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起業時に高い時価総額を付けた企業でも、何も生まずに終わっている
楠木氏:まず、ユニコーン企業について申し上げると、私はこの言葉が嫌いです。そもそもスタートアップの価値を、集めたお金で評価することに違和感があります。本来、企業の良し悪しは売上や利益で判断されるべきで、時価総額での評価は本質ではありません。
昔から起業時に非常に高い時価総額が付く企業がありますが、その後の短い歴史を見るだけでも、何も生まずに終わった企業が少なくありません。ユニコーンというのはファンドやVC(ベンチャーキャピタル)の視点で生まれた言葉で、企業の本質的な成果を示す指標ではないと思います。
次に経済が成長する理由についても触れておきたいと思います。そもそも経済成長を促すのは、人口増と戦争です。日本は第二次世界大戦後、破壊された町や資産を復旧し、人も増やせということで、経済的に大きな追い風が吹いていました。その中からトヨタやソニーといった売上が何兆円もの企業が現れたのです。
しかし今は、新たな追い風が次から次へと出てくるような時代ではありません。したがって、経営者には事業拡大に対する“明確な意図”が必要なのです。よく“日本人のやる気が落ちているのではないか”といった議論も聞きますが、日本が成熟期にあるということを直視しなければなりません。
元の話に戻りますが、企業の資金調達が売上や利益を上げるよりも簡単になっているとしたら、それは経営にとってむしろ不健全だと思います。自社の商品やサービスを必要とする人がいて、それらがきちんと売れていて、利益も出ているという状態が、その企業が世の中に対して価値を提供しているということです。
安部氏:私も楠木先生の意見に賛成で、ユニコーンという言葉は「目的」にするものではなく、永続的な事業ミッションの達成を目指している中で生まれる「プロセス」に過ぎないと思っています。したがって、スタートアップが「ユニコーン企業を目指す」というのは、目的の捉え方を間違っていると言えるでしょう。繰り返しになりますが、本来、目的にすべきは、「どんな世界を実現したいのか」「世の中や産業構造をどう変えたいのか」というような事業ミッションの実現であるべきでしょう。
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