まだ“カン”で決めてる? 人事データが実現する「令和の人材配置」と仕組みづくりとは
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激変する市場と少子化をデータ活用で乗り切る「HRテック」とは
また一方では、労働力人口の減少の影響も顕在化している。日本の労働力人口は、2020年では6400万人ほどを維持していたが、2030年にはおよそ5800万人まで減少し、2045年には5000万人、2065年には4000万人を割り込むと予測されている。すでに現在、約半数の企業が正社員の人数不足を感じているという調査もあり、この課題への対応が急務である。
こうした逆風の中で企業が勝ち抜いていくためには、「組織の力」がかつてないほど重要になる。組織としてトータルな生産性を高め、業務のパフォーマンスを高度化することで、顧客ニーズをはじめとする外部環境の変化に対応できるようになる。そのためにも、社員にとって魅力ある職場づくりは極めて重要だ。それがなければ、市場価値の高い人材を集められず、結果として競争力低下が進む悪循環に陥ってしまうだろう。
そこで今、注目を浴びているのが、Human Resources(人的資源)とテクノロジーをかけ合わせた「HRテック」だ。組織の力を高め事業成長への好循環を創出するために、今後は人事部門のさまざまな業務がデジタル化され、データにもとづいた事業戦略が展開されるようになっていく。そこで次章からは、HRテックの中でも人事戦略の要である「人員配置へのデータ活用」にフォーカスし、その必要性や実行のための要件、そして実施事例を紹介していく。
事業成長&人材育成に向けた「令和の人材配置」に必要なもの
「組織の力とは『生産性向上』と『選ばれる組織づくり』の2つをかなえることです」と語るのはSmartHRプロダクトマーケティングマネージャーの辻鷹介氏だ。同社は人事・労務の業務を効率化するSaaSや、人事データを活用した組織改善やタレントマネジメントのサービスで、大きな実績を持っている。
労働力人口の減少が続く時代には、限られた従業員数で高いパフォーマンスを発揮し、その成果により、新たに優秀な人材を引きつける好循環をつくらなければ生き残れない。辻氏は「そのためにも重要なポイントになるのが、『攻めの人員配置』です」と示唆する。
人員配置の目的は企業によってさまざまだが、大きく分ければ「事業観点」と「人材観点」、そして「守り」と「攻め」の2軸に分類できる。まず事業観点の守りは、ポストに空きが出た場合の「人員充足」、攻めは「事業成長」につながる配置を指す。一方、人材観点の守りは「離職防止」、攻めは「人材育成」となる。
もちろん重視すべき人員配置は、その時々の状況によって異なってくるだろう。しかし、今後の事業成長を最重要の課題と考えるならば、攻めの人員配置を特に重視すべきだ。この点については、すでに多くの企業も認識している。たとえばHR総研とSmartHRが2022年に実施した「人事異動・配置転換の実施」に関するアンケートでは、「人員配置の目的」は「人材育成のため」が最も多く、回答企業の70%に上ったという。
だがそうした認識度の高さにもかかわらず、人材育成につながる人員配置の施策を実行している企業は少ないことも分かっている。パーソル総合研究所「人事部大研究」によると、日本企業の人事施策の「重要度」と「実行度」をヒアリングしたところ、「最適な人員配置」は重要度が高いと認識しながら、その実行率は全体の50%以下にとどまっていたという。
辻氏はその原因として、(1)配置に必要な情報が整理されていない=人員配置の判断の根拠となる情報が、適切に管理されていない状態、(2)配置業務に時間がかかる=判断材料の収集などの業務負荷が高く、取りかかれない状態、(3)ポストの空きを埋めるので手一杯な状態という3つを挙げる。
要するに、多くの日本企業の人材配置は、「情報が整理されず」「情報収集まで手が回らず」、応急措置的な「とりあえずの配置」で間に合わせているのが実状というわけだ。これが常態化してしまえば、いつかは人材のミスマッチに起因する大きな問題に発展しかねず、従業員のモチベーションの低下や離職を引き起こす。これでは、人手不足が現在より深刻化するばかりだ。辻氏は、「こうした事態を防ぐ有効な方法が、データを活用した人員配置なのです」と強調する。
「データを活用した人員配置」の3つのメリットとその実現方法
