ITエンジニアからの「キャリアチェンジ」は可能?後悔しないための仕事選び7つの要点
『科学的な適職』著者 鈴木祐氏らが徹底討論
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コロナ禍でITエンジニアの転職市場はどう変わったか
そもそもコロナ下でITエンジニアの転職動向はどういう状況なのか。typeを運営するキャリアデザインセンターの平本氏は、同社調査によると、「ITエンジニアの転職市場はコロナ禍にもかかわらず活発な状況」と話す。新型コロナの影響が出始めた2020年2月~2021年2月の間で、type上に掲載されたITエンジニアの求人数の推移を見ると、はじめこそ求人数が減少したが、6月を底に回復基調に入り、10月には元の水準に戻り、2021年2月時点では昨年2月の1.1倍の水準を保っている。
「1度目の緊急事態宣言が発令されて求人数が下がり、4~6月は低迷しました。しかし、その間に企業がオンライン面接に切り替えるなど、ウィズコロナの採用活動ができるようになり、そこからは右肩上がりで求人数が戻っています。DX推進ニーズや、リモートワーク増により、セキュリティ関連のニーズが高まったことも背景にあります」(平本氏)
また、ITエンジニアの有効求人倍率は2.5倍~3倍辺りを推移しているが、一時期多かった「未経験可」「経験が浅くても可」の求人数は一気になくなったそうだ。代わりに、20代後半~30代のエンジニア経験者を求める中堅層の求人が増えており、この層だけに着目すると有効求人倍率は約7倍で、企業の採用熱は非常に高い。
コロナ禍で変化したITエンジニアの転職志向
一方、「年収アップの高待遇で迎えてもらえる求人も多い中、条件面“以外”を重視するITエンジニアの方が増えてきています」と平本氏は話す。「安全・安定志向」「本質追求志向」「プライベート重視志向」「社会貢献志向」の4つが、ITエンジニアが重視する要素だそうだ。「安全・安定志向」については、「ITニーズは高止まりの状況ながらも、コロナの影響で一部の案件はストップしたり、経験が浅い人の求人が一気になくなったため、自分のスキルに不安を覚えたという声が上がっていました」と平本氏がいうように、単純な大手企業志向だけではなく、中期的に見たときに自分の市場価値を気にする人が増えたと言えそうだ。
また、「本質追求志向」と「プライベート重視志向」は、リモートワークが増えたことにより、自分の時間を何に使うのかを見直した、家族との時間の大切さを再確認したことがあったそうだ。
「社会貢献志向」は、コロナによる世界的な危機を目の前にして、自分が仕事を通じて社会に対して何ができるのかを考えるようになったということだ。転職の際には、企業のビジョンに共感できるかどうかを気にするITエンジニアは増えており、コロナの影響が見て取れる。
キャリアチェンジを考えるITエンジニアは約2割
このような転職市場の中で、キャリアチェンジ、つまりエンジニア以外の職種への転職に着目すると、どのような状況なのだろうか。「売り手市場のITエンジニアでも、キャリアチェンジを希望する方は一定数います。typeのデータでは、全体の約2割の方がエンジニアではない職種に応募しており、年代別でみると、20代のキャリアチェンジ志向はもう少し高いと思います」
その2割の人たちは、どういう職種に応募しているのか。再びtypeのデータによると、「ITコンサルタント/プリセールス」が39%で最も多く、次いで「営業/ビジネスコンサルタント」(22%)、「企画・マーケティング・クリエイティブ系」(17%)、「事務・管理部門系」(9%)と続く。
一方、本来「キャリアチェンジ」という言葉からイメージするような、エンジニアとはまったく関係ない、未経験可の営業や事務の求人にチャレンジするケースや、独学で得た知識をもってクリエイティブ系にチャレンジするケースもある。
ここで、サイエンスライター・作家の鈴木祐氏は、海外のキャリアチェンジ動向を紹介した。自らを「ざっくり言うと論文オタク」と自称する鈴木氏だが、ある時期からキャリア論や人間の幸福をテーマにした論文を読みあさり、2019年には『科学的な適職』(クロスメディア・パブリッシング刊)を出版している。
「先進国のデータで見ると、全体的には皆さんキャリアチェンジしまくっている、と言えます。しかも、年々キャリアチェンジの量が増えているのです。さらに言えば、キャリアチェンジしまくっている人のほうが、相対的に収入も生産性も高い傾向があります。その理由は、さまざまな経験を積んで、それをミクスチャーで生かせることが大きいと言われています」(鈴木氏)
SBクリエイティブで、主にIT系に技術書やデザイン関連書を出版している&IDEA編集部の編集長をつとめる岡本晋吾も、ITエンジニアから編集職へ転職した経験があり、キャリアチェンジにはポジティブだ。
「ITはあらゆる業種の中に入っていますので、ITエンジニアの経験はどこでも生かせるのではないかと感じています。現在は2割程度というお話でしたが、キャリアチェンジという選択肢への意識が希薄だった人もいるのではないでしょうか」(岡本)
