- ありがとうございます!
- いいね!した記事一覧をみる
ITインフラもパラダイムシフトを加速させる時期に来ている
企業を支えるIT基盤に、今大きな変化が起きている。競争力の高いIT基盤を供給する従来型のIT機能、サービスとしてのIT(=IT as a Service)は引き続き重要だが、もう1つの機能、デジタルビジネスのための新たなIT機能も必要になっている。つまり、ビジネスイノベーションやビジネスモデルの開発などを支援するITが、今求められているのだ。こうした変化に応じて、クラウド黎明期から国内でクラウドビジネスを展開するIDCフロンティアは、2016年7月、ディープラーニングのプラットフォームとして高性能なGPUコンピューティング環境をクラウドサービスとして提供することを発表した。
「次世代データセンター活用セミナー 2016」で登壇した同社の代表取締役社長 石田 誠司氏は、「今、データが爆発しています。今後ビジネスにはパラダイムシフトが起こっていくでしょう」と指摘、「ITインフラもまたパラダイムシフトを加速させるべきです」と強調した。
「その際には、間違ってもITインフラがビジネスの足を引っ張ってはいけません。IT部門はビジネス側の要求に応じて、オンデマンドですぐにシステムを送り出すことを常に考えておかなければならない。今はもうそんな時期に来ています」(石田氏)
近未来のデータセンターを象徴する6つのトレンド
まず1つ目が、ラックの概念が多様化していくという。
「コンピューティングパワーの使い方によって、個々のお客様がデータセンターに求める処理能力には、大きな違いが出てくるでしょう。その際のデータセンターは、ラックというよりも、収容効率を追求した工場や倉庫というスケールで考えたほうがしっくりきます。さらにさまざまなクラウドの構成がある中で、プライベートなのか、ハイブリッドなのか、どうアレンジすれば一番いいのかを考えていく必要もあります」(石田氏)
2つ目が、第2のクラウドシフトの波が来ることだ。
「国内のお客様ではクラウドの導入、すなわちIaaSの導入は一通り終わったのではないかと思います。今後は第2の波として、IoTやビッグデータ、ディープラーニングなどの用途でデータセンターのニーズが高まってくると見ています」(石田氏)
3つ目は、データセンターのライフサイクルの変化で、これまで15年周期と言われていたデータセンターのライフサイクルが、早く作って、早くたたむというパラダイムになってくる。続く4つ目が、AIによるデータセンターの制御であり、データセンターの自動制御がより高度化していく。
さらに5つ目が、空調レスのサーバで「いずれ、こうしたものが出てきてほしいという希望です。これが実現すればIT機器の許容温度は上がり、革命的な変化が起こるでしょう」と石田氏は語る。
そして6つ目が、データを“ためる・まわす・つなぐ”というデータセンターの本質への回帰だ。
「これまでデータセンター事業者が提供していたデータセンターは、いわば“サーバセンター”で、お客様のサーバを預かる、あるいはサーバを切り売りするというものでした。そこから今後は“本当の意味でのデータセンターになろう”というのが我々の目指す方向です。データで何をするのか、そのためにはデータをどうハンドリングするのか、ということを考えていきたいと思います」(石田氏)
ビジネスのデザインを起点に、データセンターの本質へ回帰する
真のデータセンターへの回帰を目指すIDCフロンティアは、今年に入って九州工業大学と協力し、介護分野におけるIoT活用の実証実験を開始した。介護される人ではなく、介護する職員にセンサーを取り付けて行動データを収集し、そのデータを分析することで、介護職員の動線を明らかにしようというものだ。
「給与問題や体力を使うことなどを背景に、介護職員の人たちは2025年までに37.7万人も不足すると言われています。そこでベテランの介護職員の人が、たとえば入浴の介助をするのにどんな動き方をして、どれぐらいの時間がかかっているのかを調べて、ベストプラクティスを導き出します。それをお手本となる教師データとしてクラウドに蓄積し、新人職員の人の動作のポイントポイントで模範的な動き方を教えてあげるのです。これによってスキルのバラつきを修正していくこともできるでしょう」(石田氏)
こうした仕組みが実現されれば、介護事業者は、なぜ競合他社よりも自社の職員のサービスレベルのほうが高いのかを客観的なデータで顧客に示すことが可能となる。
「データセンターの本質への回帰は、インフラのデザインというよりも、ビジネスのデザインをしっかり考えるところが起点となります。IoTといった時に、テクノロジーの話が先行しては、本当に必要なデータがすぐに取り出せないということにもなりかねません。ITインフラも、まずはビジネスから入ることが必須です」(石田氏)
そして石田氏は「これから私たちは、データセンターをどんどんデータが集まってくる集積地にしたいと考えています」というビジョンを明示する。
そのデータ集積地には、“ヨコ”の広がりと“タテ”の深まりがあるという。
「まず“ヨコ”の広がりについては、我々のデータセンターにデータを格納していただいているお客様同士のデータを突合することで、新たなビジネスチャンスが生まれるのではないかということで、既に一部で取り組みが始まっています」(石田氏)
たとえば株式売買サイトでデイトレーディングしている人は、終日家の中にいるので、ネットで水とティッシュペーパー、トイレットペーパーを大量に発注する傾向があることが分かっている。
「その際に、同じ私たちのデータセンター内で日用品のECサイトを運営されているお客様の顧客データと突合することで、何か新しい発見や予測ができるのではないか。我々はユーザーのプロファイリングと未来の行動予測が、ビッグデータ活用の中心になると考えています。それを私たちのデータセンターが支える。本当のデータセンターになるというのは、こういう意味です」(石田氏)
また“タテ”の深まりについては、先に紹介した九州工業大学との実証実験の内容が合致する。
「次々に収集されるデータによって教師データをさらにアップデートしていき、施策や判断の精度を高めていくという方向です。そこではAIを活用して、改善、改革のためのPDCAサイクルをずっと回し続けていく。この“ヨコ”の広がりと“タテ”の深まりが、我々の考えているデータ集積地としてのデータセンターの世界観です」(石田氏)
シームレスなデータ利用を実現する“Data Centric Cloud”が求められる
このIDCフロンティアのデータ集積地構想を担うコンセプトが“Data Centric Cloud”だ。データを中心に据えたクラウド、という意味である。「仮想マシンを何台立てることができるか、というデータセンターの見方はもう古いと感じています。これからは先にも述べたように、データセンターの中でさまざまなデータの突合が始まります。アナログデータもデジタルデータにことごとく変換されていく。そうしたトレンドを睨んで、これからのデータセンターは、データを中心に考えていく必要があります」(石田氏)
言い換えれば、今まで仮想マシンの拡張性が重視されていたデータセンターが、今後はシームレスなデータ連携ができるかどうかが重視されるようになる、ということだ。
最後に、Data Centric Cloudのキーファクターとして、1.DataSolutions、2.Cloud/DL/IoT,3.Network、4.Datacenterの4つを挙げ、Data Centric Cloudを支えるデータセンターも「I.C.D.C(IoT/Cloud Data Center)」として再定義する必要がある、として講演をまとめた。