人員配置へのデータ活用は、3つの大きなメリットをもたらすと辻氏は言う。
「具体的には、(1)従業員の状態を客観性高く把握できること、(2)配置検討にかかる時間を短縮できること、(3)配置後に効果の検証ができること の3点です」(辻氏)
また、従業員のデータを活用している企業の方がそうでない企業よりも、人員配置の成果が出やすいという調査結果もある。前出の「人事異動・配置転換の実施」に関するアンケートでは、人員配置の成果が出ている企業群と、出ていない企業群の2つに分けて、従業員のデータ活用の度合いを調べた。その結果、「十分にデータを活用できている」、または「活用できている」と回答した企業が、前者では51%に上ったが、後者ではわずか16%にとどまったという。
辻氏は「多くの場合、データ活用がうまくいっていないのは、データの収集・管理がさまざまな方法にまたがっていることに起因します」と指摘する。具体的には、データが社内に散在している。入力間違いや記載方法の不統一で、データの整理に時間がかかる。データの取得タイミングがまちまちで、連続して使える項目が少ないといったことが、スムーズで的確なデータ活用の障壁になるという。
「こうした障壁を取り除くためには、従業員データの収集・管理を一元化する必要があります。従業員データには、大きく分けて労務データと人事データがありますが、これらの情報をすべて統合できるのが理想的です」(辻氏)
SmartHRによるデータ活用で「適材適所」の人材配置を実現
「SmartHRは、労務管理、人事データベース、そして人員配置に当たるタレントマネジメントという3つの機能を持っています。ここにすべての人事関連データが集約・一元管理され、これらのデータの中から随時必要な情報を引き出して活用するというイメージです」(辻氏)
別途、人員配置用のデータベースを構築する必要はない。労務管理とタレントマネジメントがそれぞれ持っている情報が、人事データベースを介してシステム横断的に利用できるアーキテクチャーになっているからだ。このため日常的に労務管理では氏名や部署、役職などを、タレントマネジメントでは評価結果などを入れていくだけで、すべてのデータがSmartHR上で統合され、活用できるようになる。
「普段通りに仕事をしているうちに、どんどん使えるデータが増えていくので、人員配置のために新たなシステム運用の作業が増える心配はありません」(辻氏)
タレントマネジメントによる人員配置では、従業員の顔写真をドラッグ & ドロップしながら配置先を検討するといった、ビジュアライズされた配置シミュレーション機能が利用できる。また、部署の平均勤続年数や平均年齢といった統計データにも、このシミュレーション情報が反映されるため、異動の前後を比較することが可能だ。
さらに、選択した従業員の情報はすべて同じ画面上で参照できるので、モニターを見ながら全体の配置を検討するといった作業も直感的に行える。このため専門のIT知識を持たない人事担当者やマネージャーが、自分の手で操作して配置を変えながらシミュレーションするといったことも容易だ。
SmartHRの3つの機能はそれぞれ個別で利用できるが、辻氏は「人員配置のために使う場合でも、労務管理や人事データベースもセットで導入することをおすすめします」と語る。労務管理業務は、入社手続き、給与明細配付、年末調整など内容が多岐にわたるため担当者の負荷も高い。そこでまずこの業務を効率化することが、「攻めの人員配置」に向けた人的リソースを捻出する有効な取り組みとなるからだ。
「これは一見、遠回りに見えるかもしれませんが、こうして1つひとつ着実に段階を踏みながら、攻めに使える社内のリソースを捻出することをお勧めしています。これが、結果的に最短距離の進め方になると考えています」(辻氏)
<事例>データ管理の効率化で、人材配置を「考える」時間を創出
またSmartHR上に集約された従業員情報を参照しながら、配置シミュレーションを実行できるため、人員配置の検討が容易になった。スポーツに関する新チームを検討した際には、データを元にサッカー業界に詳しい人材をピックアップして登用できたと辻氏は振り返る。
現在、SmartHRの登録社数は6万社を超えており、労務管理クラウドとしては国内シェア1位を誇る。加えて人事労務システム、タレントマネジメントシステムともに99%以上の企業が継続利用するなど、顧客満足度も非常に高い。「データを活用した人員配置」の仕組みづくりに関心のある企業は、ぜひ注目してみてはどうだろうか。