「Web会議が重い」も即解決。VDI環境のパフォーマンス問題、シンプルすぎる解決策とは
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リモートワーク環境の三大課題
コロナ前のリモートワークといえば、何がしかの事情で出社できない社員のための環境だった。そのため、外部から仕事ができる環境を簡易的に用意していた企業がほとんどだったが、コロナ禍で多くの人々がリモートワーク環境を経験する中で大きく3つの課題が見えてきた。まず、最もよく聞かれるのは、リモートワーク時のPCパフォーマンスの低下だ。Web会議で音声と映像がずれるなど、PCパフォーマンスの低下を避けるために、カメラをオフにして音声のみで会議に参加するといった応急措置は、誰もが一度は経験しているのではないだろうか。
Web会議以外でも、ExcelやPowerPointなどのMicrosoft OfficeアプリケーションやWebブラウジング、動画再生、eラーニングもCPU負荷が上がり、画面がカクカクしたり表示が遅いなど使いづらいという声が多い。これらのリモートワーク時のパフォーマンス低下は、データセンターでVDI環境の基盤を利用している場合に特に問題になりやすい。
また、リモートワーク環境をVPN(仮想専用線)で整備している企業も多い。ノートPCにVPNソフトを入れて、自社ネットワークをダイレクトに延伸する場合は、パフォーマンス以外の課題が浮上する。これが2つ目の課題、セキュリティだ。万が一、PCがウイルスに感染していることに気付かずにVPN接続をしてしまうと、機密情報のある社内ネットワークに脅威を拡散してしまうセキュリティ上のリスクがある。
3つ目の課題は、ハイスペック環境が必要となる業務のリモートワーク移行だ。CADなどを用いる、ハイスペックな固定席にある物理ワークステーション(以下、WS)環境が必要な研究開発職などでは、そもそもリモートワークのハードルが非常に高い。このような職種の人々は、コロナ禍でもわざわざオフィスに出向いて仕事をすることを余儀なくされてきた。
PCパフォーマンス・生産性の低下、セキュリティの懸念、移動できない固定席への対応……こういった課題を解決し、誰もがいつでも、どこでも、どんなデバイスでもセキュアに同じ働き方が可能なワークスペースを構築するには、どうすればよいのだろうか?
リモートワークの生産性向上で「仮想GPU」がカギを握るワケ
その答えは意外にもシンプルで、GPU(グラフィックプロセシングユニット)がカギを握っている。コンピュータにおける「グラフィックスと計算の頭脳」といわれるGPUは、リアルタイム画像処理に特化したプロセッサの印象が強いため、従来はCADや3DCGなどを扱う専門職のためのものというイメージがあった。だが、昨今のアプリケーションの進化により、一般的なオフィスユーザーが日常的に使う生産性アプリケーションのGPU使用時間は2015年以来、2倍以上に増加している。Windows10以降、PCやスマートデバイスにGPUが標準搭載されるようになったことからも、オフィスユーザーにとってもGPUは必須となっていることが分かる。今後移行が進むWindows 11でもGPUリソースの必要性は高まることが予想される。
「ところが、VDIなどの仮想環境では、データセンター側にGPUを用意していないことが多いです。GPUがないと、GPUの役割もCPUが担う必要があり、CPUに大きな負担がかかってしまうのです。これが、リモートワーク時のパフォーマンスが全体的に劣化してしまう根本原因です」と指摘するのは、エヌビディアの後藤 祐一郎氏だ。
つまり、VDI環境にもクライアント端末と同様にGPUが必要なのに、データセンター側にGPUがないためにCPU負荷がかかり、パフォーマンス低下を引き起こしているのだ。こういった実態を、SIerやメーカーがあまり知らないことも多いという。
「データセンター側にGPUを採用すると、普段使いのWeb会議や動画再生はもちろんのこと、高性能な処理が求められるCADやCAE、3DCGやレンダリング、BIMやCIMなどのソフトウェア、そしてAIのフレームワークなど、VDI環境で十分な性能を引き出せるデジタルワークスペースを実現できるようになるのです」(後藤氏)
これは、GPUのメモリを仮想的に分割して複数台の仮想マシンに割り当てて、GPUの高いコア性能を効率的に利用することができるエヌビディアのテクノロジー「NVIDIA vGPU」(仮想GPU)が実現してくれる。このvGPUをVDI環境に適用した「vGPU-VDI」によって、VDI環境でもグラフィックスや計算性能だけでなく、全体的なPCパフォーマンスを向上させることができる。GPUを仮想的に分割して利用することで、高い性能をコスト効率良く利用することができる。
