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- 2023/05/09 掲載
産総研の辻井潤一フェローが「他国と同じAI研究開発は意味なし」と語る理由
AI開発で掲げた「ある目標」
NEDOがAIの研究開発を本格化させたのは、次世代AI技術と革新的ロボット技術の研究開発プロジェクトに着手した2015年にさかのぼる。政府が「人工知能技術戦略会議」を設置する前年のことだ。以来、NEDOではテーマを変えつつ研究開発プロジェクトを推進してきた。辻井氏は当時の状況を次のように振り返る。
「ちょうどAIが幾度目かのブームを迎えた頃、巨大ITベンダーの力で米国が大きく先行し、中国がその後を追っていました。とはいえ、似たものを作っても意味がなく、日本としての独自AIをどう開発していくかが最初の課題でした。同時に、国内産業のAIによる競争力の維持/強化への意識も必然的に求められました」(辻井氏)
最初期のプロジェクト(2015年~2020年)で掲げた目標は、極論すれば「米国型開発スタイルの否定」であると辻井氏は話す。
米国の巨大ITベンダーはそれまで、巨大計算機からデータ、技術者、マーケティング部門など、研究からビジネスまで必要なリソースを1社で丸抱えし、AIの進化とビジネスの好循環で開発を進化させてきた。
「ただ、知的検索やターゲティング広告などを中心とした当時の米国のアプローチでは、AIの将来的な応用範囲が限定されかねないと危惧されました。そこで着目したのが、日本が強みを持つセンサーやロボットなどとの融合です。センサーが目や耳、ロボットが手足として機能し、それをAIで制御する。これなら、米国とはかなり違った方向に進むと考えました」(辻井氏)
なぜ「日本型の手法」を貫いたのか
研究開発の手法も日本型を目指したという。先行する米国のグーグルやアマゾンなどは事業会社として大量のデータを保有する。しかし、日本でデータを持つのは現場企業で、ITベンダーにはデータが極めて乏しい。「そもそも論として日本はやり方をまねできません。である以上、オープンな研究開発の体制作りが不可欠でした」と辻井氏は打ち明ける。こうした経緯で生まれたのが「実用化の好循環を生むエコシステム」だ。「実験しやすい規模のデータストアをきっちり作り込むこと」(辻井氏)で、「基礎研究・先端技術研究開発」「先進情報モジュール研究開発」「次世代AI共通基盤技術研究開発」の3層への参加を促す。最終的に、データ取得・認識・推論技術、センサーやアクチュエーターなどの多様な要素技術の研究開発を通じて、世界初を含む研究成果を多く創出し、10社以上のスタートアップの誕生にもつながったのだという。
2018年から2023年にかけては、AIによる社会課題の解決を目指す「スマート社会実現」プロジェクトを実施。実装過程での技術レベルの向上と、社会のフィードバックサイクルの実現を目指した。
そこでの気づきは、「AIの社会実装では核となるエコシステムが不可欠」な点だと辻井氏は話す。AIはピンポイントでは効果的に機能する。だが、応用の利きにくくさ(学習に要す時間や難度)が普及の足かせになっているということだ。
こうした課題意識は2020年に立ち上がり、2025年まで実施予定の「共進化AI」プロジェクトに反映されている。同プロジェクトで掲げられた研究テーマは、人間中心のAI社会に向けた、「容易に構築できるAI」「実世界で信頼できるAI」「人間と協調できるAI」の3つだという。 【次ページ】今後のAI研究における「3つの課題」とは何か
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