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- 2024/01/26 掲載
HAPS(ハップス)とは何かをわかりやすく解説、期待集める「空飛ぶ基地局」の破壊力
“空飛ぶ基地局”「HAPS」とは何か?
その中で、無人航空機などを基地局として利用する次世代通信インフラとして期待されているのが「HAPS」だ。HAPSを活用すれば、4Gや5Gといった地上系ネットワークが届かない離島や山間部などにおいても専用端末を用いることなく、一般的なスマートフォンで会話やデータのやり取りが可能になる。
国内外の情報通信業界で15年以上グローバルビジネスに携わり、無線通信技術に精通するPwCコンサルティング ディレクターの小林峰司氏は、HAPSに注目が集まる理由を次のように語る。
「大容量データの伝送ニーズが高まる中、従来からのGEO(Geostationary Earth Orbit:高度3万6000kmの静止軌道)による衛星通信では、地上との距離が要件を満たす上で技術的に大きな制約になります。これを受け、LEO(Low Earth Orbit:高度2000kmまでの低軌道)の利用が広がっていますが、地球全体をカバーするには数千台もの人工衛星が必要となるため、実現はコスト的に容易ではありません。HAPSはこの中で、現状のカバーエリアの“穴”を埋める現実的な策として注目を集め、グローバルで研究開発が進められているのです」(小林氏)
HAPSと衛星通信は何が違うのか?
航空機を用いるHAPSでは、ロケットの打ち上げが伴う衛星通信よりも技術リスクがはるかに低い。加えて、高高度にあるため、通信カバーエリアが1台で半径100kmと、地上基地局の半径数km~十数kmより格段に広いというメリットもある。さらには通信衛星に比べれば非常に低高度のため、伝送遅延は片方向で0.3ミリ秒にまで抑えられる。
一般的に通信衛星は打ち上げ後、10年以上の利用が想定されている。そこで悩ましいのが、宇宙空間に存在するがゆえメンテナンスを行ったり、最新技術を物理的に導入したりすることが難しいという点だ。対してHAPSは着陸時のメンテナンスにより、最新技術をタイムリーに取り込めることが強みとなる。
成層圏の長時間飛行により“途絶えない”通信を
HAPSの実用化に向けて鍵を握るのが、基地局を搭載する無人航空機、いわゆるHAPS機だ。国内外においてHAPSの商用化が進み、「空飛ぶ基地局」として成層圏の無人航空機を活用して、地上との通信ネットワークを実現する高高度の通信基地局プラットフォームの構築が期待されている。HAPS機の開発は現在進行形で進められており、宇宙通信の構成要素としての商機の大きさを踏まえ、グローバルの“超大手”が挑戦している。
国内でもテストフライトにおいて、成層圏でのLTE通信によるビジオ通話に成功したり、飛行と通信の実証実験を実施したりしているところもある。
「HAPS機は通信を維持し続けるため、可能な限り長時間飛び続けることが望ましい。そのため機体開発の方向性としてはとことん軽量化し、翼に配備したソーラーパネルでモーターの電力を賄ってプロペラを動かすという手法が主流となっています。現在、時速100km前後で約2カ月の連続飛行が可能なことが各種実証により確認できています」(小林氏)
HAPSが「成層圏プラットフォーム」と呼ばれるのも飛行時間と無関係ではない。成層圏とは高度10~50kmの地球の上空を指し、HAPSの無人航空機はいずれも高度20km前後を飛行する。それには次のような理由がある。
まずは、空気密度が非常に希薄なことだ。地上と比べて約1/20とされ、それだけ飛行時の空気抵抗が少なく、エネルギー消費を抑えられる。 加えて、気候が安定していることも大きい。成層圏では太陽の紫外線をオゾンが吸収し、高度が上がるほど気温が上がり、逆に低高度になるほど気温が低くなる。その結果、高度20km前後は空気の対流が生じにくいためである。
「HAPSの高度は、その点でも絶妙なのです」(小林氏)
HAPSが地上と通信する3つの形態
では、HAPSでは地上とどう通信するのか。基本的な形態は次の3つだ。- (1)地上のコアネットワークとの接続のない基地局/地上局とHAPS機との通信
- (2)地上のコアネットワークとの接続がある基地局/地上局とHAPS機との通信
- (3)スマートフォンやIoTデバイスなどとHAPS機との直接接続
HAPSでは発信側と受け手側の状況を踏まえたそれらの組み合わせにより、従来では困難だった通信を実現する。
たとえば、冒頭のカバーエリアの穴を埋める「通信バックホール」を実現するのが(1)~(3)の組み合わせだ。これにより離島や山間部などのへき地、通信インフラが被害を受けた被災地などで通信が実現する。
一方、モバイル通信での新たな用途開拓で期待を集めるのが(3)だ。(2)と組み合わせた航空機や船舶向けの大容量インターネット通信のほか、広域IoTサービス、可搬基地局を用いた建築現場などでの一時的な産業ネットワークの整備などが現実のものとなる。
これらから分かるとおり、HAPSは既存のモバイル通信ネットワークと連携して機能する。逆に言えば、HAPS単独でのサービスは現時点では想定されていない。
「移動通信システムの国際標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)が『5G NTN』の初期仕様を策定し、NTNが近い将来、地上のモバイル通信インフラにシームレスに取り込まれるとの方向性が固まりました。NTNの中で最も低高度のHAPSは、地上と空との一番の“つなぎ”となるはずですが、利用者側がそのことを意識することはありません。通信全体のインフラの一部として、気づかないうちに使っていたという、いわば黒子のような存在になるはずです」(小林氏) 【次ページ】HAPSが地上と通信する3つの形態 【次ページ】これから本格化する「HAPS利用のルール策定」のポイント
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