仕事の幸福度を決める「7つの徳目」を満たすには
ではどのようにすれば自分に合った適職を見つけられるのだろうか。鈴木氏は次のように説明する。「『科学的な適職』の中で、仕事の幸福度を決める『7つの徳目』というのを紹介しています。これはキャリア論というよりは、ポジティブ心理学の論文を見ていく中で、多くの文献で人間の幸福度に作用すること言われている7つの要素です」(鈴木氏)
- 「自由」
自分で仕事の内容や勧め方、スケジュールなどを決められる裁量があること。 - 「達成」
マイルストーンを決めてコツコツと仕事を進め、達成できること。 - 「焦点」
自身のモチベーション特性と仕事、両者の焦点が合っていること。 - 「明確」
やるべきタスクが細かく明確に分かっていること。 - 「多様」
1つの単調なタスクではなく、さまざまなタイプの仕事ができること。 - 「仲間」
職場の人間関係が良好で、心理的安全性が確保されていること。 - 「貢献」
自分が誰かの役に立っている実感を得られること。
平本氏は、「こういう徳目を、できるだけ満たす職場を選ぶことはできると思います。ただ、自己分析をまったく行わなかったり、企業のリサーチも上辺だけだったりすると、これらは満たせないと思います」と回答。そして、「7つの徳目の中には、自分がコントロールできるものと、コントロールしづらいものがあると感じました」と続けた。
平本氏の見立てでは、「自由」「明確」は企業分析によって、「達成」「焦点」は自己分析によってコントロールできる余地が大きくなる。半面、「多様」「仲間」「貢献」については外的要因に依存するためコントロールがしにくいということだ。「コントロールできない可能性が高いものに関しては、あまり考え過ぎず、割り切ることも重要」と平本氏は指摘した。
仕事の幸福度を大きく左右する「上司」に気をつけろ
ITエンジニアから編集者へのキャリアチェンジを経験した岡本は、なぜ編集職を選んだのかを次のように振り返る。「マジメな学生ではなかったので、あまり勉強せずに社会に出ました。就職して、ITエンジニアとしての壁にぶつかるわけですね。仕事ができない、と。そこで自分なりに学習しようと考えたときに、一番手頃な学習ツールとして書籍があり、実際とても助けられました。もともと本が好きだったとこともあり、キャリアチェンジを考えたときに、僕のように困っているエンジニアや、他の何かを学習をしようとしている人にとって役に立つコンテンツを作ることが仕事にできると嬉しいと思って編集職を目指しました」(岡本)
先ほどの7つの徳目でいうと、自分の中で満たせている感じるものはあったのだろうか。「自由、達成、貢献は、編集職においては満たされていると思います。企画はゼロから自分で作っていくので裁量と自由度は高いですし、1人の上司から評価されるのではなく、売れたかどうかが評価になりますので、達成感や正当な評価というものも感じやすいと思います」(岡本)
この話を受けて鈴木氏は、仕事の幸福度に一番影響を与えるのが「上司」だと指摘した。「7つの徳目の中でも、自由、達成、明確、この辺りは上司の裁量にかかっている部分がかなりあります。上司の影響力が大きいということは、どの研究を見ても言えることなのです」と話し、岡本の言葉を裏付けた。
キャリアチェンジ後の職業をいかに自分の「適職」にするか
7つの徳目のどれを満たすにせよ、キャリアチェンジ先の仕事がどうか、企業がどうかも大事だが、自ら能動的に「適職にしてやろう」という意識や行動も重要だ。その具体的な方法として、平本氏は「求められるミッションを強めに意識すること」とアドバイスする。キャリアチェンジする前と後では、ミッションも大きく変わるからだ。
また、キャリアチェンジの場合は前職の経験をフルに生かせないため、ほとんどの場合はパフォーマンスが落ちる。そのため、「パフォーマンスのレベルをキャリアチェンジ前の水準にもっていくまでの期限を決める」ことが必要だと平本氏は話す。
「そうしないと、『キャリアチェンジしてよかったんだっけ?』という不安が付きまとって、仕事の満足度が下がり、適職とは程遠いものになりかねません。期限を決めたら、それまでの間は、上司や、自分と似た経歴の先輩がいれば、その人と話す機会を設けて、フィードバックしてもらうことで、満たされていくのと思います」(平本氏)
岡本は、「僕自身は10年かけて適職だったと気づいていきました。職や会社はなかなか変えづらいですから、先ほど平本さんが話されたように、コントロールできることとできない外的要因を分けて、コントロールできる部分を少しずつ自分の意に沿うように変えていくこと。また、相手に求めるだけではなく、自分自身も変わっていくことが大事だと感じます」と述べた。
鈴木氏は、「会社に入った後はポジショニングも大事です。経済学に比較優位という考え方がありますが、一人一人は万能である必要はないのです。自分が優位に立てる『分野』を見つけて、そこに収まって力を発揮していけるかどうかが、キャリアチェンジ後の職種を適職にできるかどうかのポイントだと思います」とアドバイスした。
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