働き方改革「第二章」どうなる?デンソー、リクルート、コニカミノルタジャパン、経産省が激論
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第二章に突入した「働き方改革」、企業の成長に必要なこととは?
ディスカッションの冒頭で、経済産業省の伊藤 禎則氏が「働き方改革は、第二章に突入している」と発言した。伊藤氏は、経産省の人材政策の責任者として政府の「働き方改革実行計画」策定に携わり、現在では同省のAI(人工知能)・IT政策を統括している。伊藤氏によると、これまでの働き方改革実現会議では「長時間労働時間の是正」に関する議論が大半を占め、その対策が中心だったが、本来目指すべきところは「生産性の向上」にあるという。そのうえで「生産性を高めるためには、本来、いかに無駄な業務を減らして得意なことに集中するかが重要となる。働く人一人一人のエンゲージメントやモチベーション、働く喜びをどう高めるかが、働き方改革第2章の課題だ」と説明する。
さらに「企業の競争力の最大の源泉は“人材”である」と述べ、「適切なタイミングで人材投資をして、適切なタイミングで回収するという、企業と人の新しい関係性を作る必要がある。今後は、より個別最適化、“パーソナライズ”された人事が必要となり、それをAIなどのテクノロジーが実現する。一人一人の力と働く喜びを解放することで、企業がそして日本が成長する」との考えを示した。
働き方改革の近道は「スモールスタート」から
伊藤氏に続き、働き方改革を推進している企業の3人の登壇者が自社での取り組みを紹介した。コニカミノルタジャパンにおける働き方改革プロジェクトのメンバーである牧野 陽一氏は、同社のプロジェクトの変遷を紹介。2013年にプロジェクトを発足し、本社オフィスの移転を機にフリーアドレスを導入するなど社内環境からICTインフラの整備を進め、サテライトオフィス拡充やフレックス制度適用などの施策をスモールスタートで展開し、2017年にはテレワークの全社的な運用を開始している。
次に、デンソーの成迫 剛志氏が自社の活動内容を紹介した。成迫氏は「これまでとは違う新しいビジネスを創出する」ことを目的として創設された「デジタルイノベーション室」の室長として、従来の働き方とは異なる手法を取り入れている。それは、諸外国のスタートアップ企業に負けないスピード感を持つための「アジャイル開発」のフレームワークである「スクラム」の実践だ。
デジタルイノベーション室のとあるチームでは、役割や所属とは関係なく全員が対等でフラットな少人数のチームを立ち上げ、ユーザーが利用できるサービスを早く開発・実装し、ユーザーレビューを受けて改善サイクルを高速で回していく。「リモートワーク/フレックス勤務の禁止」「朝9時に全員で集まり朝礼を行う」「午後6時には業務を全て終了する」というという働き方を実践している。多くの人が思い浮かべるような新しい働き方とは真逆にも取れるが、成迫氏によると「もう元の職場には戻れない」というメンバーもいるという。
リクルートは10年ほど前から「長時間労働の是正」を始めている。同社の野口 孝広氏は「定量化できるもの以外の施策はやらないほうがいいというノウハウが自社にはあります」と語る。パフォーマンスが可視化されることが、改善のファーストステップだと強調する。仕事ができる人は、一様に自分のタイムマネジメントが主体的に実施できる人であり、無駄なことを見つけられる人がより成果を上げていることが分かったという。
また、人材活用については、時代と環境が劇的に変わっていることに気づかないと生き残れないという“健全な危機感”があるという。「これまで通用してきた手法が役に立たなくなった今、どうやって変化の激しい環境に適合していくかが重要です。各種施策はアジャイル型で進めるべきであり、スモールスタートで実践した方が成功しても失敗しても、その成果の現れ方と、学びが速いと体感しています」(野口氏)。
パーソナライズされた選択肢が成功の鍵
伊藤氏は、働き方改革のキーワードとして、「選択肢」を挙げる。働き方や学び方、生き方は人それぞれ違い、“朝9時から夕方5時まで正社員として勤務する”という従来の型通りの働き方だけではなくなりつつある。また、出産や育児というライフイベントに加えて、介護の問題が身近になっている。「その人に合った働き方をどうパーソナライズしていくか、選択肢をどう広げていくかが、政府を含めた次の課題となっています」(伊藤氏)。政府としては、会社員の副業・兼業を認める方針を掲げる一方で、フリーランスのセーフティネットやスキル向上を支援する枠組みの制度化に取り組むという。