vGPU-VDIは、サーバに搭載したGPUメモリを仮想的に分割し、複数台の仮想マシン(VM)でGPUのコア性能を効率的に発揮する。そのため、社内にあるすべてのPCやWSを仮想環境に移行し、データセンター内の仮想デスクトップにユーザーが色々な場所から一斉にアクセスしても、パフォーマンスを落とさずにリモートワークが可能になる。
もちろんVDIなので、クライアント側のユーザーPCには画面のみを転送する形になり、データセンター内のみでデータの書き込みや読み込みを行えるため、ファイルアクセスの高速化や、懸案事項だったデータ保護・セキュリティも強化することが可能だ。
VDI環境でGPUあり/なし比較、なんと5年で1億円の差
では、「GPUなし」と「GPUあり」では、どのくらいパフォーマンスに差が出るのだろうか。VDI環境で比較すると、「GPUあり」のほうがCPU負荷を最大60%低減でき、画像描画のFPSも5~25フレームアップするため、Web会議だけでなく、動画再生や3D表示、Webブラウジング、オフィスアプリ、テキストスクロールまで、全体のパフォーマンスを万遍なく向上させることが分かる。これまでエヌビディアは、スタンダードからミドルレンジ、ハイレンジまで数多くのGPUを開発してきた。ここで紹介したデジタルワークスペースに最適なGPUとしては、先ごろ本格的に販売が開始された「NVIDIA A16」が筆頭に挙げられる。
A16は、グラフィックスや計算処理よりも、オフィスの一般ビジネスユーザー向けに特化したVDI環境のサポートが主眼になっている。1280コアを持ち、最大64GBのメモリを搭載できるため、これらのリソースをシェアしながら、同時に3000VMのVDIサーバを用意すると、サーバ1台あたり最大128VM(ユーザー)を集約できるので(A16×2枚使用時)、24台のサーバで済むことになる(GPUなしではCPU負荷が高く、サーバ1台あたり70VM、43台のサーバが必要)。
集約率が上がると、用意すべき物理サーバの台数が少なくなり、サーバの設置スペースや保守費用、ネットワークスイッチやケーブル、監視ポイントや運用作業費用などの合計コストの低減や電力の削減など全体のコスト効率向上につながる。このケースでは、5年間で1億円ほど削減できる試算だ。
トヨタは出社を余儀なくされていた開発部門のリモートワーク環境をどう構築した?
最後に、エヌビディアのvGPU-VDIを利用して環境構築をした2社の事例を紹介しよう。まずは岐阜県庁の事例だ。同庁では行政サービスのオンライン申請やチャットボットを活用した行政相談サービスに加え、職員の柔軟な働き方を支えるテレワーク環境やWeb会議などの基盤整備が不可欠と考えていた。新庁舎への移行に伴い、PCでの議会中継やWeb会議を行うために、よりグラフィックス処理性能を高める必要があったという。
そこでA16の前身となる「Tesla M10」を採用し、1GBのvGPUを割り当て、Web会議やテレワーク環境を構築した。在宅勤務では自宅PCから閉域網経由でアクセスし、VDI環境を利用できるようにした。
もう1つはトヨタ自動車の事例だ。同社はコロナ禍以前の2016年から、約1万3000人の従業員にリモートワーク制度を順次拡大してきた。ただし、ハイエンドCADを使っている設計・開発部門は、通常のVDI環境で業務をするにはパフォーマンス面で課題があり、自席に設置されたWSを利用せざるを得なかった。働き方改革だけでなく、DXを推進するには、どこでもハイエンドCADの利用が可能な環境構築が急務だった。
そこで同社では、エヌビディアのvGPUを採用し、サーバに搭載されたGPUを仮想的に分割、複数台の仮想ワークステーションを1台のサーバに集約させた。初期段階からエヌビディアと検証を進め、現地・現物にあわせてテストとチューニングを繰り返し、課題を解決していった。
これによりCAD VDIに置き換え、いつでもどこでもノートPCで設計・開発が行える環境を実現した。今後はさらに性能アップを図り、CADのハイスペック化と処理負荷の高いデザインやCAEなどもVDIで実現する方針だという。
後藤氏は最後に「DX時代には、いつでもどこでも生産性を向上できる環境が求められています。パフォーマンスを上げ、なおかつセキュアで安心して使えて、利用デバイスのスペックに依存しない環境が、今後のデジタルワークスペースに欠かせない条件といえるでしょう」と強調する。
エヌビディアでは、テクノロジーを通して企業における主要業務の効率化を支援し、空いた時間を活用して新たな取り組みやアイデアを高められるような戦略的な環境を提供すべく、今後も多くのパートナーとともにデジタルワークスペース環境を改善していくという。