス、PSBB、eDistribution、CELLと、本書には家庭用ゲーム機の歴史とともに、家庭用ゲーム機におけるネットワーク的な志向の歴史も語られています。そのほとんどが失敗に終わっているわけですが、家庭用ゲーム機はどうしてみんな外へ外へと広がろうとしてきたのでしょうか?
多根氏■スタンドアローンが成功したら次はネットワークを、と思うのでしょうね。たくさん普及した台数を武器にして、インフラまわりを握ろうとするのは自然の原理です。ただ、悪い意味ではなく、技術者というものは常に2歩先、3歩先を見ているわけで、それにユーザーがついていけなかったんでしょうね。
技術者たちからしてみれば、決して早すぎるものだとは思っていなかったのでしょう。諸外国を見渡したとき、日本もネットワークを志向するのは必然である、と早くから彼らは考えていたのだと思います。ただ、それを任天堂一社であったり、ソニー一社でやったりすることには限界があった。たとえば、フランスは国から補助金を出してインフラを整備しネットワークを構築していったのですが、日本はそういうことをしてこなかった。反面、そうやって国と関わりを持たなかったことによってゲームは発想を自由に伸ばすことができ、それがゲーム機の繁栄を謳歌する基礎になったのだと思います。国に関わらせなかったからこそ、ネットワーク事業は失敗し家庭用ゲーム機はスタンドアローンとして繁栄していったのでしょう。
『日本を変えた10大ゲーム機』 |
――国が下手に干渉してくるようになったら、自由な発想が許されなくなる可能性がありますよね。
多根氏■ゲームに関しては「ゲーム脳」なんてことを言われたりして叩かれたりしますけど、国が関わっているテレビなんかについてはそういうことを言われないわけじゃないですか。放送事業は国家に守られているからマスコミもそういうバッシングはできないんです。それに対してゲームは国家とのかかわりが薄い分だけ叩かれることもあるのですが、叩かれても生き抜いていく生命力があるからこそ、スタンドアローンとして繁栄してこれたのだと思います。
――まさにそういう意味ではゲームとはサブカルチャーなんですけど、こんなに巨大な規模のサブカルチャーもないですよね。
多根氏■サブカルチャーの生命力を持ったメインカルチャーですよね、ゲームって。自力で成長してきたんですよ。大人たちからは冷たい目で見られて蔑まれてきながらも、それをバネにして成長してきたのが今の家庭用ゲーム機なんです。
――インベーダーからWiiに至るまで、本書に取り上げられている通り、ゲーム機の歴史はほぼ30年と考えていいと思いますが、この短い間にソフト、ハードともとんでもない成長を遂げているわけです。ゲームがここまで成長を遂げたうえで、この後さらに大きなイノベーションがあると思われますか?
多根氏■僕としてはPS3にはぜひとも成功してほしかったんですよ!(笑) ゲーム機の歴史は、その時代にそれほど求められていなかった半導体やCD-ROMなどの新しい媒体を取り入れて、その産業の発達を引き上げてきた側面があります。PS3が成功していれば日本経済への波及効果も大きかったでしょうし、日本の素材産業に対するリーダーシップさえとれるものだと思っていたんですよ。でも、先ほどのネットワークの話とも重なるのですが、先を見すぎていたために一般大衆がついてこれなかった。ポピュラリティが必要とされる家庭用ゲーム機としては、先進性が毒になってしまったのです。
――PS3はブルーレイを搭載したスーパーコンピュータという触れ込みで発売されましたが、苦戦のあげく今は家庭用ゲーム機に回帰しようとしています。他方で任天堂のWiiはリビングのテレビを内包するような形で一般家庭に普及した。家電としてWiiは成功しているわけです。さらにDSは教育用商材としても注目を集めている。つまり家庭用ゲーム機は遊びの文化の体現者だったのですが、今はその“遊び”の要素がかなり薄まっているような感じがします。
多根氏■ただ、そうやってゲームは家庭の中心に入り込む術を身につけたわけです。今は停滞期というより成熟期だと思いますよ。今まで敵対してきた家庭とようやく手を組んで、携帯なみのインフラになりつつある。そこからまた新しいものが始まっても不思議ではない。これがすべての始まりである、とも言えるのではないでしょうか。
DS本体はそれほど機能が高くなくても、その背後にあるサーバはいくらでも進化できます。たとえば、今流通しているパソコン用のゲームは数年前の低スペックなパソコンでも遊べるものがほとんどで、実はその後ろにあるサーバが進化しているんです。だからDSがこれだけ普及した現状はこれからのゲームの進化の可能性を秘めている状態であり、これはこれでひとつのゲームの進化の形であると思います。
――家庭にゲーム機が完全に入り込んだ現在が、実は紀元00年である、ということですね。本書に書かれている家庭用ゲーム機の30年の歴史は、実は紀元前の話である、と(笑)。
多根氏■そうですね。今まで何度も失敗してきたネットワークとの融合も、ようやく親和性を持つことができるようになってきました。これで家庭と家庭用ゲーム機が本当に仲良くなったわけです。今まではスタンドアローンとして家庭用ゲーム機単体が末端肥大的に機能を高めていくほかなかったのですが、現在はゲームのあり方が転換していく時期なんだと思います。これはけっしてゲームの崩壊ではありません。
――今、ゲームの世界は任天堂とSCEのほぼ独占市場のような形になっています。XBox360のマイクロソフトも頑張ってますが(笑)。今後、セガのようなメーカーが新しい家庭用ゲーム機でこの市場に参入してくるような可能性はあるのでしょうか?
多根氏■独自のゲーム機で参入してくるというよりは、今あるプラットフォームを利用してやる、というメーカーが出てくるんじゃないでしょうか。たとえばグーグルにしても特定のハードに依存せずにどのハードも広く薄くカバーすることによって「全部俺のハードだ」と言っているわけじゃないですか(笑)。
この本にも書きましたけど、今はPS3とXBox360で同じゲームが遊べるようになっている。サーバを介することによって違うハードを使っていても同じゲームで対戦したりすることができるわけです。こうしたマルチプラットフォームと呼ばれるハードを共有するソフトのあり方が今後広まっていくと思います。
――今はパラダイムシフトの真っ只中にあって、本書はその前史にあたる部分をまとめたもの、ということになりますね。ゲーム界の旧約聖書みたいなものですか(笑)。
多根氏■そうですね(笑)。PS3の登場により、家庭用ゲーム機は一段落ついてしまったんです。PS3の今の状況を見て、新しいハードを出そうとするメーカーは現れないと思います。PS3のスペックを活かした凄いソフトが現れても、ユーザーがついていけるかどうかはわからない。PS3は素晴らしいハードですけど、戦艦大和が大艦巨砲主義に終止符を打ったような感じです。
――本書で取り上げられている家庭用ゲーム機は第二次大戦中の戦車みたいなものとも言えますね。ゴツい形といい(笑)。まるで戦記を読んでいるような感触がありました。
多根氏■それでいてどんなに素晴らしい戦車でも空爆にはかなわないんですよ(笑)。
●多根清史(たね きよし)
フリーライター。三国志からガンダムまでオールラウンドで活躍中。著書に『宇宙世紀の政治経済学』(宝島社)、『プレステ3はなぜ失敗したのか?』(晋遊舎ブラック新書)など多数。
最新刊『日本を変えた10大ゲーム機』(ソフトバンク新書)発売中。
ブログ:SIZUMA DRIVE
(執筆・構成:大山くまお)
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