その発言に対して、野口氏は「いろいろな選択肢を与えるパーソナライズも大事ですが、まだスキルの備わっていない人に選択肢を与えると混乱します」と応えた。同社の取り組みでは、ビジネススキルがまだ未熟な段階で自己完結の自由を与えるとパフォーマンスが落ちる場合もあったという。「働き方改革の成果とは、自律的なビジネススキルをどれだけ獲得できるかと同義だと思います」との見解を示した。
また野口氏は、人材開発会議や360度サーベイを実施してみても、弱み克服型マネジメントになりがちだと指摘する。「その人の2つ目、3つ目の強みを開発できるようなマネジメントが重要となります。得意な業務にシフトさせることで活躍してもらえる環境づくりも必要です。そのためには、人材評価に関するより多くの情報をデータベース化することも求められます」と語った。
成迫氏は、ハイパフォーマーやローパフォーマーを識別する「2:6:2の法則」を引き合いにして「組織にいる2割いるローパフォーマーは、ただ単に能力が低いわけではないかもしれません。生産性向上の鍵は適材適所ではないかと思います。自分の好きな、得意なことをやっていると働き方改革をしなくても生産性は向上するはずです」と述べる。
また、こうした人材の流動性が高いのがIT業界だと説明。「腕に自信がある人はもっと面白い仕事があったら、そちらに移っていきます。企業としては、一から手取り足取り育てることではなく、従業員の適材適所を探してあげること、またハイパフォーマーが辞めたとしても問題なく回せる経営の仕組みをつくることが重要です」と語った。
学び方にシフトしつつある「働き方改革」
テレワークを運用開始したコニカミノルタジャパンでは、運用開始後にツールや場所を準備しただけでは、多くの従業員が利用できない、身に付かないという現象が起きたという。「より多くの従業員が理解しやすいようにテレワークに特化したマニュアルを提供しましたが、アンケートの結果、自律的な人材がより多くテレワークを有効活用し、パフォーマンスを上げていることが分かりました」(牧野氏)。その発言を踏まえ、伊藤氏は、「働き方改革全般にいえる最大の落とし穴は『皆が良かれと思っていても、企業の利害と働く個人の利害がトレードオフになってしまうこと』です。したがって、会社側が個別最適化された「選択肢」を用意し、それを自らが選んだと腹落ちして納得してもらえるかが肝要です」と語った。
また「自らが選んだ選択には必ず責任が伴う」と示唆する。「個人は今まで以上によりプロフェッショナルになることが求められます。今まさに、社会人の『リカレント教育』(教育と就労の循環)が注目されています。働き方改革の焦点は、働き方そのものだけではなく、学び方にシフトしていると感じます」(伊藤氏)。
モデレータを務めた、リバーベッドテクノロジーの草薙 伸氏は「企業側は今までの規則や慣習、文化を見直して、各従業員にとって何が最善なのかを考えた選択肢を用意すること、働く人は自分でキャリアプランを考えながら自覚を持って働いていくこと、その両輪が働き方改革の本質ではないでしょうか」と総括した。
ICTインフラ全般の性能を可視化する最適な方法
生産性の向上と働き方改革の実現には、ICT環境が必要不可欠であることは言うまでもないだろう。しかし、今後のICT環境は「クラウドへの移行」「BYODを使ったモバイル活用」「Windows 10への移行」「セキュリティを担保したVDI(仮想デスクトップ環境)」など大きく変わりつつある。その中で、自社システムが正常かつ効率的に稼働しているかをどう可視化し、どう監視するかに課題を持つ企業が増えている。イベントを主催したリバーベッドテクノロジーでは、設立当初から「ロケーション・インディペンデント・コンピューティング」を提唱。ワーキングスペースやテレワーキング、海外など場所にかかわらず、どこでもオフィスで働いているときと変わらない環境を提供することを指向している。
同社では、ICTインフラ全般を対象とする多様なモニタリング製品を提供しているが、中でもあらゆる業種で利用されているのがEUEM(エンドユーザーエクスペリエンスモニタリング)ソフトウェア「SteelCentral Aternity」だ。クライアント、サーバ、SaaSに至るまで、これ1つでパフォーマンスを可視化し、性能劣化の原因がどこにあるのかを迅速に特定できる。
テレワークや社外での業務を行う際には、パフォーマンスが劣化しやすい。これをモニタリングして改善することは、従業員の生産性の向上にもつながる。また、テレワーク時に使っているアプリケーションの種類や稼働時間も正確に把握できるため、従業員の行動をチェックするツールとしても役立てることが可能だ。昨今、多くの企業が取り組んでいる働き方改革にも貢献するソリューションとして導入を検討してみてはいかがだろうか。